ロジャー・フェデラーは、3時間24分におよぶ5セットの末に、錦織圭を破った瞬間、まるで優勝したかのように、コーチ陣に向かって目を見開いて雄叫びを挙げながら、飛び上がって喜んだ。それだけ錦織とのグランドスラム初対決が簡単ではなかったことを象徴するようなシーンだった。

 オーストラリアン(全豪)オープンテニス4回戦で、第5シードの錦織(ATPランキング5位、1月16日付け、以下同)は、第17シードのフェデラー(17位、スイス)に7−6(4)、4−6、1−6、6−4、3−6で敗れ、メルボルンで3年連続のベスト8進出はならなかった。

 第1セットの立ち上がりは、フェデラーのミスが早いうえに多く、錦織が第1、第3ゲームのサービスブレークに成功して一気に5−1とリードを奪った。

 しかし、錦織が「5−2から格段に彼のテニスがよくなった」と振り返ったように、フェデラーのミスが減って、プレーのリズムが合い始めて、逆に錦織が2回サービスブレークをされて追いつかれてしまう。どうにかタイブレークを錦織が制して第1セットを先取した。

「他の選手より展開が速いですし、(返球が厳しいので)甘いボールを1球も打てないという面で、他の選手と比べると難しい」

 こう錦織が語ったように、フェデラーは、サーブ&ボレーを織り交ぜたり、リターンからネットにつなげたりして終始攻撃的なプレーに徹した。

 ダンテ・ボッティーニコーチは試合前に、「ロジャーをベースラインにとどまらせるようにしないといけない」と指摘したが、それは錦織にとって今回も簡単なことではなかった。さらにフェデラーはラリー戦でも、機を見ては得意のフォアに回り込んで逆クロスやダウンザラインに仕掛けていった。だが、実のところフェデラーも自らの闘志を奮い立たせて必死だったのだ。

「最後まで圭に食いついていけるかどうかが問題だったんだ。それができてスーパーハッピーだよ」

 錦織のセカンドサーブのポイント獲得率は42%と振るわなかった一方で、フェデラーのファーストサーブのポイント獲得率は80%と高く、サービスエース24本やフォアハンドウィナー26本を含めて、トータルで83本のウィナーを錦織へ放った。

 初めてフェデラーとグランドスラムで戦い、錦織は何を学ぶことができただろうか。

「まだ、負けたばっかりなので、難しいですけど......。今日はサーブの入りがそこまでよくなかった。ファーストサーブをもうちょっと入れていれば、展開も変わっていたと思う。特に後半セカンド(サーブ)を攻められてしまった場面も多かったので、サービスゲームがいつもより悪かったかもしれないですね」

 錦織とフェデラーのグランドスラム初対決は、名勝負に数えられる試合であったのは間違いない。だが、故障明けの35歳フェデラーに、27歳の錦織が勝てなかった現実を踏まえると、錦織からすれば、この接戦を評価してもいられない。

「圭は集中を高めてコートに入って、勝利に向けてとにかくハングリーである必要がある」とボッティーニコーチは望んでいた。だが、大舞台でそれができたのは、グランドスラム初優勝を目指す錦織ではなく、グランドスラム17勝のフェデラーだった。

 また、ファイナルセットには錦織がメディカルタイムをとって、左腰をトレーナーにマッサージをしてもらう場面があった。「疲労もあったので難しかったけど、気持ちは最後1セットに向かっていたので、気負うことはなかった」と話したものの、今後のシーズンに不安を残した。果たして突発的なものなのか、プロ10年のキャリアからくる疲労の蓄積なのか、細心の注意を払わなければいけないだろう。

 準々決勝で対戦する可能性があった第1シードのアンディ・マリー(1位、イギリス)も4回戦で敗れる波乱があったが、残念ながら錦織はこのチャンスを活かすことができない。

「もったいないとしか言いようがないですね。マリーも負けて。(優勝の)チャンスはあったので、(ベスト16という成績は)もの足りないですね」

 2017年は、マイケル・チャンコーチと4年目のシーズンとなる。錦織をグランドスラムチャンピオンに導けるかどうか、コーチとしての手腕も問われる。

「個人的にはここ3年間、圭の進化を見てこられたのはよかった。コーチとして、選手がよりよくなるように導いてきたつもりです。今年は過去3年以上に、より大きな結果を見ることができたらと思っています。圭はハードワークをしているし、正しい方向に進んでいるでしょう。圭にはグランドスラムタイトルを獲れる可能性があります。それを見届けたいですね」

 ボッティーニコーチも、錦織のビッグタイトルを期待しながら新しいシーズンに臨んでいる。

「グランドスラムの優勝は毎年変わらない目標です。すべての面で向上しなければいけません。2週間大会の最後まで、毎試合集中して戦わないといけません。少しずつでも、すべてが成長することで、2週間最後まで戦うことができるのです。それが起こることを望んでいます。(マスターズ1000初優勝やグランドスラム初制覇といった)大きなチャンスが来ると思います。ここ数年、確実に近づいていますから。今年は何とかマスターズタイトルを獲りたいですね」

 そして、錦織自身も「自分がやれることを精一杯やって、いつかタイトルに近づけるように頑張りたいと思います」と締め括った。自身の可能性と力を信じ、フェデラーからの敗戦を糧にして歩みを進めなければならない。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi