間違いなくテニス史上における世紀のアップセットとして数えられる、ジョコビッチのまさかの敗戦だった――。

 オーストラリアン(全豪)オープンテニス2回戦、ディフェンディングチャンピオンで第2シードのノバク・ジョコビッチ(ATPランキング2位、1月16日付け、以下同)が、デニス・イストミン(117位、ウズベキスタン)に(8)6−7、7−5、6−2、(5)6−7、4−6で敗れて、ジョコビッチの全豪3連覇と7回目のタイトルは夢と消えた。

 過去にジョコビッチはイストミンと5度対戦して、一度も負けたことがなかった。

「世界2位に勝てるなんて思ってもみなかった」と笑いながら勝利を喜んだイストミンは、昨シーズンの度重なるケガによって、世界ランキングを100位以下に落としていた。そのため、2016年12月に中国・珠海で開催された、オーストラリアンオープン アジア・パシフィックワイルドカードプレーオフに出場。そこで優勝して、アジア・パシフィック推薦枠を得て全豪の本戦出場を果たしていた。

 2回戦では、イストミンが思い切りよく放った、スピードがのったグラウンドストロークに伸びがあり、ジョコビッチサイドのコート深く入った。特に、バックハンドのダウンザラインへのショットは神がかっていて、何度もジョコビッチを追い詰めた。

「デニスは驚くべきプレーをしたし、勝利に値する。彼は大事な場面でまったく神経質にならなかったからね」

 こう試合を振り返ったジョコビッチが、全豪で早期敗退するのは2006年大会の1回戦以来で、当時はまだ18歳だった。また、グランドスラムでの2回戦敗退は2008年ウインブルドン以来となった。ジョコビッチは全豪マッチ58勝を挙げている。これは、オープン化(プロ解禁)以降では史上2位の記録で、大会との相性がよかっただけに、この敗戦のインパクトは大きい。

「オーストラリアンオープンの2回戦で負けることはめったにないこと。メルボルンでは、いつもすごくいいプレーができていたし、ここ10年で6回のタイトルを勝ち取ったんだからね。もちろんがっかりしているけど、この事実を受け止めなければいけない」

 この敗戦は、アンディ・マリー(1位、イギリス)との"2強時代"に終止符が打たれるきっかけとなるのか? それを判断するには、もう少し時間をかけるべきだろう。

 ジョコビッチは2016年ローランギャロス(全仏)テニスで初優勝して、キャリアグランドスラム(テニス4大メジャー全制覇)を達成以降、やや精彩を欠いた時期が確かにあった。2014年シーズンからツアーをともにしていたボリス・ベッカーコーチとの師弟関係も、2016年12月をもって終了した。そして、今は新たなモチベーションを模索している。

「もしナンバーワンに戻れたら、もちろん素晴らしいけど、それが一番の優先順位ではない」(ジョコビッチ)

 グランドスラムで、ジョコビッチと数々の名勝負を演じてきたラファエル・ナダル(9位、スペイン)は、ジョコビッチのアップセットを、いたって冷静に受け止めた。

「今日起こったことは、たぶんアクシデントのようなもの。ノバクはいいプレーをしている。誰もがコートに出て負けるケースはある」

 ジョコビッチは5月に30歳になるが、1年前に見せていた絶対王者のような強さが影を潜めているのは確かだ。だが、競争が激しい男子テニス界で長く勝ち続けることはまさに至難の業で、ジョコビッチ自身も「(グランドスラムの)メインドローには100人以上の選手が名を連ねてプレーしている。年々、テニスのクオリティは上がり続けている」と、自らも少しずつ進化していかなければ、時代に取り残されてしまうことを痛感している。

 2017年シーズンの開幕戦、ATPドーハ大会(カタール)で、ジョコビッチはすでに今季初優勝を遂げて、いいスタートを切っていた。

 ジョコビッチにとっては、同い年のマリーが一番のライバルであるのは間違いないが、再びジョコビッチの闘争心に火をつけるのは、今季復活を期す35歳のロジャー・フェデラー(17位、スイス)や30歳のナダルだったりするのかもしれない。いずれにせよジョコビッチは、必ず巻き返しを図ってくるはずだ。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi