ダイハツは地球の危機を救わなければならないことになった。地球の住民としては人類存続のために「頑張れダイハツ。負けるなダイハツ」と応援しなければならない。そして、ダイハツには悪いが万が一の場合、ダイハツがダメならスズキがいる。突然何を言い出すのか、と思うかもしれないが、その理由は下記を読み進めてもえばわかるだろう。

 

新興国マーケット争奪戦

現在この地球では、毎年ほぼ1億台の新車が販売されているのだが、向こう20年ほどの間に、これが1.5倍になりそうなのだ。どこがどう増えるのかをおおざっぱに言うと、先進国の販売台数はトータルで横ばい。横ばいグループは旧西欧圏、多少成長余地ありなのが旧東欧圏とアメリカ、残念なことに少しずつ縮小して行くのが日本。つまり先進国はにはもう成長余力は大して見込めない。

 

ところが、景気が良い話がまだ世界にはある。例えば、中国でモータリゼーションが始まったのは2000年ごろだが、それから昨年までの17年で、中国国内の販売台数は2500万台まで膨れあがった。つまり、いまや世界の新車販売の4台に1台は中国で売れている。こんなことはもちろん、20世紀には誰も想像すらしなかった。

 

自動車メーカーにとって、新興国マーケットの急成長はもうボーナスステージ以外の何ものでもない。ボーナスゲームで大逆転が可能だからだ。実際、フォルクスワーゲンはベルリンの壁崩壊で一気に広がった東欧マーケットを制し、続いて中国の成長期にも上手く立ち回った結果、2000年ごろには500万台しかなかった年間販売台数は倍増。長らくNo.1の地位にあったGM、それを追い上げたトヨタと並び、トップグループの一角に上り詰めた。

 

当然、次の成長マーケットがどこかは業界の重大な関心事で、アジア、アフリカ、南米、中東がいつボーナスステージに入るのかが自動車産業系ビジネスニュースでは常に話題になっている。

 

そのなかで、次のボーナスイベントが起こる国(地域)として最も期待されているのがインド、次いでASEANである。インドの人口は12億人。10か国からなるASEANの人口は6.5億人で、このなかにはシンガポールのような豊かな国もあれば、カンボジアの様に経済的に貧しい国もあるが、発展度合いに目をつぶって単純に合計すると18.5億人となる。これは中国の14億人の1.3倍だ。この18.5億人のマーケットが中国の成長率と同じだと仮定して電卓をたたくと、現状にプラス2700万台の成長余地があることになる。

 

一方、中国においても富裕層マーケットだけでなく新たに非富裕層マーケットに購買力が付き始めたので、あと2000万台くらいは増えてもおかしくはない。日本の人口対新車販売比率は約4%だから、14億人だと約6000万台。この辺が中国のキャパシティ限界だろうが、モータリゼーションのスタートから40年で、現状の2500万台にプラス2000万台の4500万台という数字は妄想とはいえない予測である。

 

こうした状況分析によって自動車メーカー各社は様々な戦略をとっている。ドイツのメルケル首相が中国に親和的なのは、重要な外貨の稼ぎ先だからだ。フォルクスワーゲンは元々国策でつくられた会社で、長らく同社出身の閣僚が政権に送り込まれている。政府と産業が一体で活動するのはドイツの得意技だ。

 

しかし、そういう大人の世界で戦うには日本はいろいろと都合が悪い。特に中国は隣国であるため利害の対立も多く、政府と産業の利害が必ずしも一致しないからだ。政府にできないなら、それを何とかしなくてはならないのが日本の自動車産業のトップに君臨するトヨタだろう。そのトヨタでは、難しい問題がいろいろある中国ではなく、問題の少ないであろうインドとASEANのマーケットをどう取りに行くかが向こう10年の重要戦略になっている。

 

トヨタはまずアライアンスの強化に乗り出し、スバルの株式の16.48%を保有して筆頭株主となった。次にマツダとの業務提携調整に入り、昨年末にはスズキとも業務提携調整に入っている。ダイハツには50年を越える提携の歴史があり、長らく子会社になっている。連結決算の対象なので、トヨタの1000万台という販売台数にはダイハツの販売台数もすでに含まれている。

