●3回目の『君の名は。』鑑賞だが・・・。

 先日、『君の名は。』をもう一度見に映画館へ行った。これで3回目。最初は東宝試写室で、2回目は川崎チネチッタのLIVE ZOUND上映で、そして3回目はユナイテッド・シネマとしまえんのIMXAX上映だ。巨大な画面と立体的な音響が売り物のIMAXだが、この映画の場合は単に画面が大きくなったことで映像に迫力が増したとか、ディテイルがはっきりと見えるようになっただけではなく、この映画独自の世界に、どっぷりと浸れることの心地よさを感じさせる。3回見た『君の名は。』の中で、ベストな鑑賞環境であり、鑑賞後の満足度も最も高かった。

 とは言うものの、白状すると、この映画のストーリーが、未だにちゃんと分からない。瀧クンと三葉ちゃんの肉体が入れ替わる。そこからドラマが転がり始めるのだが、「瀧クンの肉体だけど、内部は三葉ちゃん」である時と「三葉ちゃんの肉体だけど、実は瀧クン」のあたりの表現が混乱して、「あれ、今見ているキャラは、どっちなんだ?」と分からなくなったり。それはそれで楽しいことではあるのだけれど、映画に描かれたストーリーがすべて把握出来ないというのは、なんとももどかしい。

 新海誠監督自身の手によるノベライズ小説が出ているのは知っているけど、小説1冊読みこなす時間がない。つーか拙宅の一角には未読の本が山のように積まれているので、そこに割り込ませるわけにはいかない。じゃあ、パンフレットを買おうか。それがいいそれがいい。ありゃ。『君の名は。』のパンフレットって2種類出ているんだなあ。通常バージョンとは違う「Vol.2」は最近発行されたらしいけど、1本の映画に2種類のパンフレットが存在するという事態は、極めて珍しい。かつて1本の映画に2種類のパンフが価格差をつけて同時に発行されることはあったけれど、映画のヒットを受けて第2弾のパンフが発行されるなど、我が国映画パンフレットの歴史では初めての出来事に違いない。


●ネタバレという強迫観念

 昨今ではストーリーをすべて把握したいがためにパンフレットを購入しても、その目的が達せられないケースが多い。ストーリーが結末まで書かれていないのだ。所謂「ネタバレ」を回避するためなのだろうか。このネタバレ問題、我々のような業種にも深刻な問題だったりする。昨今では映画の内容を詳しく記述したり、映画のラストまで明かしてしまうと「ネタバレだ!!」と集中攻撃を浴びる傾向が、すこぶる強い。SNSなんかでは、もう世界中を敵に回したような扱いをされたりする。この困った風潮については色々と主張したいこともあるけれど、まあ観客の立場になれば分からないこともない。ただねえ、パンフレットというのはまた違う出版物だと思うのだよ。映画館でしか売ってないし、基本的に映画を観に来た人しか買わない。『君の名は。』を見ていないのに、『君の名は。』のパンフレットを買う人なんていないだろ。だからストーリーも結末まで全部書いて欲しいし、監督へのインタビューでも、「映画を見て初めて分かる」部分に触れていても、パンフであれば許されることだと思うのだ。


●パンフレットは作品についての知識が深まるものであって欲しい。

 『君の名は。』のパンフレット、「Vol.2」が発行されたのは、映画が想定以上のヒットになったこともそうだが、やはりこの映画についての理解をもっと深めたいというニーズを東宝サイドが嗅ぎ取ったからではないだろうか。何せ情報量が多い映画だから、1回見ただけでは分からない箇所も少なくない。まあそれ故にリピーターが増えたおかげで、興収232億2500万9200円(本稿執筆時点)の大ヒットになったわけだけどね。

 映画のパンフレットに求められるのは、記録性もビジュアル性もあるけれど、一番大切なのは「作品の理解を、より深められる」ことだと考えている。『君の名は。』パンフレットVol.2には、通常のパンフレットに掲載されている「ストーリー」「解説」、スタッフ、キャストのプロフィールなどは一切掲載されていない。全46ページのうち、ほとんどが新海監督やスタッフ、神木隆之介をはじめとする声の出演者へのインタビュー・取材だけで構成されている、実に潔い構成だ。

 中でも声の出演者インタビューが面白いのは、それぞれのキャストに同じ質問をぶつけているところだ。「この映画がたくさんの方に支持されている理由は何だと思いますか?」「お好きなシーンを3つあげてください」「運命の出会いを信じますか?」等々。それぞれの回答から、それぞれの個性、役のとらえ方の差やポリシーが見えてくる。奥寺先輩こと長澤まさみは「運命の出会い...信じません(笑)」と言い切る。細かなことだが、同じページに掲載されている写真3点に、「好きなシーン3つ」に該当する写真をちゃんと選んで掲載している、この配慮がうれしいじゃないか。

 新海監督による『君の名は。』の基本構造についての解説、公式ホームページに寄せられた質問に回答するあたりは、まさしく『君の名は。』という作品をより深く理解するのに絶好のガイドになっている。結局この映画のストーリーをどう解釈したら良いのか?という筆者の希望は直接的にはかなえられなかったが、新海監督はじめスタッフ、キャストの人たちの発言を読むことで、ぐっと『君の名は。』に対する理解が深まったような気がする。映画パンフたるもの、常にこうした発見と理解を示唆する存在であって欲しいと思う。

 それにしても、新海監督の発言でショッキングだったのは「奥寺先輩と司は婚約したのだと思います」との一言。おのれ司・・・!

(文/斉藤守彦)