横綱・稀勢の里、大相撲を頼むぞ!

入幕から10年あまり、大関昇進から5年あまり、長い長い雌伏の時間。大相撲を背負って立つ男はほかにいないという大きな期待と、その期待を受け止めるにはもろすぎた心。思いどおりにいかない人生というものを何度も何度も見せつけてきた稀勢の里が、ついに幕内最高優勝をはたしました。

ダメなのかもしれないと何度も諦めてきました。しかし、そのたびに横綱としか表現できない強い相撲で、燻る期待に火をつけてきた。何故この相撲を自分の勝機にできないのか。心が弱いと言えば一言ですみますが、それにしてもままならなすぎる弱さと強さの不可思議な波。稀勢の里を応援して見守る相撲は、氷の上を歩むような緊張感と疲労をともなうものでした。

そうか、そんなに心が弱いなら、期待を見せまい。負ける理由を探し、ダメな未来を予見し、いつしか名前を呼ぶことすら止め、願掛けのように見守ってきた。自分の期待が呪いとなって稀勢の里の肩に載って負けてしまうようなジンクスまで作って見守ってきた。もう、その願を解いていいのかと思うと、自分まで解放されたような気持ちです。

14日目、白鵬が負けて稀勢の里の優勝が決まった日、僕は国技館にいました。夢のようでした。ずっと待ちつづけた瞬間に立ち会えたこと。すぐにも褒め称えたいような気持ちで筆をとりました。しかし、その筆は止まります。これで横綱昇進は確定的であり、その資格は十二分にあることを語る文面は、何かが違っていた。何かが不足していた。

理屈はまったく変わりません。昨年は年間最多勝もとり、直近6場所での勝星74勝は日馬富士が平成二十四年名古屋場所〜平成二十五年夏場所に記録した自己ベスト「6場所74勝」に匹敵するものであり、力量としてはまったく「横綱」に不足するものはありません。何年も前から、いつ横綱にしてもいいだけの力量はあった。

横綱審議委員会の掲げる内規にある「二場所連続優勝」も原則に過ぎず、「品格、力量抜群」こそが真の基準。準優勝⇒優勝という形での昇進にはまったく問題はなく、これまではただただ幕内最高優勝を未経験であるがゆえに大関に留まってきただけのこと。14日目時点で横綱昇進は確信できるものでした。

そのことをとうとうと説きながら、頭に浮かぶ舞の海の形をした有象無象の顔を想ったとき、筆を止めたのです。千秋楽の相撲を見る前に、稀勢の里の強さを説くことは、信じる気持ちを裏切る行為のように思えたのです。もう信じてもいいのだ。本来あるべき運命に稀勢の里は戻ってきたのだ。これまで待った時間の長さを想えば、もう一日待つくらい何でもありません。

「勝て!」「勝つ!」「勝って運命をねじ伏せる!」

千秋楽結びの一番。相手は大横綱・白鵬。何度も何度も稀勢の里の優勝を阻んできた因縁の相手。稀勢の里が白星を重ねた場所に限ってその前に立ちはだかり、「今日勝てば優勝」という日に壁となってきた。白鵬という壁を、14勝以上が未経験という壁を、力強く打ち破って堂々と横綱の名乗りをあげよう。もう、その未来を信じる気持ちに迷いはありませんでした。

↓そして迎えた白鵬との取組は、押し込まれながらも強烈な左のすくい投げで勝利!



凛々しい表情!

迷いのない立ち合い!

ねじ込んだ得意の左差し!

強烈な腕ヂカラ!

これが稀勢の里だ!

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「稀勢の里には何かが足りない」「宿命が足りない」とまで言われた相手を土俵に転がして勝ち取る優勝。いつもなら足早に風呂に逃げ込む男が、悠然と支度部屋に下がり、大銀杏を結い直し、優勝の喜びを語る。もう何の不足もないはずです。これぞ横綱・稀勢の里の姿です。

足りない「何か」を思いながら過ごしてきた5年あまり。一般論で言えば答えは「心」だったのでしょう。確かにそれは足りなかった。立ち合いの前に目をパチパチさせ、くちびるをモーニョモーニョ動かすさまは「心弱っ!」と驚くものでした。ただ、あれほどの期待を背負えば、そうなるのも仕方ないでしょう。五輪で震えるアスリートは少なくないように。自分のため以外に戦う理由となる「家族」や「友」、相手が勝手に負ける「運」があれば、ここまで「心」を問われることもなかった。

ようやくここにきて、足りない何かを少しずつ埋めるような状況が整ってきました。本人の精進は言わずもがななのでスルーしますが、まず同部屋の高安の成長を挙げたい。今場所も白鵬に土をつけるなど援護としての意味合いも大きいですが、何よりも部屋での稽古において強い同部屋力士との番数を積めることが、日々の充実につながってきた。それが昨年の年間最多勝にも好影響を与えていたと思います。

また、とりわけ今場所光ったのが土俵際での逆転。今場所は危ない相撲をことごとく土俵際の粘りでモノにしてきました。松鳳山戦の突き落とし、隠岐の海戦の突き落とし、そして白鵬戦のすくい投げ。逆転の白星が今場所の好成績、優勝につながったことは間違いありません。そこには、そもそも粘って残せる足腰というものがありつつ、伝家の宝刀・突き落としをためらわず抜く取り口の完成があったように思います。