 

しかし、トヨタはこれをさらに強化することにした。昨年8月にダイハツの発行済み全株式をトヨタが取得し、完全子会社化を図ったのだ。その狙いはダイハツが得意とするASEANマーケットへのさらなる浸透にほかならない。ダイハツはマレーシアの国策自動車メーカー「プロドゥア社」の大株主で、ミラやブーンといったダイハツのクルマをベースにASEANで成功を収めており、トヨタはこれを足がかりとしてASEANでのシェア拡大を狙っている。

そして、トヨタは小型車の設計生産をダイハツに一任する方針を打ち出した。昨年10月に新興国小型車カンパニーを設立し、トヨタが商品企画やリソースのサポートをしつつ、開発や生産はダイハツが行うことになっている。トヨタはそのリソースを中大型車に集中し、先進国向けの車両開発に特化する。

 

要するに、ダイハツは向こう20年で増加する新興国マーケットでの新車販売台数5000万台の奪い合いにおいて、日本代表の主役に抜擢されたのだ。スバルにもマツダにもスズキにもそれだけの役割はまだ割り振られていない。ちなみにトヨタのアライアンス全体を合計してみると、1540万台になり、いままでの1000万台レベルのトップ争いを一気に抜け出すことになる。そのなかで新興国向けの小型車開発を担うというのはいままでのダイハツにはなかった重責である。

 

 

新車販売の増加に伴う環境問題をどうするか

しかし、1つ大きな問題がある。中国のPM2.5問題を見るまでもなく、クルマが増えれば環境破壊が進む。従来はそういう文明の恩恵を先進国が独占してきたわけだが、これからはビジネスの都合上、新興国で増加するクルマの環境負荷をどうやって抑えるかを考えていかなくてはならない。新車の販売台数が1.5倍に膨れあがるなか、少なくとも現状程度の環境基準を維持するためには、単純計算で環境負荷を1/3低減しなくてはならない。ダイハツはまさにその当事者になった。

 

トヨタのMIRAIやテスラがあるのでは、という声も聞こえてきそうだが、テスラの年間販売台数はまだ10万台にも届かない。MIRAIは2017年に大幅に増産が決定しているが、それもわずか3000台。車両価格が高額なこともあって、新興国で台数がさばける可能性はゼロに等しく、これからの地球環境に対するインパクトはほとんど無いものと考えたほうがよいだろう。だからこそ軽自動車由来の低燃費技術を安価に提供できるダイハツが、トヨタ・グループの主力として新興国戦線を戦うことになったのだ。

 

ダイハツが「軽の技術でコンパクトを変える」というメッセージを打ち出している背景にはこれだけの理由があるのである。

 

完全子会社化以降の船出は順調

さて、トヨタ・グループの新戦略開始以降最初の成果がダイハツ・トール、トヨタ・ルーミー、トヨタ・タンク、スバル・ジャスティの4兄弟車である。もちろん2か月かそこらでクルマができるはずもなく、開発そのものはダイハツ単独で進めてきたはず。今回の4兄弟車の発売は、ダイハツが設計・生産したクルマをトヨタアライアンスで販売する実験的位置づけだったはずだ。

↑ダイハツ・トール

 

↑トヨタ・ルーミー

 

↑トヨタ・タンク

 

↑スバル・ジャスティ

 

この実験は結果からいえば大当たりで、月販目標台数各3750台に対してルーミーは1万8300台、タンクは1万6700台を受注した。世界戦略のなかでは小さな一歩でしかないが、ダイハツにもトヨタにも、あるいは従来このクラスに商品を持っていなかったスバルにとっても変化を確信できるステップになったはずである。

 

新興国マーケットが発展を遂げたあと、地球環境がどうなっているか、日本の自動車産業がどうなっているかはいまだ不透明だ。しかしそれがどうなるかという現場でいままさに打席に入っているのがダイハツなのである。同社の小型車技術は果たして地球を救えるのか、それは世界にとっても、日本にとってもかなり重要な問題なのである。

 

【URL】

ダイハツ トール https://dport.daihatsu.co.jp/car/thor/