子どものニセ発作とマジ発作を見分ける方法を編み出した【こだま連載】

写真拡大

【こだまの「誰も知らない思い出」 その3】

――――――――――――――――――
 自身の“愛と堕落の半生”を、ユーモアを交えて綴った『夫のちんぽが入らない』(1月18日発売)が早くも話題の主婦こだま。

 彼女は閉鎖的な集落に生まれ、昔から人付き合いが苦手で友人もいない。赤面症がひどく、人とうまく話せなかったこだまはその日の出来事をノートに書いて満足するようになった。今はその延長でブログを続けている。

 家族、同級生、教員時代の教え子、相部屋の患者。当連載は、こだまが、うまくいかないことだらけの中で出会った、誰も知らない人たちについての記録である。
――――――――――――――――――

◆ヤスカワのマジ発作

 ヤスカワ君が白目を剥いて、崩れるように倒れた。

「おーい、ヤスカワ君。聞こえますかぁ?」

 私は肩を揺さぶり声を掛けたが、ヤスカワ君は反応しない。

 障害者施設に勤めて半年が経つ。ヤスカワ君は自分の都合が悪くなったときや、注目されたいときに、ニセの発作を起こして倒れる癖がある。その演技力は救急隊員も騙されるほどの腕前だった。

「おーい、ヤスカワ君。どこが苦しい?」

 反応がない。彼は既に今週5回のニセ発作を発動している。きょうはどっちだろう。ニセなのか。それともマジのやつだろうか。

 初めてそれに遭遇したときは心底驚いた。大変だ、緊急事態だ。私は全速力で廊下を走り、他の職員を呼んだ。しかし、命に関わるかもしれない一大事だというのに、同僚は、のらりくらりとやって来た。そして私の耳元で囁いたのだ。

「ニセの方かもしれません」

「は? ニセ?」

「ちょっと見ていてください。反応するかもしれない」

 そう言って同僚は、突然スイッチが入ったように切迫した声を上げた。

「大変だー! これは救急車を呼ばなきゃ駄目だ! 次に倒れたら病院で注射を打つ約束をしていたんだ! 早く病院に運ばなければ!」

 するとヤスカワ君の肩がビクンと反応した。

「んっんんっ・・・・・・」

 静かに目を開け、自ら身体を起こしたのである。

「大丈夫か? 救急車を呼ぶか?」

「もう大丈夫みたい」

 そう言うや否やムクッと立ち上がり、何もなかったようにスタスタとどこかへ行ってしまった。ニセだったのだ。あまりの変わり身の早さに私と同僚は顔を見合わせて笑った。

「あ、でも100回に1回くらいマジのときがあるから気を付けて下さい。去年は2回マジの発作がありました」

「マジの発作のときは、どんな感じになるのですか?」

「今と全く一緒です。いつまでも反応がなかったらマジのやつです」

「すごく難しいですね・・・・・・」

「だから毎回マジのつもりで対応してください」

 さて今回はどっちだろう。

 私は、白目のままで硬直するヤスカワ君に声を掛けた。

「体温を計らせてもらうよ。ちょっと脇を上げて」

 彼は白目のまま、スッと左脇を上げた。死体のように白目を剥いた人間がこんなに協力的なはずがない。

「ヤスカワ君、起きているのね?」

 体温計のピピッと同時に彼は起き上がり、スタスタと消えていった。

 もちろん毎回「こんなことをしていたら本当に苦しいときに助けてもらえないかもしれないよ」とヤスカワ君に注意している。だが、やってしまう。やってはいけないとわかっているはずなのに、都合が悪くなるとやってしまうのだ。どれだけ言ってもヤスカワ君は白目で横たわる。とても人間らしい行為だと思う。

 私は独自に編み出した「必要でもないのに体温を測り、その協力具合から見破る」方法でマジの回に備えている。

※当連載は、同人誌『なし水』に寄稿したエッセイ、並びにブログ本『塩で揉む』に収録した文章を加筆修正したものです。

<TEXT/こだま>