アンガーマネジメントとは、怒りの感情をコントロールするための心理トレーニング法です。(中略)いわば、自分の中に沸き起こる怒りの感情を鎮め、味方につけることによって、思考のパラダイムシフトを起こし、人間関係やビジネスシーンにおいて、よりよいものにしていくことです。(「はじめに」より)

最近よく聞くアンガーマネジメントについて、『人生が変わるアンガーマネジメント入門 怒りを味方につける9つの習慣』(瀬戸口 仁著、日本実業出版社)の著者はこう説明しています。

日本アンガーマネジメント協会公認のアンガーマネジメント・ファシリテーターであり、長年にわたって野球を中心としたスポーツ界に身を置いてきたという人物。アメリカのニューヨークに住み、本場のアンガーマネジメントを目のあたりにし、その効用を目に焼きつけてきたのだそうです。

しかし注目すべきは、ポジティブ思考の人が多いアメリカと、ネガティブ思考の人が圧倒的に多い日本とは、アンガー(怒り)の度合いが違うということ。そこで本書では、日本人に合ったアンガーマネジメントのテクニックを、わかりやすく解説しているわけです。

アンガーマネジメントの考え方では、けっして怒りを否定しているわけではありません。怒りと上手につきあって、怒りを味方につけるのがアンガーマネジメントの本来の目的です。怒りを上手にコントロールして幸せな人生を歩む一助にしてほしいのです。(「はじめに」より)

そんな本書の、PART 2「怒りを消す、鎮める!」から、興味深いトピックスを抜き出してみましょう。

カウントバック【怒りのピークは6秒で終わる】


著者によれば、人の怒りがピークで維持される時間は6秒。意外に短い気がしますが、だからこそ、この6秒の間に「反射」をしてはいけないのだそうです。反射とは文字どおり、反射的に「なにかをいう」「いい返す」「なにかをする」「仕返す」ということ。「あなたはいつもそうなのね」「お前だっていつも○〇だろ」というような「売り言葉に買い言葉」など、まさに反射の典型例だといいます。

怒りがこみ上げてくると、顔が紅潮したり、心臓の鼓動が早くなったり、体に変化が生じるもの。これは神経伝達物質であるノルアドレナリンが分泌されることによって引き起こされるもので、ノルアドレナリンによる興奮状態が体内をめぐって落ち着くまでには6秒ほどかかるというのです。だとすれば、怒りを鎮めるには、この6秒をいかにやり過ごすかが重要だという考え方。つまり、その6秒間を我慢することができれば、興奮状態を鎮静させることができるわけです。

そこで重要なのが、「カウントバック」。怒りを感じたときに、頭のなかで数を数えることです。怒りの感情から意識をそらし、相手に対して反射的に言動をしないためのテクニック。これを使って意識を一瞬だけ違うところに飛ばすことで、衝動にまかせた取り返しのつかなくなるような言動を回避できるというのです。

やり方は、大きな数字から等間隔で一定の数字を引いていくだけです。
たとえば、100から始めて3ずつ引いていく(100、97、94、91...)とか、90から2ずつ、80から6ずつ、など自分の好きな方法でけっこうです。
また、数字が嫌いな人は、好きな野球チームの打順をあげてください。1番・○○、2番・△△、3番・□□...です。面倒くさければくさいほど効果的です。
とにかく、6秒間、怒りをやり過ごすことができれば、最悪の事態はまぬがれるのです。(50ページより)

こうした手段が効果的なのは、怒りの対象から意識を遠ざけることができるから。人間にはFF行動(攻撃・逃避反応)がありますが、それは、目の前の危機に対して体が即座に反応する状態をもつくり出せるということでもあるはず。だから、気がついたら「相手に殴りかかっていた」「大声をあげて叫んでいた」という行動を起こしてしまうことになるというのです。

脳の扁桃体が怒りを捕捉してからアクションを起こすまでは0.25〜2秒ほどだといわれているのだそうです。つまり、その反射的な時間をうまくやり過ごすことができれば、怒りはコントロールすることが可能。怒りの反応には、扁桃体を含む大脳辺縁系が関係しているといいますが、数を数えることで高次認知機能を持つ大脳新皮質の判断を仰ぐ時間を稼ぐということです。

