かつて、これほどまでに、優勝&横綱昇進を願ってもらった力士がいただろうか。ファンや師匠ならわかる。だが先場所、二所ノ関審判部長(元・大関若嶋津)までもが、「横綱に勝って優勝してほしい」と口にしたのだから、相撲協会総意の願望だったのだろう。

「『俺にあの体があれば、間違いなく横綱だよ』と、力士の間では囁かれている。それだけ素質は素晴らしい」とベテラン記者が語るように、稀勢の里(30)の実力は誰しもが認めるところ。

 中学卒業後に入門するや、18歳で新入幕を果たし、25歳で大関昇進。いよいよ横綱に、と期待を集めたのはもう5年前。大関昇進後の勝率は7割超。準優勝12回。実績だけは「横綱クラス」だが、昨年まで5回あった綱取りのチャンスは、いつも肝心なところで日本中の期待を裏切りつづけてきた。

「いちばんの要因は、『豆腐のメンタル』。一応は期待するけど、最後は『やっぱりなあ』で終わる。伝統芸能みたいなもの(笑)」(前出・記者)

 その弱点克服のため、彼なりに迷走していたのだろう。それが「不思議な表情」の正体だ。

「以前は、大事な取組になると、まばたきが多くなって、緊張しているのがバレバレ。それが、昨年から無理やり笑顔を作るようになった。そして一月場所では、薄目をあけた、やる気のなさそうな表情に変わった。対戦力士は不気味がり、白鵬からは『表情が嫌い』と酷評される始末」(スポーツ紙記者)

 不気味であることは否定しないが、そういう人間臭さもまた魅力か。

 バラエティ番組にはいっさい出ない。ほかの力士ともつるまず、いつも憮然とした表情をしている。それでも、人気は角界随一。2013年の九州場所では白鵬を破った際に、「万歳コール事件」が起きたほど。

「白鵬は強すぎるがゆえに人気は高くない。そのアンチテーゼ的存在が稀勢の里。応援したくなるじゃないですか、人間の心情として」(角界関係者)

 そして入門から丸15年。89場所めで初優勝し、横綱昇進を確実にした。優勝決定直後「感謝しかない」と言葉を絞りだすと、大粒の涙がこぼれた。負けては泣かせ、勝っても泣かす稀勢の里。スポーツ界には、「弱きヒーロー」だって必要なのだ。

(週刊FLASH 2017年2月7日号)