かつてはどうしてもためらいながら二の策としての突き落としというか、まず正面からの押し合いを旨とするような向きがありましたが、最近は押されてアッとなった瞬間に全力で突き落としにいく思い切りのよさが見られます。仕方なく繰り出すのではなく、戦略の一部として積極的に繰り出すことで、逆転が間に合う。

それはまるで闘牛士の動きのようでした。正面で受け止めるばかりではなく、反転して左右に振って相手の勢いを逆に利用するような取り口が、引き技や変化がないことで「思い切ってぶつかっていける」稀勢の里の隙を埋めてくれた。「前への圧力」に加えて、土俵際の「粘り」、持ち前の「柔かさ」、大柄でありながら「身軽」な動き、持てるチカラを総動員するような取り口の完成が、「心」の不足を「技術」で埋めて優勝を手繰り寄せた。そこに稀勢の里の成長というか、到達があるように思います。

↓昔ならこの辺で負けていた中日の相撲も、思い切った突き落としで粘った!


「前への圧力」と「伝家の宝刀・突き落とし」!

どちらも稀勢の里の相撲!

ストレートとフォークで押すピッチャーのように、前後の両極端の動きで相手を制する!

文句なしの形で優勝を決めたあとの表彰式。歓喜の国歌斉唱。ついに抱いた賜杯。受け取った優勝旗。やっとその手に届いたか、稀勢の里に渡したくてたまらなかったという相撲を愛する人の総意が、満たされていました。そして優勝インタビュー。次々にこぼれる涙は、ここまでのぶんを一気に放出するかのようでした。いつも風呂場で流してきた涙を土俵で流す。僕も、あの人も、あの人も、みんながみんなが報われました。

↓今日はしっかりと受け答えをできた涙の優勝インタビュー!


「ありがとうございます!」
「ホントにありがたいですね」
「ずいぶん長くなりましたけど」
「本当にいろんな人の支えがあって」
「ここまでこれたと思っています」
「(最後の一番は)もう最後必死に残して…」
「ハイ…」
「一日一番という気持ちで集中して」
「やってこられたのが…(涙)」
「よかったですね…(涙)」
「(横綱昇進については)そうですね…」
「一生懸命今まで自分の相撲を信じて」
「どんどんまた稽古して」
「また強くなって」
「またみなさんにいい姿見せられるように」
「頑張りたいです!(涙)」
「本当に温かい声援」
「いつもありがとうございます」
「チカラになりました」
「また来場所、期待に応えられるように」
「一生懸命頑張りますので」
「今後ともよろしくお願いします!」

↓そして稀勢の里は優勝パレードへ!


1回だけじゃなく、何回もやろう!

今の稀勢の里なら何回もできるはずだ!

↓夜のサンデースポーツでは「去年の不気味な笑顔なんだったんすか?」というド直球の質問も!

「抜き過ぎじゃないですかね!」
「(この顔は)精神状態じゃないですかね」
「今場所は落ち着いていたというか」
「その日はその日だ、と」
「いいことも悪いこともその日で終わり」
「いいことも引っ張りすぎたこともある」
「一日一日、その場で終わる」

多分ね、去年は悩み過ぎて病んでたよね!

悩みの先の病みを越えて、普通に戻ってきたわ!

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今後は横綱として日本の大相撲を背負って立つことになる稀勢の里。この昇進は、単に土俵の充実という意味以上に大きなものがあります。68代・朝青龍から71代・鶴竜までの4人の横綱は、すでに朝青龍がそうしたように、現役の終わりとともに角界を離れる可能性があります。制度上の障壁もありますが、彼らには彼らの守るべき相撲があるのです。

としたときに、日本の大相撲にはすでに長い「横綱の空白」が生まれています。日本出身力士で言えば若貴以降、日本に残った力士としても武蔵丸以降、14年もの空白が生まれています。モンゴルからきた強い力士は、土俵の上の空白は埋めてくれますが、土俵の外…将来の大相撲運営者としての空白までは埋めるに至っていません。

「横綱とは何か」「相撲とは何か」

答えのない問いを自問自答し、土俵のなかで答えを見つけていくことができるのは、横綱のみ。稀勢の里は、本来そうなるだろうと期待されたとおりに、やっと「横綱」と「相撲」を継承する立場に至りました。北の湖・千代の富士の早逝、若貴のよくも悪くも変わった人柄。誰かが受け継がねば、将来の大相撲に大きな空白を生んでいたであろう時代を、やっと稀勢の里が継承してくれた。

今後はより一層、その立場にある者としての相撲であったり振る舞いであったりが求められます。カメラの前にも積極的に立ち、相撲と関係のない事柄であっても相撲を代表して行動していくような生き様が必要となります。「優勝」「14勝以上」といった不足が埋められていくなかで、最後に求めたい不足、それは「自覚」。自分が大相撲を背負い、次の時代へとつなげていく継承者なのだという自覚を持って、精進していってほしいものです。

稀勢の里ならきっと大丈夫。どんなときも腐らず、土俵に立ちつづけてきた姿勢。「横綱相撲」を貫いてきた相撲道と真っ直ぐに向き合う誠実さ。優勝していないこと以外はすべてが横綱だった。今のまま、精進していってください。もう心配事は何もありません。

おめでとう稀勢の里、ありがとう稀勢の里、頼むぞ稀勢の里!

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大横綱、名伯楽、理事長、全部を期待してももう大丈夫だよな!