横綱昇進が確定した稀勢の里

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大相撲初場所で大関・稀勢の里が優勝しました。これを受けて日本相撲協会は横綱審議委員会に稀勢の里の横綱昇進について諮問し、横綱審議委員会は全会一致で稀勢の里を横綱に推薦することを決めました。これで稀勢の里の横綱昇進は確定し、19年ぶりの日本出身横綱が誕生します。

この昇進決定について、世間の一部には「二場所連続優勝ではないのに甘い」という声があります。

しかし、その声は誤解に基づくまったく誤った認識であり、不見識です。

そもそも「二場所連続優勝」は横綱昇進の唯一絶対の基準ではないのです。横綱審議委員会が開示している横綱推薦の内規によれば、その第一項にあるのは「横綱に推薦する力士は品格、力量が抜群であること」とあります。そして、第二項以降で「大関で二場所連続優勝した力士を推薦することを原則とする」「第二項に準ずる好成績を挙げた力士を推薦する場合は、出席委員の3分の2以上の決議を必要とする」とあります。

この内規に照らせば「二場所連続優勝」はあくまでも原則であり、真の基準は「品格、力量抜群」に尽きるのです。「品格、力量抜群」と認めるにあたって、「二場所連続優勝するくらいならば品格、力量抜群でしょうなぁ」という原則論を掲げているに過ぎず、それとは別の形でも「出席委員の3分の2が賛成すれば」推薦するのです。逆に言えば、二場所連続優勝でも「品格、力量抜群」と認められなければ、横綱に昇進しない場合もあり得るのです。

稀勢の里は直近6場所で74勝という極めて優れた成績を残しています。これは日馬富士・鶴竜という先輩横綱が、これまでの相撲人生で残したベスト記録に匹敵するものです。昨年は年間最多勝も獲得し、横綱との16回の取組で8勝8敗という完全に互角の成績を残しています。まさに「横綱」としか表現できない強さをすでに示しているわけです。

さらに大関昇進後の2012年〜2016年の5年間30場所を見たときに、稀勢の里は10勝以上を23回記録し、毎場所のように優勝争いを盛り上げています。日馬富士は同じ期間に22回、鶴竜は18回、琴奨菊は8回、豪栄道は8回の二桁勝利です。白鵬の28回には及ばないものの、十二分に横綱級であることは疑いようもありません。ちなみに、「横綱になれなかった悲運の大関」として引き合いに出される機会の多い魁皇(現在の浅香山親方)は生涯の大関在位65場所において、優勝は4回(関脇時代の優勝を入れれば5回)ありますが二桁勝利は25回しかありません。

そして稀勢の里は、初土俵から30歳を超える今に至るまで、「たった一日」しか本場所を休んでいません。負け越しと角番を繰り返すクンロク大関・ハチナナ大関(9勝6敗や8勝7敗程度の成績を繰り返す大関)とは異なり、安定して10勝以上を挙げ、優勝争いをする力量を示してきているのです。それは相撲に打ち込む真摯な姿勢があればこその成績であり、「品格、力量抜群」であることを相撲協会と横綱審議委員会に確信させるものだったのです。

多くの大関が優勝しても昇進できないのは「たまたま調子が良かっただけでしょ?」「また負け越すんでしょ?」「すぐ休むんでしょ?」と疑われているから。だから、二場所連続優勝するまで慎重論が根強く出て、昇進に至らないのです。稀勢の里の場合は大関昇進後の5年間の活躍により、「品格、力量抜群」であることを日本相撲協会・横綱審議委員会ともにすでに確信しており、ただ最終的なきっかけとなる優勝がなかったために決断を下せずにいただけのこと。

むしろ「二場所連続優勝」は品格や力量に疑問符がつく力士に対する条件であり、「アヤしいところは多いが、二場所連続優勝ならば多少の難は目をつぶって横綱と認めるしかあるまい」という条件と考えるべきなのです。真の基準である「品格、力量抜群」を満たした稀勢の里に対して、二場所連続優勝したかどうかを問う必要はありません。甘い基準をクリアしたのではなく、真に厳しい基準をクリアして昇進した横綱、それが第72代横綱・稀勢の里なのです。

「一生のうちで2場所・3ヶ月だけ絶好調だった」のと「5年間ずっと横綱級の強さを見せてきた」のと、どちらがより素晴らしく、より難易度が高いかは、考えるまでもないのです。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)