米自動車業界の雇用に「壊滅的」影響? 保護主義で雇用創出は不可能

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ドナルド・トランプは第45代米国大統領に就任した当日、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱と北米自由貿易協定(NAFTA)について再交渉する方針を表明した。「米国の労働者にとって公平な取引をするため」、選挙運動中に訴え続けてきた公約を実行に移したのだ。

トランプが目標に掲げているのは、製造業の雇用を国内に取り戻すことだ。だが、NAFTAからの離脱や輸入車に35%の関税をかけることについて米国内の団体が行った調査結果によれば、それらは全くの逆効果をもたらすと予想される。

ミシガン州アナーバーにある非営利団体、自動車研究センター(CAR)によれば、「NAFTAからの離脱や北米での自動車部品取引への制限は、米国の自動車メーカーにとっては製造コストの上昇、投資家にとっては利益の減少につながり、消費者にとっては選択肢の減少、サプライヤーを含めた米国の自動車業界にとっては、競争力の低下につながる」

米国の有力シンクタンク、ブルッキングス研究所の報告書は、さらに単刀直入だ。グローバル経済・開発担当の特別研究員は、「トランプは保護主義こそが米国人労働者を守るものだと確信しているが、それは間違いだ」と明言する。

報告書はいずれも、米国による保護主義的な行動は貿易戦争を招く可能性があると指摘している。そして、価格上昇と米国の消費者の購買力低下を招き、国民に損害をもたらすという。その他、需要の減少と、企業が必要とする従業員の減少も見込まれる。

「相互依存」崩せば自らにも痛み

「メキシコから雇用を取り戻す」──トランプが自動車業界について掲げる目標は、ごく単純なことのように聞こえる。

だが、CARが報告書で述べているとおり、米国とカナダ、メキシコの自動車業界は完全な相互依存の関係にある。各国の国境をまたいで取り引きされる自動車部品の一部は、かつての8倍近くの量に上っている。NAFTA発足前にはわずか5%だったメキシコからの輸入車に使用される米国製部品の割合は、現在では40%となっている。

CARによれば、米国がこの協定から離脱しても、現在メキシコ国内にある自動車製造業の雇用が全て米国に戻ると単純には考えられない。メキシコから、より低コストで済む中国やその他のアジアの国に移ってしまう可能性もある。

一方、米国には国内の既存工場がすでにフル稼働に近い状態にあるという問題点がある。コンサルティング会社オリバー・ワイマンによれば、「トランプの方針によって全ての仕事が米国内に取り戻されるなら、自動車メーカー各社は工場を新設しなければならない…多額のコストがかかる」

また、懲罰的な関税を課すというトランプのもう一つの主張についてCARは、メキシコからの輸入車に35%の関税を課せば、同国の生産台数は約45万台減少し、北米では米国を含めて約6,700人の雇用が奪われると予想する。

さらに、メキシコで製造される自動車部品の価格が上昇すれば、米国でもサプライチェーン全体にその影響が波及。組立工場と部品工場では合わせて3万1,000人が職を失うとみられている。

他に得策がある

ブルッキングス研究所は、「国産」なら全ての製品が安価で販売できるというわけではないと指摘する。

「その製品が輸入されていたのなら、それはそもそも米国メーカーに十分な競争力がないからだ。つまり、その製品を国内で生産すれば価格は上昇する」

さらに、外国企業との競争がないことは一層の価格上昇を招く可能性がある。貿易相手国との関係が脅かされることは、米国の雇用を危険にさらすことになるのだ。

トランプにとって賢明な策は(保護主義的な政策よりも)、先端製造業やサービス部門などで新たに仕事に就くことができるよう、米国の労働者らに教育の機会を提供することだ。