by Botgirl Questi

切断された脊髄を元通りに修復することは難しいと言われており、ゆえに臓器移植などとは異なり人間の頭部を移植するという方法は不可能だと考えられています。しかし、その「頭部移植手術」の方法を真剣に研究し、2017年に人間を対象とした手術を行う予定なのがSergio Canavero医師らの研究チーム。なぜ頭部移植が可能なのか、そして頭部移植が可能になるとどのような未来がやってくるのかを、Canavero医師が語っています。

The “Gemini” spinal cord fusion protocol: Reloaded

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4322377/

The Plan to Save a Life by Head Transplant - The Atlantic

http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2016/09/the-audacious-plan-to-save-this-mans-life-by-transplanting-his-head/492755/

Human Head Transplants Could Be Possible

http://www.menshealth.com/health/human-head-transplant

Next Big Future: Human volunteer for Head transplant surgery

http://www.nextbigfuture.com/2015/04/human-volunteer-for-head-transplant.html

Head Transplantation: The Future Is Now | Dr.Sergio Canavero | TEDxLimassol - YouTube

「昔、1人の医師が親友をガンで亡くしました。通常であれば医師はただ悲しみに暮れるだけですが、彼は非常に優秀なアメリカの外科医だったため、『人の頭部を健康な人の体に移植することで、体に広がったガンを避けることができないものだろうか?』と考えました」と話し出すCanavero医師。



上記のような考えから、1970年代にロバート・ホワイト博士はサルの頭部を移植する実験を行いました。しかし、当時は切断された脊髄を再接続させる技術がなかったため、サルにの体には麻痺が残ってしまいました。このとき、頭部移植手術を受けたサルの中には術後に物をかむまでに回復した個体がいた一方で、匂いをかげず、音も聞けず、物を見ることもできずに死亡したサルもいたとのこと

最初の頭部移植手術が行われてから35年あまりの間、世界中の研究者たちが脊髄麻痺を治す方法を研究し続けてきましたが、「望みがある」と考えられてきた実験は全て失敗しました。そのため、研究者の中には「脊髄を再構築することは不可能、ゆえに頭部移植も不可能だ」と考える人も多くいます。

そんな中でSergio Canavero医師が進めているのが「HEAVEN(The head anastomosis venture Project/頭部接合ベンチャープロジェクト)」と「GEMINI」という脊髄移植方法。

これまでの常識では、「体の動き」は脳の中で作り出されると言われてきました。脳の中に「オーケストラ」と「指揮者」の両方が存在し、脳から発せられた刺激が脊髄に伝えられ、特別な「モーターハイウェイ1」を通って体に信号を送るというのが定説です。



Canavero医師が言うモーターハイウェイ1とは脊髄の中の白質に含まれる軸索のことで、ちょうど写真のスパゲッティのように100万もの繊維が束になっていて、人間が動くためには繊維の全てが全て必要と言われています。



脊髄の中で、このスパゲッティの束は「運動ニューロン」という神経細胞と接続しています。この流れが人間に「動き」を可能にしています。

上記の内容が一般的に知られている脳と脊髄の関係です。しかし、Canavero医師の研究では、これら一般常識とは違う事実が明らかになっているとのこと。

まず最初にCanavero医師が語ったのは、「脊髄の損傷」と「脊髄の切断」は全く意味が異なるということ。「これが脊髄の損傷です」と言いながらバナナを握りつぶして床に落とすCanavero医師。



そして「GEMINI」における脊髄の切断の説明では、バナナをナイフで真っ二つにカット。

そして切ったバナナを1つの塊に戻します。



脊髄の損傷が脊髄に加える力が2万6000ニュートンなのに対し、非常に鋭利な刃で行うGEMINIによる脊髄切断が加える力は10ニュートンほどなので、白質内の軸索も灰白質内の神経細胞もほとんど傷つけません。そのため、脊髄損傷は回復が難しいのですが、脊髄切断は回復が可能とのこと。

