トヨタの4代目プリウス(「Wikipedia」より)

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 日本製品は総じて、その高い品質から世界でも非常に人気で、特に日本車は世界に誇る日本技術の結集品ともいえるだろう。だが、それは裏を返せば盗難の被害に遭いやすいというデメリットもある。なかでも、トヨタ自動車製の車種の盗難リスクは、群を抜いている。

 日本損害保険協会が2016年3月に発表した自動車盗難事故実態調査結果によると、車両本体の国内盗難件数順位は、1位プリウス、2位ハイエース、3位ランドクルーザーなど、7位のキャンター(三菱ふそう)を除くトヨタ9車種がトップ10に名を連ねた。

●トヨタ車は世界的に部品調達がラク

 盗難犯罪における“トヨタ人気”は、15年度に限ったことではなく、盗難件数上位車種は例年、トヨタ車が大半を占めている。ここまでトヨタ車が狙われてしまうことについて、トヨタはどのように分析しているのだろうか。トヨタ広報に話を聞いた。

「トヨタブランドの車種は販売台数が多いため、それに比例して被害件数も多くなっているのではないかと考えています」

 確かに、トヨタは販売台数で世界トップを争うため、流通数も多いが、それだけではこの状況の説明としては物足りない。そこで、実際の背景を探るべく、漫画『クロサギ』(小学館)の原案者で裏社会に詳しいルポライター、夏原武氏に話を聞いた。

「盗難車、特にハイエースやランドクルーザーなどの実用車の多くは、解体されてさまざまなルートでコンテナ密輸され、現地で再び組み立てられてさばかれていくのですが、トヨタ車は世界的に販売台数が多いこともあって、組み立てのときにトヨタ車を扱える人間が多く、部品調達もしやすいという点がまず挙げられます」

 販売台数と被害件数に相関関係があるのは広報部の認識通りだったが、数字として表れているのには、単純な母数の問題だけでなく、ほかにも理由があるわけだ。

「トヨタの実用車の行き先は発展途上国が多いのですが、これらの国は先進国と違って、修理するのもインコンビニエンス(不便)だし、道も舗装されていない。だから、フェラーリなど海外の有名ブランドより、丈夫で故障しづらいトヨタ車が狙われるのです」(夏原氏)

 同調査で、14年度にプリウスにその座を譲るまで7年連続でトップだったハイエースは、キャパシティも大きく、海外ではバスのように使われていたり、たくさんの荷物を運べることから特に発展途上国では重宝されているとのことだ。では、そんなハイエースを抑えて新たに盗難車市場で人気となっているプリウスの人気の理由は何か。

●販売台数と盗難のハウツーは比例して広がる

「ガソリン代は、各国の経済状況とリンクしているとはいえず、発展途上国に住む人にとって高いものです。そのため、ハイブリッドカーのほうが都合がいいのです。そのなかでも、プリウスへの信頼度は高く、世界中でつくられている他社のハイブリッドカーより人気が高くなっています」(同)

 そして、人気、信頼以外の面でも、トヨタ車が狙われる理由があるという。

「たくさん流通しているため、盗むための手段が広まってしまっているのです。最近は、ある程度のランク以上の車種にはイモビライザー(電子キーを用いた盗難防止照合システム)が搭載されていますが、それも人気のある車ほど早く解除装置が出回ってしまいます。メーカー側も、新車種を出すたびにイモビライザーを改良していますが、盗む側はすぐに対応してしまうため、“イタチごっこ”状態です。海外では、ほかのセキュリティ装置を併用したり、ハンドルやギアをロックしたり、ハンドルごと外したりして盗難対策をしています。しかし、日本でそこまでする人はほとんどいないため、窃盗団の連中に話を聞くと、すごく仕事がしやすいと言います」(同)

 夏原氏いわく、イモビライザーの解除機「イモビカッター」は、中国のディーラーから出てくることが多いという。あらためてトヨタの海外需要が大きいことがわかるが、国内で流通することはないのか。

●アフリカルート活性化で市場拡大の危機か

「昔から行われている方法に、まったく同じ車種の廃車と盗難車をすり替えて再登録するというものがあります。また、改造車を盗んでエンジンや高級オーディオ、足回りなど、お金をかけているパーツを業者オークションに出品しているケースもあります。買い取り業者に流れると、国外に出て行ったケースと同様に足取りをつかむことが困難です。ただし、盗難車を売るには国内流通はリスクが高く、昔に比べればそこまで大きい市場ではありません。どちらかというと、海外市場が増えている印象です。かつては、東南アジアが同じ右ハンドルということで、日本車とイギリス車の人気が高かったのですが、最近はアフリカでも裕福な人が増えてきました。その関係もあって、アフリカルートで結構大きな市場ができ始めています」(同)

 今後も、自動車の所有者にとっては安心できない日々が続きそうだが、メーカー側もまったく対策をしていないわけではない。

「弊社では、イモビライザー、オートアラームの設定、ティーコネクトのテレマティクスサービスなどを提供して、対策は実施しています。また、弊社は日本自動車工業会に加盟していて、自動車盗難に対する官民合同のプロジェクトを15年前より設置しており、盗難の現状、対策の紹介などドライバーの啓発活動も続けています」(トヨタ広報)

 盗難防止対策が進化しても、盗むほうも必死にかいくぐってくる。ドライバー側も二重三重の防犯対策を実施しなければ、愛車が広大なアフリカ大陸の道を走ることになってしまいかねない。
(文=武松佑季/A4studio)