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これまでKVHやジェットスター・ジャパンの社長を務めてきた鈴木みゆき氏が、シスコシステムズの社長に就任したのは2015年5月のことだ。それ以降、100名以下の中小企業をターゲットにした日本発の新ブランド「Cisco Start」を立ち上げたり、日本に根ざした事業展開を図るなど、大きな転換を図っている。「Cisco Start」は今では海外にも広がり、アジアやオーストラリアにも展開しているという。そこで、鈴木社長に戦略転換を図った背景や今後の戦略を聞いた。

○鈴木 みゆき(すずき みゆき)

シスコシステムズ合同会社 代表執行役員社長

1960年生まれ。大学卒業後 ロイターに入社
1997年 ロイター 東南アジア代表取締役
2002年 日本テレコム 専務執行役員兼コンシューマ事業本部長
2004年 レクシスネクシス社 アジアパシフィック代表取締役 兼 CEO
2007年 KVH 代表取締役社長 兼 CEO および代表取締役副会長
2011年 ジェットスター・ジャパン 代表取締役社長
2015年5月 シスコシステムズ 代表執行役員社長。現在に至る。

(以下敬称略)

○シスコの社長を引き受けた理由を教えてください。

鈴木:IT業界が長く、これまでITやネットワークに携わってきましたので、シスコは馴染み深い業界です。日本テレコムやKVHの時代からシスコの方とは面識があり、当時から革新的な会社だと思っていました。12年ほど前、CEO(現在は会長)であったジョン・チェンバース氏に会い、サービス内容やシスコが変更すべき点について率直にお話したら、翌週からメールで意見交換するようになりました。当時は、シスコに来てほしいというような話はありませんでしたが、非常に人柄のいい方で、憧れでもありました。

今回はAPJ(アジア・パシフィック・ジャパン地域)の方から打診があり、成田空港でお会いしました。そのとき、日本は非常に可能性がある市場で、成功するためにどういう戦略を立てているのかや、日本に根ざした経営をしてほしいという話をいただき、感銘を受け、やりがいがある仕事だと感じてお受けしました。

○中小企業向けの「Cisco Start」や日本市場により根ざした事業展開というは、シスコにとって大きな方向転換だと思いますが、その背景を教えてください。

鈴木:シスコというのは、大手企業や3大都市圏の企業においては名声もあり、認知度も高いのですが、中小企業、とくに地方ではシスコの名前を聞いたことがないという企業が多く、非常にもったいないと感じました。今後の成長戦略を考える上では、新しい市場を開拓しなければなりません。もちろん、ネットワーク以外の分野にビジネスを広げるという方法もありますが、それよりも先に、これまでシスコのネットワーク機器を利用して来なかったお客様にどうアピールするかが重要な課題だと思いました。

日本には400万以上の企業がありますが、そのうちの99%が300人以下の中小企業ですので、日本市場の99%がシスコが未開拓の市場だと考えると、まず、そこを取りにいかなければならないと思います。

○中小企業向けビジネスは大企業と異なり、薄利多売なビジネスとなりますが、利益は確保できるのでしょうか?

鈴木:「Cisco Start」は非常に好調で、「Meraki」も中小企業の方に喜ばれていますので、中小企業のビジネスが利益を圧迫しているというのは感じません。これまで培ってきた技術とチャネルを土台に新しい市場に向かっていますので、新たなコストは発生していません。商品も適材適所でラインナップしているので、心配はしていません。

○10月に発表した2017年度の事業戦略を2016年度と変えなかったのは、2016年度が順調だったということでしょうか?

なお、鈴木社長は2017年度の重点戦略として、「日本市場により根ざした事業展開」、「お客様のデジタルビジネス支援」、「統合ソリューションビジネス強化」の3つを掲げている。

鈴木:これらの戦略はシスコが日本に根ざした企業であることを浸透させるためのもので、ある程度、長い目で見る戦略ですので、あまり頻繁に変えると効率が悪く、非効果的だと思います。また、これらの戦略はお客様のデジタイゼーションを支えていく意味でも、非常に刺さっている戦略だと思います。とくに、これまで組んでいなかったパートナーの方と一緒に新たなソリューションを展開する点は、よりシスコの価値を発揮できると思いますので、引き続きこの戦略を続けたいと思います。

