高学歴、高職歴、高収入のハイスペック女性が、ソーシャルセクター(NPO・NGO)に転職する「N女」という現象。そのリアルについて、ノンフィクション作家・中村安希さんに聞くインタビュー連載も、最終回を迎えました。今回は、「N女」の取材を通して中村さん自身が学んだ、生き方、働き方のヒントについて聞きました。

会社を辞めなくても「N女」的に働ける

──『N女の研究』(フィルムアート社)の取材から中村さんご自身が感じた、将来の働き方や生き方のヒントについて教えてください。

N女のことを書いておいて何ですが、取材を通して最終的に行き着いたのは、「別にNPOに勤めなくても社会貢献はできる」ということでした。

社会貢献するには、NPOに移ったから意味のあることができるわけではなくて、または民間企業にいるから、フリーだからとか大手だからとか、そういうことは関係ない。彼女たちのように、課題を中心に動くことが大事なのだと思いました。

──「課題を中心に動く」とは?

今の会社を辞めるというリスクを取らなくても、社会貢献にはさまざまな関わり方があるということですね。この研究の大事なところですが、「N女」を追いかけていくうちに、「N女的なる人たち」の存在に気づいたことに落ち着いたと思っています。

所属先は関係ない。働いていること自体が社会貢献

──「N女的なる人たち」とは、具体的にはどんな人たちですか?

N女的な柔軟な思考と行動力で、身の回りのいろんな課題を解決しようとしている人。必ずしもNPOに勤めていなくても、自分が今やっていることで社会に何かを還元していこうとしている、そういう考え方の人たちです。働いていること自体が、実はものすごく社会に貢献しているわけで、所属先はどこかというところに垣根はないと思うんですね。

──「社会貢献したいけど何もできてないし、どうすればいいのかわからない」という人は少なくないと聞きます。でも「そう思う必要はない」と?

そう。N女たちって、一生NPOに勤めようなんて全然考えてない人たちなんです。課題解決にはいろんな方法があって、たまたま今はNPOにいます、っていう。それに、NPOで今取り組んでいる課題が解決したら、晴れて団体を解散しよう、とか、その時はまた一般企業で働きたいとか、そういう考えを持ってるんですよね。

N女たちって、もちろん「お金をたくさん稼ぎたい」と思っている人なんですよ。NPOだからといって、「やりがいがあればお給料が低くてもいい」なんてそんなこと思っていない。

そういう意味でもNPOは企業に近づいていきますし、企業にいてもCSRやプロボノや日々の業務の中で社会のためにできること、できていることはたくさんあります。今までは白か黒か黒か白かみたいなでしたが、将来の働き方という意味では、移動が可能になっていくように感じています。

NPOと企業を自由に行き来する

つまり、会社を辞めてNPOに転職しても、また会社に戻れる時代になっていくのかなと。今はまだまだ厳しい状況の方が多いけれど、段々と可能になっていくでしょうし、そうなってほしいと思います。私の親友は、非営利団体で1年ほど働いた後に一般企業に戻りましたからね。

──軽やかですね。

そうなんですよ。そういう人が増えてきたらいいなと思っています。

──働くことに対して、「こうであるべき」的な固定観念を持っていることに私自身も気づきました。でも、これからは気にせず、自由に選択していいということですね。

企業でもNPOでも関係なく、自分の納得できるやりがいや収入があってほしいし、そういうところがもっと自由になっていけばいいし、N女みたいな人達が牽引してくれるといいなあと思います。

──『N女の研究』に書かれていた「行政をあてにしない、ただし協働はする」というN女たちの共通点もとても共感しました。これは、「周囲の力は借りるけど、頼りすぎない」と言い換えることもできるのかなと。精神的に自立した考え方だなと思いました。

精神的に自立した考え方、というのはまさにその通りだと思います。それができるのも、課題を中心に置いているからです。自己保身や自己満足のためではなく、あくまでも課題を解決するために賢い立ち回りをしている。行政に依存するだけだったり、一方で「役所が悪い!」と敵対していたりするだけでは、社会全体を変えていくことはできないですから。N女のしたたかさ、見習いたいです。

──何より大切なのは、自分の目の前の課題と向き合うこと。それが結局、社会貢献につながるし、キャリアも人生もすべては自分次第なんだと感じました。またN女たちの存在は、結婚後の経済的不安や介護問題など、女性が長く働く上で知っておきたい日本の社会問題を知るきっかけにもなるのかな、と。N女的思考の人が増えるのも楽しみです。今日はありがとうございました。