柴田昌治 スコラ・コンサルタント プロセスデザイナー代表

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■処理業務に忙殺されたら思考停止する

仕事には必ず「意味・目的・価値」があります。これまで日本のビジネスパーソンは、そのことをあまり意識しなかったかもしれません。なぜなら、仕事は会社、とりわけ上司から与えられることが多かったからです。その段取りもおおむね決まっていました。大半の人は「いかにさばくか」しか考えなくてもすんだのです。

しかし、現実には多くの人たちが自分のキャパシティを超える業務を与えられ、「目の前の仕事をこなさないことには、どうにもならない」という切羽詰まった状況に追い込まれています。そうなると、責任感の強い人ほど行き場を見失い、心を病むことも少なくありません。最近の痛ましい例では、電通の新人女性社員の自殺がありました。

たとえ、そこまでいかなくても、残業は増える一方でしょう。そして、夜遅くまでオフィスで残業している人が、その間に考え抜いて仕事をしているかといえば、残念ながらそうではないはずです。むしろ、作業的な処理業務に忙殺され、思考停止に陥ってしまう。しかも、それが慢性化すると「考え抜く習慣」さえ失ってしまいます。

このように日本企業は、依然として多くの課題を抱えています。これは長い歴史のなかで、定着してしまったものです。物事を正確に把握して自分の頭で客観的に判断しようとするのではなく、「上司の的を当てに行く」というのもそうです。つまり「上司が好む答え」を探るクセがついている。そして、そのほうが上司からの評価も高かったことも事実です。

■上司の求める回答は必ずしも正解ではない

実は、このタイプもこれまでは「できる人」と思われがちだったのです。上司や経営陣の考えを先取りして提案し、行動すれば社内がスムーズに回るという誤解があったからにほかなりません。成功へのビジネスモデルが一定していて、そこで頑張ったら何かがついてくるという時代ならそれでもいいでしよう。けれども、ビジネスモデル自体を見直さなければならない今とでは経営の仕方は本質的に違います。

実際、こうした社員が増えるのは、会社にとって危険です。上司の求める回答は必ずしも正解ばかりとは限りません。発想が時代に追いついていないケースがままあるのです。むしろ、現場や顧客に近く、最新の情報を把握している部下のほうが、正確な答えを持っている可能性が高い。にもかかわらず、判断基準をいつも上司に置くようではイノベーティブな組織にはなりません。

ビジネスモデルを新しくしようと思えば、その意義はもとより、取り組む目的と、達成したあかつきには会社がどう変わるのかを、考えに考え抜く必要があります。私はドイツに1年半ほど留学していた経験がありますが、ヨーロッパなどは、そういうことを考える傾向が強い。初めて大学のゼミに参加した際、「あなたはなぜここにいるのですか」と聞かれました。私以外の他のメンバーは、きちんとした理由を述べていたことを懐かしく思い出します。

欧州には文化程度の高い国は多くありますが、それらの国民に共通しているのは、物事を本質的にとらえようという姿勢だと思います。だから、労働生産性も当然高いわけです。日本も、そして日本の企業も強い体質を作っていくためには、そういう力を身につけていかないとダメでしょう。

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柴田昌治(しばた・まさはる)
1986年、日本企業の風土・体質改革を支援するスコラ・コンサルタントを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。著者に『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『成果を出す会社はどう考え動くのか』『日本起業の組織風土改革』など多数。近著に『「できる人」が会社を滅ぼす』がある。

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(スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表 柴田昌治 構成=岡村繁雄)