今季から福島ユナイテッドFCの指揮を執る田坂新監督。チームとともに成長したいと話す。写真:小林健志

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 J3リーグ参入4年目を迎える福島ユナイテッドFC(以下福島)。J3リーグ参入以来、3年間指揮を執った栗原圭介前監督に代わり、田坂和昭新監督が就任した。
 
 選手としては日本代表でのプレー経験もある田坂監督はC大阪、清水でコーチを務めた後、2011年より大分の監督に就任。2012年にはJ2で6位となり、J1昇格プレーオフを勝ち抜き、大分をJ1へと昇格させた。しかしその後は苦難の道のり。J1は1年で降格し、2015年シーズン途中で監督解任。同年7月からJ1で下位に低迷していた清水のヘッドコーチに就任し、8月より監督を務めたが、J1残留を達成できず退任。昨年は松本のヘッドコーチを務めたが、J1昇格はならなかった。
 
 ここ数年悔しい思いをしてきた田坂氏が新天地として選んだJ3の福島は、現在のホームスタジアムがJ2の規格を満たさず、J2ライセンスを取得できる見込みが現時点ではない。練習場の十六沼公園サッカー場は人工芝なので足腰への負担が大きい。しかも市の所有なので使用できないことも多く、最悪の場合山形県米沢市など隣県での練習を強いられる。選手もスクールコーチ兼任がほとんど。そんな中ここ3年間は栗原前監督の下、ショートパスをつなぐサッカーを展開したが、昨季は深刻な決定力不足で16チーム中14位と低迷。こうした厳しい環境のJ3クラブで再び監督業に挑むことになった。
 
 1月12日の監督就任会見では「監督の打診があった時『選手を鍛えてほしい』と言われた。指導者になった時、選手とともに自分自身も成長したいと思っていたので、自分の中で求めているものだった。この縁もゆかりもない福島という地で新たな指導者人生を送れるのではないかと心を打つものがあった」とここ数年関わったリーグ残留・昇格が最優先だったクラブと違い、選手育成を求められたことが就任の決め手となったようで「育成に飢えていた」とも語った。「ベテラン選手の選手寿命も少しでも延ばせれば」と若手のみならずベテラン選手も成長させたい意向を示した。
 
 1月16日よりチームは始動したが、さっそく難しい状況が待ち受けていた。降雪により十六沼公園のグラウンドは使えず、屋内練習場でのスタートに。そして集まった選手は19名。確定している新加入選手は2名しかいない。実はまだチーム編成が終わっておらず、28日から神奈川県平塚市で行われる1次キャンプで練習生を集め、編成を確定させる見込みだ。また、GKコーチも現在選任中だ。田坂監督も「こんなのは初めてだ。でも、それが楽しい」とこうした状況をも楽しもうとしている。「本当に大変。10対10の紅白戦もできない。その中でどうやって工夫していくかが大事で、できることを精一杯やる」。厳しい環境を言い訳にせず、全て前向きなエネルギーに変えようと懸命だ。
 田坂監督は目指すサッカーを「密集」という言葉で表わし、攻守で選手の距離が近いサッカーを展開するという。練習ではまず守備時で選手間の距離を近づける形にトライし、選手に細やかな指導を行なっている。「戦術理解の部分はJ1もJ3もそれほど変わらないが、プレーに体現するのが速いのはJ1」と上のカテゴリーとの違いを説明。辛抱強く選手を育てようとしている。若手の成長株で湘南から期限付き移籍延長となったMF前田尚輝は「このまま練習すれば個人としても強くなると思う。指示が一つひとつ細かくて、パスの回転まで指示してくれるので、学ぶことが多い。今季終わった後自分がどうなっているか想像すると楽しみ」と田坂監督の細やかな指導ぶりを歓迎した。
 
 昨季主将を務めた34歳のMF石堂和人も「昨季終わった時引退を考えたが、日本代表まで登り詰めた田坂さんからいろんなことを吸収し、この歳でも成長できるということを若い選手に証明したい。まだまだ変われることを気付かせてもらったので、初心に返ってやっていきたい」とベテランの成長も促す指揮官へ信頼を寄せていた。意欲的に練習メニューをこなす選手たちの雰囲気は非常に良い。
 
 田坂監督は「ここにいる選手は本当にサッカーが好きで、どんな状況でもサッカーがしたかった選手の集まり。共感を持てる。選手が日に日に良くなっていくことを目指している」と厳しい環境に弱音を吐かず、サッカーに取り組む福島の選手たちを成長させようと躍起だ。
 
「間違ってほしくないのは楽しむだけでなく、勝利を目指す。そうでなければサポーターは増えないし、上位を目指すのはどのクラブでも変わらない」
 
 苦難の指導者人生を歩んだ田坂監督は、厳しい環境の中でもサッカーに向き合う選手たちと共に上位進出を目指し、新たなスタートを切った。
 
取材・文:小林健志(フリーライター)