Galaxy Note 7の発火はなぜ起きたか? その背景と今後を占う:山根博士の海外スマホよもやま話

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Galaxy Note 7の電池発火問題は、サムスンによる原因説明発表会をもって一定の区切りが付けられた。「本体サイズはより薄く、電池の持ちはより長く」と、年々高性能化するスマートフォンに対し、消費者からの相反する要求に応えるためには、高品質かつ高信頼性を持ったバッテリーの設計が重要であることを業界に改めて知らしめる結果でもあった。

「もう1社のバッテリーからも発火」の想定外

2016年8月に最初の発火事件が発生してから、サムスンはバッテリーに問題があるとして、採用する2社のバッテリーのうち1社の採用を停止。もう1社のバッテリーに切り替え販売を継続した。しかしそのもう1社のバッテリーを搭載した製品からも発火が相次いだことから、10月11日に全品の販売・出荷を中止。それから約3か月かけ、外部機関にも依頼して原因の追及を行ってきた。

Galaxy Note 7の発火原因を説明するD.J.コーCEO

今回明らかにされた発火の原因は、バッテリーの設計不良が主因とのこと。2社のバッテリー、それぞれ別の部位がトラブルを起こしたということで、懸念されていた本体設計の不具合ではなかったと結論付けられた。

しかしこれまでにも業界を代表するハイスペックスマートフォンを数多く出してきたサムスンが、なぜGalaxy Note 7では発火トラブルを起こしたのだろうか?Galaxy Note 7のサムスンにおける位置づけと投入時の背景が、大きな影響を与えたと筆者は推測する。

Note 7発表時にサムスンが示した自信

2016年8月2日、ニューヨークで行われたGalaxy Note 7の発表会で、サムスン電子モバイル部門トップのD.J.コー(コ・ドンジン)CEOは自信に満ちた表情で新製品を発表した。

高解像度かつ大画面、エッジ形状のスリムなディスプレイ、高速なCPU、新たに搭載したアイリス認証、第三のポインティングデバイスとしても使える高度に進化したペン。Galaxy Note 7は当時のどのスマートフォンよりも優れた、最強のスマートフォンと言える存在だった。それは製品発表会で「iPhoneに対してカメラ性能は...」などと言った、他社端末との比較が一切行わなかったことからもうかがい知れる。

他社品とのスペック比較が一切行われなかったGalaxy Note 7の発表会

初代のGalaxy Noteが登場したのは2011年9月。フラッグシップモデルであるGalaxy Sシリーズの販売の勢いが落ちる、秋口に投入されるいわば「隙間狙い」とも言える製品だった。最新のスペックを誇るGalaxy Sシリーズに対し、Galaxy Noteシリーズの売りは「大画面」と「専用スタイラスペン」であり、ニッチな層を狙った製品に過ぎなかったのだ。

しかしアップルがiPhoneを毎年9月に発表するようになり、またGalaxy Noteシリーズの販売も好調だったことから、秋のiPhone対抗モデルとしての意味合いを持つ製品へと位置付けが変わっていった。2014年秋にはフルモデルチェンジしたiPhone 6、iPhone 6 Plusに対抗し、Galaxy Note 4、Galaxy Note Edgeの2モデルでの対抗を図るなど、春先のGalaxy Sシリーズと並ぶ、秋のフラッグシップモデルとなったのだ。

当初はニッチ向けだったNote。秋のフラッグシップモデルへと位置付けが変化していった

2015年春にはフラッグシップモデルのGalaxy Sシリーズの本体設計を一新し。金属ボディーとして高級感を持たせたGalaxy S6シリーズを投入する。しかしメモリカードスロットを廃止したことや大胆なボディーデザインの変更、さらに先進国でのスマートフォン需要の鈍化などが重なり販売数は大きく伸び悩んだ。

同年秋にはGalaxy Note 5だけではなく、Galaxy S6 Edge Plusも投入するなど端末販売戦略は混迷し、通年のマーケットシェアは前年の24.7%から22.5%へと低下。2009年からモバイル部門のトップとしてサムスンを不動の世界シェア1位メーカーへと育て上げてきた、J.K.シンCEOが12月に解任される結果となった。

混迷からの再起をアピールする端末だった

そのJ.Kシン氏の代わりにトップに就任したのが現CEOであるD.J.コー氏だ。端末の研究開発部門でGalaxy Note 5などに関わった同氏をトップに置くということは、マーケティング先行ではなく、もう一度初心に戻ってユーザーが求める端末を開発していくという、サムスンの強い姿勢の表れだった。

同氏が就任した2015年12月にはすでにGalaxy S7とGalaxy S7 edgeの開発は終盤を迎えており、前任者の息のかかった端末だった。この2製品の製品発表会にはFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOが呼ばれたが、その意味は端末そのものよりも「生まれ変わったサムスン」をアピールしたかったのだろう。

Galaxy S7/S7 edgeの発表会。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOがゲスト登壇

そのGalaxy S7の後に投入されるGalaxy Note 7は、サムスン社内で「新トップ体制による、史上最強の、世界1位メーカーサムスンの名に恥じない」製品を作るという意気込みで開発が進められたに違いない。

例えばペンを本体に収納するGalaxy Noteシリーズを防水に対応させるのは難しいものだったが、Galaxy Note 7では本体の厚みをほとんど変えることなく実装した。また虹彩認証は画面ロック解除を片手操作にやや難の有る大型端末で簡単に使いたいというユーザーの声に対し、サムスンとして初めて搭載した機能だ。

