スポーツジャーナリストの増田明美氏

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 箱根駅伝は王者・青学大の3連覇で幕を下ろした。大学駅伝シーズンを通して、本誌・週刊ポストで最新情報をレポートしてきた陸上長距離専門ウェブメディア「EKIDEN NEWS」主宰者の“博士”こと西本武司氏と、マラソン解説で数々のトリビア情報を紹介する元マラソン選手の増田明美氏(スポーツジャーナリスト)は、どこに注目したのか? 競技現場での情報収集を何より大切にする2人の対談は、思わぬ盛り上がりを見せた。

西本:増田さんの解説は選手をディスったりしないところがいいですよね。

増田:選手の後ろには家族がいますから。現役の頃、中継で「増田さんの顔色が悪いですね」なんて解説されると、テレビを見ていたお祖母ちゃんが心配して、ずうっと仏壇を拝んでいた。だからテレビ解説では選手の家族ががっかりしたり、心配したりするようなことは言わないと決めています。

西本:なるほど。

増田:ただね、元旦のニューイヤー(NY)駅伝の解説席で宗茂さん(元旭化成監督)と一緒だったんです。旭化成がトップだったので、機嫌良く市田孝・宏兄弟をすごく褒めるのよ。「彼らは素晴らしい。性格もいいし、兄弟の仲もいい」って。旭化成には、村山謙太・紘太兄弟もいるじゃない? 私は彼らの大ファンだから、「村山兄弟も仲がいいでしょ?」って聞いたら、宗さんが「あいつらはそうでもない」って(笑い)。

西本:“延岡組”の市田兄弟のほうがかわいいんだ。

増田:同じ旭化成の部員でも、宮崎・延岡で練習をしている市田兄弟のことはいつも見ているでしょうから。東京で練習する村山兄弟よりも気持ちが入るんでしょうね。でも、村山さんの家族が聞いたら絶対ショックだと思う。レース中ずっとそれが気になっちゃって。

西本:増田さんはやっぱり“全陸上選手のお母さん”みたいですよね。すごく共感します。僕らも選手を非難はしたくない。毎年、箱根駅伝翌日の1月4日は、朝6時に駒澤大の朝練を見に行くんですが、1日も休まずに練習しているのを見ると、やはり感じるものがありますよ。

増田:本当に深い愛ね。ただ、今年の駒澤大はケガから戻ってきたエースの中谷さん(圭佑、4年)が区間18位。残念でした……。

西本:でも、その中谷を巡って今年の箱根で一番の名場面も生まれました。中谷を追い抜いた創価大のセルナルド祐慈(4年)が抜く瞬間、中谷の肩をぽんと叩いたシーンです。

 大会後、セルナルドに直接、「どうして肩を叩いたの?」と訊ねたんです。聞くと、もともと同世代トップ級の中谷のことは、雲の上の存在のように思っていたんだけど、事前の合同合宿で親しくなって、直前の中継所でも「頑張ろう」と声をかけられていたそうなんです。だから、追い抜く時に“一緒に行こうぜ”という気持ちで肩を叩いたと言っていました。

増田:いい話ですね。

西本:それだけでもう目の奥がツーンときちゃって。そのセルナルドが、「大学卒業後は競技をやめる」と言っていたので、そんなこと言うなと説得しましたよ。競技は続けなくてもいいから、走り続けてほしい。彼はこれから地元に帰って富士宮市役所で働くそうなんですが……

増田:本当に、私よりも詳しい(笑い)。

西本:で、地元のマラソン大会とかで、“背中を叩く名物ランナー”になれとアドバイスしました。よく、有森(裕子)さんとか高橋Qちゃんとかが、ハイタッチしながら走っていますよね。セルナルドにはラストのキツいところでみんなの背中を叩いて励ます役回りとか、多分そういうニーズがあると思うんです。

増田:それはいい! 女子の背中はちょっとやわらかく叩いてもらって(笑い)

●ますだ・あけみ/1964年千葉県生まれ。スポーツジャーナリスト。私立成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立し、1984年ロサンゼルス五輪に女子マラソン代表で出場。1992年に現役引退し、解説者として数々のレースに携わる。

●にしもと・たけし/1971年福岡県生まれ。「駅伝ニュース」主宰者。本業はコンテンツプロデューサー。ツイッターアカウント名は「公園橋博士」、相棒のマニアさん(アカウント名「@EKIDEN_MANIA」)とともに全国の長距離レースを観戦。

※週刊ポスト2017年2月3日号