シンプルですが、「6秒くらい普通に数えられるだろう」と侮ってはいけないと著者は主張します。なぜなら実際のところ、こういう状態に置かれると、強い怒りに我を忘れてしまい、数を数えることすらできなくなるものだから。キレた状態では、自分がどういう状況下にいるのか、把握することさえおぼつかないわけです。

そこで、弱い怒りのときに数を数えたりする練習を繰り返し、突然沸騰する怒りに対してある程度の免疫をつけておくことを著者は勧めています。「習うより慣れろ」というわけです。

アンガーマネジメントでは、怒っていい条件として、
1. 相手に過失があり、その過失によって不利益が生じたとき
かつ、
2. その過失が予想外だったとき
をあげています。
「かつ」が大事なポイントになります。
(54ページより)

自分の責務をまっとうしないくせに人には文句をいう人や、いくら注意しても同じ間違いを平気でする人はいるもの。そのたび周囲は「ムッとする」「カッとなる」という話で盛り上がったりしますが、この2つの例は、怒るべきケースではないのだそうです。つまりそれらは、普段から慣れていてある程度予想できる、いわば免疫のできている事態。怒るべきタイミングではないので、そんなときこそカウントバックの出番だということです。(48ページより)


呼吸リラクゼーション【幸せのホルモン分泌】


怒りが立ち去る6秒間をやり過ごすため、カウントバックとともに有用なのが「呼吸リラクゼーション」。人は怒り心頭に発すると、呼吸が速く浅くなり、冷静でいられなくなるもの。呼吸が浅くなると、自律神経が乱れ、交感神経系が活発になることに。すると人間は情緒不安定になり、イライラしたり、不安が増したりする症状が現れるというのです。

だから、そんなときは怒りの言葉を飲み込んで、大きく深呼吸することが大切だということ。2、3回深呼吸をくり返すと自律神経が整うため、自分をリラックスさせることが可能になり、冷静さを取り戻せるというのです。

そして、その深呼吸は腹式呼吸がベスト。まず背筋を伸ばし、鼻からゆっくり息を吸い込みます。このとき、おへその下あたりの丹田(たんでん)に空気をためるようなイメージで吸い込むと効果的。次に吸い込んだ息はいったん止め、口からゆっくり、体の中の悪いものをすべて出し切るように息を吐く。そのとき、吸うときの倍くらいの時間をかけて吐くことを心がけるといいそうです。目を閉じながら行うと、より落ち着く人もいるのだとか。

それだけでも効果があるものの、さらに身体リラクゼーションとイメージリラクゼーションを組み合わせると、怒りの感情はかなり消えていくといいます。身体リラクゼーションとは軽い有酸素運動を行うことで、ストレスを緩和することが可能。

ちなみに有酸素運動とは、酸素を多く取り入れ、その酸素で体内の脂肪を燃焼させる、負荷が少なくゆっくりした、時速性のある運動のこと。一定時間以上のランニング、サイクリング、スイミング、エアロビクス、ヨガ、太極拳、ストレッチなどが代表的です。

これらを軽めに行うと、脳からリラックス効果が得られる「幸せのホルモン」ともいわれる「セロトニン」などの化学物質が分泌されることに。なお"軽め"であることが重要で、たとえばウォーキングなら、1日1万歩くらいが目安。また当然ながら、体調が改善されれば精神的にも安定し、心の健康も促進されるといいます。

一方のイメージリラクゼーションとは、避暑地や森林公園、温泉やマッサージなどでリラックスできた体験、リゾート地で味わえそうな心地よさをイメージすることによって心を落ち着かせるもの。たとえば芝生の上に寝転び、太陽の日差しを浴びていたときの顔のほてり、新緑の匂い、そよぐ風など、リラックスしていた(できそうな)場面をイメージする(身を置く)ことで、心を落ち着かせられれば、目の前の怒りに対しても冷静に対処できるというわけです。(56ページより)



ストレスの多い時代だからこそ、怒りとうまくつきあって行くことはとても重要。本書を参考にして、怒りをコントロールする術を身につけたいところです。


(印南敦史)