軍視察時に拳銃を構える金正恩氏

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北朝鮮の秘密警察の部隊内で銃乱射事件が発生したと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。中朝国境の税関の警備を担当する部隊内で起きた銃乱射事件により、小隊長や兵士7人が死亡したという。一体なにが起きているのか。

女子大生さえ拷問

秘密警察、国家保衛省(前国家安全保衛部、以下:保衛省)は、金正恩独裁政権を陰で支える要の機関だ。国民の一挙手一投足を監視し、強制収容所も運営する。保衛省が運営する収容所で常態化している人権侵害は、ナチス・ドイツがアウシュビッツ強制収容所で行ったユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)に匹敵すると言っても過言ではない。

保衛省の建前はあくまでも反体制的な動きの取り締まりや治安維持が、北朝鮮自体が貧乏国家であるがために予算は少なく、逆に国家に上納金を納める義務がある。そこで保衛省は、彼らの持つ独自の権力と暴力を活用して北朝鮮の富裕層や庶民から収奪し、さらに金儲けが目的化するケースも少なくない。

その過程では、筆舌に尽くしがたい拷問が行われている。昨年5月には韓流ビデオのファイルを保有していたという容疑だけで女子大生に拷問を加えた。その女子大生は、過酷な拷問やその後に待つ拘禁生活に絶望し、自ら悲劇的な道を選んだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

金正恩体制を支える部隊だけに、それなりのエリートとも言える。また、国境の警備部隊となれば、かなりのコネと財力のある家の息子でなければ入れない。その部隊で今回のような物騒な銃乱射事件が起きたのだ。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、事件が起きたのは今月7日の午前5時ごろ、恵山(ヘサン)税関の保衛小隊でのことだ。

夜通し歩哨に立っていた兵士Aは、武器を持ったままで兵舎に戻ってきた。次に歩哨に立つ予定の兵士Bが時間までに現れなかったので、起こしに来たのだ。しかし、交替時間が守られなかったことを知った副小隊長は、兵士Aの顔を歯が折れるまで殴りつけた。

これを見た兵士Bは激昂し、その場で副小隊長を射殺。Bは、銃声を聞いて駆けつけてきた小隊長と兵士6人も射殺したという。結局、この小隊で生き残ったのはAとBの2人だけだった。2人は平壌の国家保衛省の本部に連行された。情報筋は「両江道の司法機関が箝口令を敷いているため、これ以上の詳しい経緯はわからない」としている。

この部隊は、保衛省傘下の両江道安全保衛局直属の独立小隊で、小隊長と政治指導員兼副小隊長、7人の兵士からなる。保衛省の事情に詳しい別の情報筋は、昨年入隊したばかりの兵士AとBが、上官から頻繁に暴力を振るわれていたことが事件の背景にあると見ている。

国境警備隊はかつては、密輸や脱北を見逃すことによって、住民からワイロをせしめてきた。泣く子も黙る拷問部隊ではあったものの、良くも悪くも北朝鮮の商売人や庶民たちと持ちつ持たれつの関係だった。しかし、金正恩党委員長は国境警備を厳格にし、腐敗も厳しく取り締まる方針を示している。配属された上官も兵士たちも、以前ほどの利権にはありつけていない。こうした変化が今後も凶悪事件を誘発する一つの要因になるかもしれない。