また、研究が進む中で、脊髄から人間の体を動かすプログラムが見つかりました。これは、脊髄が「指揮者兼オーケストラ」である脳の信号を受けて働く奴隷ではなく、脳が指揮者で脊髄がオーケストラという関係であるということを意味します。オーケストラには指揮者がつきものですが、指揮者がいなくてもオーケストラは演奏できます。ただし、その時の音楽は完璧ではないかもしれません。

上記の内容は脊髄に電気的刺激を与える実験で判明しました。脊髄を損傷しないレベルの電気刺激を下半身不随の患者に与えたところ、脊髄を損傷していても患者は立ち上がり、足を動かし、歩き出すことができたとのことです。



さらに、過去の研究のいくつかは、たとえモーターハイウェイ1(軸索)が切断されたとしても、特定の細胞が20%だけ完全に残されていれば、そこから基本的な運動能力を回復することができると示しています。実際にパーキンソン病でモーターハイウェイ1が切断され麻痺症状があった患者でも、動くことができるまでに回復することができたとのこと。

そして、20世紀初頭に研究が発表されたものの、専門家から長年無視されてきた存在があります。それが脊髄における「モーターハイウェイ2」、灰白質の役割です。



人間が動くために必要なものとしてこれまで白質の軸索が重視されてきましたが、長い脊髄の中を通っている灰白質も非常に重要なものであるというのがCanavero医師の主張。脳からの信号が灰白質を通ることで体を動かすことが可能になるとのこと。そして、灰白質であるモーターハイウェイ2は再生スピードが非常に早く、電気刺激を加えると再生スピードはさらに加速します。Canavero医師によると、例えモーターハイウェイ1が全て切断されてしまっても、脊髄の中心にあるモーターハイウェイ2がそのまま残っていれば、わずか1年で四肢麻痺の患者が完全に運動機能を取り戻すことが可能になるとのこと。

そして、切断された脊髄の修復で重要になってくるのが「ポリエチレングリコール(PEG)」という化学物質です。

PEGはGEMINIだけで使われる特別な化学物質というわけではなく、ボディクリームや日焼け止めにも含まれるものです。PEGが初めて人間に対する手術で使われたのは1999年と比較的最近ですが、今では切断された末梢神経の修復に使われています。そして、2015年にはドイツの研究者らが脊髄に損傷を負ったラットにPEGを使うことで、数週間でラットを歩けるまでにしたという報告が発表されました。

Canavero医師の「HEAVEN」「GEMINI」といった方法は、これらの技術を使ったもの。神経性の難病で手足が動かなくなりベッドから離れられない人々、そして西洋医学では問題を解決できない人々のための解決策として、「不自由な体から頭を取り外して、脳死患者の健康な体に取り付ける」という方法が提案されているわけです。「よくある臓器移植のようなもので、肺や心臓を寄付する代わりに体全体を提供するのです」とCanavero医師は語りました。

そしてさらに、頭部移植の技術を発展させていけば、人間は死を克服できる可能性があるとCanavero医師は考えている模様。脳移植が可能になれば、人は自分の好きな体に自分の脳を移植できるわけですが、若いヒトの血漿は認知力を改善するという研究結果と照らし合わせると、脳を若い人間の体に移植することで脳を若返らせて寿命を長くすることができるという理論です。ただし、2016年12月には若い血液に「若返り効果」は存在しないという研究結果も発表されています。



加えて、頭部移植を行う際、患者の体は10度程度に冷却され、一時的に血液の流れも止められるので、患者はその間「死」を体験することになります。手術などで一時的に死を経験した人は「臨死体験」を語ることがあり、脳手術が実現されれば、「死」とは何かの最終的な答えが得られるようになる可能性もあるとCanavero医師は示唆しました。

なお、Canavero医師らの研究に対しては、「サンプル数が少ないこと」「一部の実験で比較対象がないこと」「犬での実験において脊髄が報告通りの程度に切断された証拠が不十分であること」「研究が進められるペースが早すぎること」などから懐疑的な見方をしている研究者も多く存在しています。

しかし、Canavero医師はムービーの最後で「はじめに彼等は無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろう。そうして我々は勝つのだ」というマハトマ・ガンジーの言葉を引用。2017年12月には変性疾患を持つロシアのコンピューター科学者である男性が頭部移植手術を受ける予定と発表されています。