日本電産本社・中央開発技術研究所(「Wikipedia」より)

写真拡大

 日本電産の永守重信会長兼社長を“名経営者”として持ち上げる媒体が目立つ。永守氏に死角はないのか。

「買収王」の異名をとる永守氏のパワーを評価する声は多いが、日本電産は本当に今後も急成長を続けられるのだろうか。有価証券報告書に事業上のリスクとして永守氏自身が記載されている。ズバリ、“ポスト永守”が難題なのである。永守氏は72歳。カリスマ経営者が避けて通れない道だが、後継者選びに失敗すると、とたんに“普通の会社”になってしまう。

●永守重信の後継者の条件

 永守氏は、2016年6月28日付「出世ナビ NIKKEI STYLE」のインタビューで、後継者選びについて3つの条件を挙げている。

「日本電産の企業の理念である『世界的な企業をつくろう』という思いを引き継いでくれる人だ。『このくらいでいいやないか』『土日はゴルフでもして月に1度くらいはコンペをやろう』とか、趣味や遊びを優先する人は駄目だ」

「人間的な魅力があること。『この人のために働きたい』と思ってこそ人はついてきてくれるんだから。私はたくさんのエリートをみてきたけど、冷たいよね。人はリーダーの背中を見て仕事をする。戦国時代の武将みたいに、先頭に立って『さあいくぞ』という人でなければ。そういう強いリーダーじゃないと次を託せない」

「私と相性があわなきゃ。そりゃそうでしょう、人生観や職業観が全然あわなかったら、きついね」

●後継者は片山幹雄氏か吉本浩之氏か

 永守氏は、「(後継者は)4人から5人の候補者がいる」と語っている。その1人として名前を挙げたのが、シャープの元社長で現在日本電産の副会長兼CTO(最高技術責任者)の片山幹雄氏だ。

 片山氏は14年10月に現職に就き、あらゆるものをインターネットにつなげるインターネット・オブ・シングス(IoT)関連事業の総責任者として指揮を執っている。永守氏は「2030年度に数兆円の売上高を見込んでいる」と大きな期待を寄せる。

「出世ナビ」では、『片山君、日本のジョブスになれ』とのタイトルで片山氏への思いを語っている。米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏は、いわずと知れたスマートフォン(スマホ)iPhoneを発売し、スマホ時代を切り拓いたスーパースターである。永守氏は片山氏にIoT時代の技術開発を託している。

 16年11月1日、注目される人事があった。日本電産子会社の日本電産トーソク社長、吉本浩之氏が日本電産本体の副社長執行役員車載事業本部長に大抜擢されたのだ。吉本氏は1967年生まれで、大阪大学人間科学部卒業後に日商岩井(現・双日)に入社。その後、カルソニックカンセイなどを経て、12年日産自動車に入社。14年、若くしてタイ日産自動車の社長に就任した。

 カーネギーメロン大学経営大学院の経営学修士(MBA)を取得。15年、経営体制の強化を目的として日本電産トーソク社長にヘッドハンティングされた。永守氏は車載事業を次の成長の柱と位置付けている。車載事業本部長を任されたことからも、その期待の大きさがわかる。来年の株主総会で取締役に昇格するのは確実といわれている。後継候補者の1人に急浮上してきた。

●長男は東証1部上場レックの社長

 永守氏の長男、永守貴樹氏が社長兼最高執行責任者(COO)を務めるレックの株価は16年12月19日、3570円と過去10年間の高値をつけた。ちなみに上場来の高値は00年の8950円である。

 レックは掃除、バス・トイレ、台所用品などを製造販売する会社だ。「激落ちくん」ブランドで知られ、キッチン家電も取り扱っている。

 16年4〜9月連結決算の売上高は、前年同期比9.9%増の179億1200万円、純利益は11倍の9億8800万円。主力の台所用品「激落ちくん」シリーズや、キャラクターをあしらった子ども向け商品が好調で利益率が大幅に向上した。

 レックは青木光男会長兼最高経営責任者(CEO)が、1983年に設立した駿河工業がルーツ。92年にスルガに社名変更、96年に株式を店頭公開、01年に東証2部へ市場を変更し、03年に東証1部へ指定替えとなった。

 スルガは03年、旧レックを買収した。旧レックは台所用、洗面用の壁面フックでトップシェアを誇る家庭日用品の製造会社だったが、92年に負債253億円を抱えて会社更生法を申請し、東証2部を上場廃止になった。

 スルガは03年、再建中の旧レックの全株式を取得して子会社にした。09年10月、スルガが旧レックと合併してレックに社名変更した。09年に倒産したスルガコーポレーションと社名が類似していることを嫌って変えたとされている。

 貴樹氏は1971年生まれで、関東学園大学を卒業し、東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。人事部調査役、法人決済ビジネス次長を歴任し、12年11月にレックへ転職し、常務執行役員に就任。13年6月から現職。

 貴樹氏はレックの発行済み株式の5.2%、50万株を保有する第2位の大株主。創業者で筆頭株主(5.6%、54万株)である青木氏の、名実ともに後継者と目されている。

●次男はベンチャー起業家

 永守氏は後継者の条件について、前出インタビューで「親族は会社に絶対入れない」と明言している。

 次男の永守知博氏は、ベンチャー起業家だ。1976年生まれで、明治大学大学院理工学研究科電気電子工学専攻修了。大学院では磁石の研究で学会の賞を受賞したこともある。00年、成績優秀者の学校推薦枠を利用して富士通に入社。その後、米サフォーク大学に留学し、MBAを取得した。

 帰国後、日本電産のグループ会社に一時勤めたのち、独立して09年4月に製造業向けポータルサイト「Makers-IN」を運営するエルステッドインターナショナルを設立。だが、ポータルサイトは閉鎖に追い込まれる挫折を味わった。現在はヘルスケア関連の新技術、新製品の企画・開発を行っている。

 永守氏の息子が“ポスト永守”に名乗りを上げることはあるのだろうか。
(文=編集部)