サッカーファンは辞められない。と思うのは、なにより好試合に遭遇した瞬間だ。サッカーの娯楽性の高さ、その競技性の高さを再認識させられる瞬間でもある。あらゆるスポーツの中で最も面白い。世の中に存在するあらゆる鑑賞物の中で一番、と言いたいぐらいだが、サッカーが世界で断トツの人気を誇る最大の理由である。

 だが、好試合、名勝負はいつどこで発生するか分からない。例えば、土曜日に一斉に行われるJリーグの観戦には、好試合度が高いのはどの試合かとの推理が毎度求められる。

 W杯本大会はさらに顕著な例になる。絶対にカバーしなければならない日本代表の試合はともかく、選択肢が複数あるそれ以外の日は、大いに頭を悩ませる。昨年フランスで行われたユーロ2016では、日本が出場していないので、選択肢はさらに増した。こっちにすべきか。あっちにすべきか。好試合の見逃し、さらに言えば、番狂わせの見逃しは大損とばかり、熟考を迫られたものだ。

 クリスティアーノ・ロナウドが出るから、ベイルが出るから、ポルトガルの試合が見たい、ウェールズの試合が見たいというわけではない。そうした要素はまったくゼロではないが、試合の中身の魅力が、個人の魅力を凌駕するのがサッカーだ。

 アタリの試合か、ハズレの試合か。アタリを引いた快感は格別だ。名勝負との遭遇は、自己満がピークに達する瞬間でもある。面白いか。面白くないか。サッカーにとってなにより重要な問題だ。面白そうか、面白くなさそうかは、ファンが一番欲している情報に他ならない。

 お茶の間観戦する場合も例外ではない。人間の視聴時間には限りがある。欧州サッカーを週に10試合も20試合も見られる人はごく僅か。オンデマンド機能が装備されたいま、選択肢はさらに広がり選択センスが問われる時代になっているが、それを手助けしてくれる情報は少ない。

 ネットのニュースに載るのは有名チームの勝ち負けであり、スター選手、有名監督、さらには欧州組の動向だ。それらがサッカーのアイコンの役を果たしている。

 それはそれで気になる話題ではあるけれど、サッカーの本質から外れた情報だ。それが過多になっている現状には、正直言えば食傷気味。発信者が現地で衝撃を受けた話、伝えたがっている話ではなく、日本側が欲している話、ページビューを稼げそうな話で溢れかえっている。

 肝心な情報が足りていないことが気になる。断トツナンバーワンの人気を誇るのに、他の競技と代わり映えがしない状態だ。サッカーは平凡なスポーツになり下がっている。ネット時代が促進するにつれ、その傾向は強まっている。歓迎すべき話ではない。 

 サッカーが胸を張るべきは中身の話。

 映画鑑賞を手助けするアプリには、実際に見た人の満足度を示す数字が明示されている。評判のいい映画はどれかが一目で分かる仕組みだ。オンデマンド化が進むサッカーにも欲しい情報だ。観戦の指針となる好試合度を示す数字が欲しい。

 Jリーグには春の新シーズンからダゾーンが参入する。オンデマンド化は促進。海外のサッカーファンも視聴可能になる。問われるのはサッカーの中身だ。面白いか、面白くないか。ダゾーンがIT時代の最先端を行くメディアだとすれば、皮肉だ。従来のネット社会が軽視してきたものが、最も重要になるのだから。このちょっとした異変に敏感になれるか。

 鹿島等一部は例外として、Jリーグ各チームのサッカーが、ガラパゴス化していることはこれまでにも述べてきた通り。IT社会が発達し、情報化社会が促進しても、サッカーの中身は変わらず終い。むしろ、独自の方向に走ってしまった。中身について積極的に報じてこなかったネット報道の弊害、あるいはその追求を怠った紙媒体の不注意が、そのまま反映されたようなサッカーだと言えなくもない。

 問われる価値観は、ダゾーン参入を機に確実に変わる。面白いか、面白くないか。Jリーグの世界的な価値は、サッカーの中身で決まる。真っ当な、まさしくサッカー的な時代を迎えたと思う。

 対策は講じられているのか。2ステージ制を1ステージ制に戻せば事足りるような問題ではない。面白くないサッカーには低評価が下される、サッカー的な仕組みが日本には不可欠。これをいい機会にして欲しいものである。チャンピオンズリーグのスタートとともに、攻撃的サッカーを促進させた欧州サッカーのように。