日本電産 永守重信社長(写真=gettyimages/Bloomberg)

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■真のリーダーのあるべき姿とは?

「君たちは経営者ではなく、経営管理者だ」「経営者と経営管理者は違うぞ」

永守重信社長はグループ会社の社長たちを前にして、よくこう指摘していました。

では、経営者と経営管理者は、どう違うのか。私流に表現すれば、経営者はリスクを恐れずに即断即決で意思決定し、場合によっては企業全体の方向を大きく変えることも厭わない人。これに対して、経営管理者は、事業がリスクに陥らないように用心し、コースどおりの事業運営を心がける人でしょうか。前者が荒野をも走る人に対して、後者はレールの上を走る人と表現してもいいと思います。

そう考えると、日本では過去何十年間か、世の中の「経営者」の多くが、「経営管理者」になっていたのではないでしょうか。特筆すべき何人かのトップを除いて。永守社長がこの言葉をグループ会社の社長たちに向かってよく口にしたのは、次のように見抜いていたからでしょう。

経営者として1つの会社を引っ張る、特に赤字企業の再建に取り組むということは、まったく新しいものを生み出すようなものです。大企業の各部門のトップにありがちな、決められた役割の中で歯車の1つとして動いていれば済むというのとは、まったく違います。

一方、中小企業では、小なりといえども社長となれば全社を背負う存在です。たった1人で、どんな試練にも強い覚悟をもって臨み、絶対に逃げないという姿勢が求められる。つまり、経営者と経営管理者の違いは、リスクに直面したときに、どう向き合うか。そこが分岐点となるのだ、と。

いま振り返ると、永守社長は「経営者」と「経営管理者」の違いを説いて、真のリーダーはどうあるべきかを、グループ会社の各社長に伝えていたのだと思います。

■「逃げない」ことがリーダーの条件

私は常々、「永守社長は、なぜ私を採用したのだろう?」と疑問に思っていました。なぜ自分がグループ会社の再建担当に選ばれたのか、その理由を知りたいと思っていたのです。

あるとき、その疑問を尋ねるチャンスがやってきました。私の質問に対して、永守社長は即答でした。

「君は、逃げないと思ったからだ」

このとき、永守社長の人物評価の基準が「逃げない」ことにあるのだと、改めて痛感したものです。

日本電産は、赤字企業の買収・黒字化を戦略の中核として据え、グループ全体の規模拡大・業績拡大を果たしてきた企業です。しかし、赤字企業を再建するということは、並大抵のことではありません。

通常でも経営ということ自体が困難の連続ですが、再建となればなおさらです。それまでの延長線上で物事を進めていけばいいというものではなく、常に新しく、大きなエネルギーを必要とします。その困難から逃げてしまったら、再建はけっして成就できません。

企業再建は、私自身にとっても人生初めての経験でした。再建指令が出されたときに、「やってやろう」という気持ちもありましたが、実際に1年間で会社を建て直し、黒字にするというのは大変なことで、悩んでも悩んでも答えが見つからず、正直、「逃げたい」と思ったことも何度かありました。

だが、逃げたところで楽ができるわけでもない。社員たちは懸命に働いている。その姿を想像すると、自分が背負っているものの大きさを改めて感じました。「逃げたらどうなる? 社員はどうなる? 俺は絶対逃げるわけにはいかない、立ち向かうしかないのだ」と、自分自身に言い聞かせたものでした。本気でそう思えたとき、経営というものが何なのか、わずかながら自分なりに身をもって感じ取ることができたと思いました。

永守社長は、その人が困難をどういう形で解決しようとしているか、それを見ています。言い換えれば、その困難をリーダー自身が背負っているかどうかを見ているのであり、逃げずにそれができるかどうかがリーダーには問われているのです。

※本記事は書籍『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著)からの抜粋です。

(経営コンサルタント 川勝宣昭=文)