『マリー・アントワネットの嘘』惣領 冬実,塚田 有那 講談社

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 金使いが荒く贅沢好き、浅はかで我がまま。民衆の怒りを買って処刑された自業自得のフランスのお姫様。そんな従来のマリー・アントワネット像を根底から覆したのが、惣領冬実/塚田有那著『マリー・アントワネットの嘘』です。

 ちょうど2月26日(日)まで、六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーにてヴェルサイユ宮殿監修による「マリー・アントワネット展」が開催されていますが、本書は、史上初めてヴェルサイユ宮殿がマンガを監修し、取材、資料提供に全面協力したという惣領氏作のマンガ『マリー・アントワネット』製作秘話とともに、「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」をはじめとする「ルイ十六世は不能だった?」や、「フェルセンはマリー・アントワネットの愛人だった?」など、マリー・アントワネットにまつわる有名な7つのエピソードの嘘を紹介していきます。

 しかし、ここまで世間に浸透しているエピソード群をなぜ"嘘"と言い切ることができるのでしょうか。そもそも、これほど俗説が定着したのはなぜだったのでしょう。それは、ゴシップ紙やメディアが作り出したマリー・アントワネット像やそのドラマティックな人生が、映画やマンガとなって後世に語り継がれていったからだと本書は指摘しています。

 「こうしてドラマ仕立てで描かれた『悲劇の王妃』の物語に、人々は陶酔し、または涙し、それは歴史そのものになってしまったのだ。」(本書より)

 本書では当時の手紙や歴史研究者たち、時に惣領氏自身がこれらのエピソードの出自や背景を分析し、紐解いていきます。俗説と史実、時には推理を並べて黒を白へ反転させていく工程は、さながらサスペンスドラマのようでもあり、読者をぐいぐい引き込んでいきます。

 また、マンガ『マリー・アントワネット』を描くにあたり、史実に忠実であろうとする惣領氏の徹底した姿勢にも驚かされます。例えば、王太子が食事のシーンで手にするカップ。原稿ではセーブル焼きだったものの、もし水を飲んでいるならガラスのグラスでなければならないと指摘が入ります。惣領氏は、そうした指摘の度に原稿を描きなおしたそうです。

 さらに、注目すべきは少女マンガファン垂涎の第四章「対談・萩尾望都×惣領冬実」。少女マンガ界の重鎮ふたりによるマンガ談義は見逃せません。史実に対して妄想力にブレーキがかかるという惣領氏と、妄想に拍車がかかっていくという萩尾氏。そんな二人のアプローチの違いから、マンガを描き始めた頃、そしてそれぞれの作品『残酷な神が支配する』(萩尾氏)、『MARS』(惣領氏)が生まれた背景なども語られます。

 少女マンガやマリー・アントワネットというフィルターを通してもなお、惣領冬実というクリエイターの物語を感じられる1冊です。