「SAPIO」(小学館)2月号より

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 映画『海賊とよばれた男』は大コケ、昨年末に出版した小説『幻庵』(文藝春秋)も売れ行きはイマイチと、トンデモネトウヨぶりのエスカレートと反比例するように、小説家としての人気が凋落している百田尚樹センセイ。

 しかし、本人は反省するどころか、ネトウヨ的"被害妄想"丸出しで「すべてマスコミのせい」と考えているらしい。少し前にも、映画『海賊とよばれた男』のプロモーションで自分の名前が隠されているとか、新聞が憲法改正のトンデモ小説『カエルの楽園』の書評を載せない、などといちゃもんをつけて失笑を買っていたが、今度は、同様の論法でテレビに絡み始めた。

 発言が飛び出したのは、「SAPIO」(小学館)2月号に載った「百田尚樹×櫻井よしこ 尖閣問題、憲法改正──2017年は"待ったなし"の年なのに 新聞やテレビは嘘ばかり垂れ流している 日本の未来を壊す『左翼メディアのおぞましさ』」。

 タイトルからして頭がクラクラしてくる対談だが、この中で百田氏は櫻井氏といつものように中国脅威論や教育バッシングで意気投合しながら、とにかくテレビを叩きまくっているのだ。

「私が懸念しているのは、戦後70年たって、多くの国民が自虐史観に根ざした戦後教育を受けてきたことです。『洗脳』が100%完了したわけです」
「最近では、もっとも影響の大きい地上波テレビがおぞましいくらいに左翼的な考え方に偏っていることも問題だと思います。安保法制の議論でも、賛成と反対の両論を半分ずつ取り上げるべきです。ところが調べてみると、反対意見を流している時間のほうが圧倒的に長い」

 これに櫻井氏も「現在の憲法を大事に持ち続けると、逆に日本という国が滅んでしまうという『正しい情報』を広く国民に伝えていくことは難しいですね」と大きく相槌をうつ。

 テレビを「おぞましいくらい左翼的」などと、本当にこの人たちはニュース番組を見ているのか?と聞きたくなるではないか。

 本サイトでは再三指摘しているが、第二次安倍政権の成立以降、官邸は個別の番組を常に監視し、少しでも政権に批判的なコメントがあろうものなら、ゴリゴリの圧力をかけてきた。事実、14年末の解散総選挙の際には、在京キー局に萩生田光一自民党筆頭副幹事長の名義で"圧力文書"を一斉に送付、15年春には『報道ステーション』の古舘伊知郎氏、『NEWS23』の岸井成格氏、『クローズアップ現代』の国谷裕子氏など、官邸から目をつけられていたキャスターたちが次々と降板に至った。そしていまや、ワイドショーや夜のニュース番組を見れば、ほとんどが安倍政権の言い分をそのまま垂れ流し、問題の検証や疑惑の追及など全然やらなくなってしまったのである。

 安保法制賛否の比率が云々と言っているのは、おそらく、これも本サイトが追及してきた報道圧力団体「放送法遵守を求める視聴者の会」が主張していることのコピペだろうが、百田先生もよくご存知のように、同会は事務局長の自称文芸評論家・小川榮太郎氏をはじめ安倍応援団で固められた団体(なお、小川氏は"安倍晋三ヨイショ本"を書いて世に出た人間だが、2013年には『『永遠の0』と日本人』(幻冬舎)なる"百田ヨイショ本"も上梓している)。この調査や偏向批判がいかに恣意的であるかは、本サイトがとっくに指摘している。それをいまさら持ち出して、もっともらしく語るとは......。

 しかも、ちゃんちゃらおかしいのは、百田センセイが「テレビは左翼ばっかり」「洗脳されてる」などと吠えていることに、自分が最近テレビに出してもらえないことへの"逆恨み"が見え隠れすることだ。

「私も、地上波テレビからはすっかりお呼びがかからなくなりました。私がテレビで『憲法は改正すべき』などと言うと面倒だと思っているのでしょう」

 おいおい、ちょっと待ってくれ。残念ながら百田センセイがテレビにお出ましにならなくなったのは、別にあなたが改憲派だからとか、そういう話じゃない。

 もともと『永遠の0』が大ヒットした 3、4年前頃もすでに右派的主張をがなり立てていたが、百田センセイはトーク番組やバラエティなどテレビに引っ張りダコだった。しかし、当時NHK経営委員だった14年 1月、東京都知事選で田母神俊雄氏を応援した際、他候補のことを「人間のクズ」呼ばわりしたぐらいから、世間も百田センセイの"ヤバさ"に気がつき始める。そして、14年秋からの『殉愛』騒動と名誉毀損裁判で、さすがに「この人、ヤバいだけじゃなくてウソつきだ」という認識が社会に定着。そして、15年夏には自民党の会合に出席し、沖縄の二紙に対して「潰さなあかん」という言論弾圧発言である。そりゃあ、テレビ局関係者も「ちょっと出すのヤバくない?」となるに決まっているではないか。

 つまり、百田センセイは盛大に"自爆"したのだ。言っておくが、これは別に"左翼陣営からの圧力(笑)"があったとか、ましてやテレビが左傾化したからとか、そういうことでは一切ない。あたり前だろう。前述したとおり、安倍政権のプレッシャーに完全にひれ伏したテレビメディアはいま、ごくごく一部の気骨のある報道番組以外は、政権批判にまったく踏み込まなくなってしまい、むしろ田崎史郎・時事通信特別編集委員のような"政権の代弁者的"なコメンテーターばかりが重宝されている。

 逆に言えば、百田センセイは自らのヤバさを次々と開陳してしまったことで、お仲間が我が世の春を謳歌している"テレビの右傾化"のブームから完全に取り残されてしまったのだ。しかも百田ときたら、繰り返しその言動が問題になったにもかかわらず、その後もネトウヨばりのヘイトデマや歴史修正主義をツイッターでひけらかしている。実際、最近も千葉大医学部の学生3名が集団強姦致傷容疑事件について〈私は(犯人は)在日外国人たちではないかという気がする〉などと何の根拠もなくツイート(のちに悪質なデマであることも確定した)。そんなバリバリのヘイトを地上波で放送していいわけがない。

 まあ、逆に言えば、そういう四面楚歌の状況だからこそ、百田センセイは「地上波テレビがおぞましいくらいに左翼的な考え方に偏っている」「私も、地上波テレビからはすっかりお呼びがかからなくなりました」などとブー垂れているのだろう。完全に"被害妄想"と言うほかないが、仮に1億歩譲って、百田センセイの言うとおり、地上波テレビで苛烈な安倍政権批判や改憲批判が展開されていたとして、だ。それのどこが問題だというのか。

 そもそも、メディアの責務は"権力の監視"であり、圧倒的な情報量と宣伝能力を持つ政治権力に対して、批判的な観点から分析し、論評を述べるのは当たり前のこと。むしろ、その政策や外交成果、演説などを右から左にそのまま垂れ流し、絶賛するほうがはるかに問題だ。ようするに、普通の民主主義国家のジャーナリズムの感覚なら、百田氏のような人物が嫌厭されるのはむしろ当たり前ではないか。

 しかし、このオッサンにこんな指摘をいくらしてもしょせんは馬の耳になんとやら。きっと、これからもまだまだわたしたちの頭を痛くさせ続けるのだろう。
(小杉みすず)