ソフトウェア面では、Galaxy Noteシリーズの売りでありながらも利用される頻度が低いままのスタイラスペンを、翻訳機能やルーペとして使えるようにした。指先を補助する新たなポインティングデバイスとして使えるようにしたことで、ペンの位置づけが過去のGalaxy Noteシリーズから大きく進化したのだ。Galaxy Note 7はサムスンの真のフラッグシップモデルとなるべく、開発チームの力の入れ方は過去のどのモデルにも増して高いものだったと考えられる。

シリーズ最大のバッテリー容量を搭載していた

しかし高性能化する本体に対し、ボディーサイズは従来品と同等にするという制限が課せられる。防水にも対応したことで、本体内部のパーツの実装スペースは前モデルよりも少なくなっていく。

一方で高速なCPUやモデムの搭載は電池消費量を上げていく。Galaxy Note 7のバッテリー容量は3500mAhで、前モデルGalaxy Note 5の3000mAhから17%増やされたにもかかわらず、バッテリーの大きさはほぼ同等に収める必要があった。

Galaxy Note 7のバッテリーは前モデルとほぼ同サイズながら容量を引き上げた

年間3億台を超える端末を出荷するサムスンは、スマートフォンを製造するために納入されるパーツに対しての品質管理は厳格に行われている。端末の製造工場は国際標準化機構による品質管理マネジメントシステムの「ISO9000」なども当然取得している。製造して出荷される前の製品の品質管理がしっかりと行なわれているのはもちろんだが、その製品の中身となる各種パーツ・部材に関しても工場への納入時点抜き取り検査など厳しい品質管理が行われている。

だが今回のGalaxy Note 7用のバッテリーに関しては、容量が増えたことで、従来の品質管理を超える、より厳格な品質チェックが必要だったと考えられる。製品として出荷する前の検査も、従来と同等の検査では不具合発生を事前にチェックすることができなかったという結論になる。

「バッテリーの設計の不具合」が今回のトラブルの主因であるにせよ、それを搭載した製品が合格品として出荷されてしまったからだ。品質管理体制の不備と言ってしまえばそれだけだが、新規に開発された製品に対しては、従来の製品の管理体制を一から見直し、毎回毎回再構築する必要がこれからの新製品には求められるだろう。

バッテリー容量のアップは品質管理をより厳格化する必要があったかもしれない

2016年8月の最初の発火事故を受けて、サムスン内部での対応は早かった。販売を一時停止し、該当するロットの製品を回収。サムスンが誇る最高の端末の出荷を、発売直後に一時的に止めるという判断は「製品の販売数よりも、消費者の安全を考える」という大きな判断だった。そして不具合の原因もバッテリーにあることを早期に解明した。

今回の説明会で名前が挙げられた「A社」「B社」どちらのバッテリーの不具合が初期に判明したかは不明だが、1社のバッテリーはNG、もう1社のバッテリーは問題なし、とその時点で判断されたのだ。しかしそのもう1社のバッテリーにも不具合があったことまでは見抜くことはできなかった。

当然のことだが、世界各国の通信キャリアや販売店からは、サムスンの誇るフラッグシップモデルであるGalaxy Note 7に対しての注文が連日殺到していただろう。売れ筋である製品の出荷中止に対し、営業サイドから品質管理サイドへの突き上げは激しいものだったと推測される。

それは「早期に製品出荷を再開しろ」ではなく「原因追求を早急に行え」というものだっただろう。日々積み上げられていく市場からの注文数、工場の生産キャパ、そこから逆算された出荷再開日のリミットなど、限られた時間の中でバッテリーの不具合を発見した最初の調査は一定の成果を見せたと言える。

各社の2016年の秋冬モデルの中で最も注目を浴びるはずだったGalaxy Note 7

しかしサムスンがその時点で今回の調査にかかったと同じ時間、約3か月間の調査を行なうことができれば、Galaxy Note 7は容量を落とした別のバッテリーパックを搭載して販売を再開することができたかもしれない。だがiPhoneを含む他社のフラッグシップモデルも次々と登場するこの時期に、その英断を下すことはできなかったのだろう。

異常事態が生じた時に求められる「危機管理体制」

製品に不具合が生じたときに、どのような対策を講じるか。どのメーカーも当然ながら危機管理体制が存在し、トラブル時にはそれに応じた対応が取られる。例えば部材を2社から調達するのも、1社の製品に不具合があった時に生産に支障が出ないようにするための対策だ。

だがGalaxy Note 7に関しては、過去の経験からは予想できないほどの大きなトラブルに見舞われてしまった。とはいえそのような異常事態が生じたときにでも、それをカバーできるだけの危機管理体制が必要だった。

イノベーションのある新製品も、品質あって評価されるものだ

スマートフォンのバッテリーの発火トラブルは、他のメーカーの製品でも時たま生じてしまうことがある。だがほとんどは大規模な不具合ではなく、特定の使用条件などの元で生じたものだ。とあるメーカーの1製品のバッテリーが発火したからといって、今回のGalaxy Note 7の問題と同列に並べるものではない。

サムスンは今回の問題に対し、再発防止策を発表した。年々進化の続くスマートフォン、Galaxy Note 7の発火問題は、新製品の開発時に品質管理体制や危機管理体制なども総合的な見直しが必要であることを再考させるものとなった。次に登場するサムスンのフラッグシップモデルは「世界一安全」を売りにできる製品に仕上がっていることを期待したい。