○「日本市場により根ざした事業展開」ということですが、グローバル標準でやったほうが効率的な面もあると思うのですが、背景を教えてください。

鈴木:それだけ、日本市場が大きいということだと思います。日本市場には大きなポテンシャルがあり、まだまだ未開拓なものであるという点は米国本社でも認識しています。日本市場を大事に扱わないと、今後のシスコの成長が頭打ちになるということを全社で理解しています。ただ、日本のお客様が期待している品質、日本語でのサービス、ユーザービリティを前提に、グローバルでの知見や能力、ソリューションを紹介していくことも意味があることは会社として認識しています。

今後、中小企業向けの「Cisco Start」だけでなく、スイッチ、ルータ、セキュリティ製品など、すべてを日本語化していくというロードマップを作っています。とくにデータセンター系の製品は開発段階からダブルバイト対応にし、日本語対応できるようにしています。会社として、日本のマーケットを開拓していくことが非常に重要であると考えています。

○今後は、グローバルと日本の戦略が枝分かれしていくということでしょうか?

鈴木:そうではなく、基本はグローバルでの製品やサービスをベースに、日本向けにカスタマイズした製品を出していくことになると思います。開発部隊は、米国やその他の国にあり、他国の製品も開発していますので、1つのロードマップの中に組み込まれています。米国本社でも日本のマーケットに対する期待が高まっていますので、本国から幹部が頻繁に来日しています。

○昨年10月の事業の戦略説明会では、売切りモデルからサービスを中心としたサブスクリプションモデルにシフトしていく意向を明らかにしましたが、その狙いと戦略を教えてください。

鈴木:サブスクリプション/サービスモデルへのシフトはIT業界の流れでもありますし、お客様がどういう形で利用したいかを考えたとき、サブスクリプションモデルのほうが希望に沿うのではないかと考えています。ハードウェアの売切りモデルもなくなるとは思いませんが、シスコとしては両立していくことがベストなビジネスだと思います。クラウド利用においても、すべてをクラウドに持っていく場合や、オンプレミス、あるいはハイブリッドモデルなどもありますが、各企業は適材適所で利用していくという判断をしています。そういう中でシスコの存在価値を柔軟に発揮するためには、サブスクリプションモデルも提供しないと今後の変化に対応できないと思います。

○富士通との提携を強化し、ヘルスケアの市場開拓を共同で進めていくという方針について、もう少し詳しく教えてください。

鈴木:富士通さんとは、シスコが日本市場に参入したときから密なパートナー関係を築いています。2004年には大型ルータ、2009年にはコラボレーションサービスを共同開発しています。次に何ををやりましょうかと検討している流れの中で、SDNでより効率のよいネットワークビジネスを一緒に立ち上げよういうところから、ヘルスケア分野に注目しました。富士通さんは電子カルテの分野でシェアNo.1で、業界での信頼や経験がありますので、この分野に注目しました。すでに、一部製品はローンチしていますが、本格的には今年早々から提供していきたいと思います。

○2020年の東京オリンピックのオフィシャルスポンサーになった理由を教えてください。

鈴木:弊社は昨年6月に、東京オリンピック・パラリンピックのネットワーク機器のオフィシャルスポンサー契約を締結させていただきました。これは、ロンドンオリンピックやリオオリンピックなど、これまでのシスコの経験を認めていただいた結果だと思います。2020年の東京オリンピックでは、さらに発展させて信頼性の高いインフラを提供できると思います。

オリンピックではいろいろなものをつなげ、観客のみなさんが試合を観戦する際に、ワイヤレスを通して選手の活動やリプレイを見るなど、過去にないエキサイティングな観戦体験を提供し、パートナーのみなさんと一緒に大会を盛り上げられればいいと思っています。

○2020年以降もスポーツエンタテインメント事業をやられていくのですか?

鈴木:これまでも StadiumVisionというソリューションを提供しており、国内でもガンバ大阪の市立吹田サタジアムやNACK5 スタジアム大宮などでも協力させていただいています。東京オリンピックでそれをさらに開花させて、2020年以降もわれわれの存在感を発揮していきたいと思います。

○2017年はシスコにとってどういう年になりそうですか?

鈴木:2017年はIoTが爆発的に展開すると思っていますので、非常に楽しみな年だと思います。お客様のデジタイゼーションにおいて、ITが単なるコミュニケーションインフラというだけでなく、お客様の中核ビジネスの部分で価値を見出すようなものになると思います。

働き方改革の面でも、一億総活躍社会の実現に向け、ものごとが変わっていくと思います。シスコは2017年度のテーマとして「フルスピードで変革を」を掲げていますので、2017年は、何か革新的な変革が成し遂げられえるのはないかと思っています。

(丸山篤)