文中敬称略

 不動産王ドナルド・トランプ(70)が第45代米大統領に就任した。ビジネスマンが大統領になるのは米史上初めて。選挙中これほど様々なスキャンダルや過激な発言をめぐってマスコミに叩かれた人物が大統領になるのも初めてだ。

 トランプとはいかなる人物か。ご本人が著した本も含めるとトランプについて書かれた本はすでに20冊余に上る。

 だがトランプがいったい何を考えているのか。どのようなヒストリーがある人物なのか。ロシアとはいかなるコネクションがあるのか。これらの疑問にストレートに答えてくれる本はこれまでなかった。

 その意味では、本書、「Trump Revealed: the Definitive Biography of the 45th President」(トランプを暴く:第45代大統領一代記決定版)は最初の1冊と言えるかもしれない。

 著者は、ウォーターゲート事件以来、調査報道では定評のあるワシントン・ポストでも腕利きの調査報道記者マイケル・クラニッシュと名うての編集者マーク・フッシャーの2人。

Trump Revealed: The Definitive Biography of the 45th President by Michael Keransih and Marc Fisher Scribner, 2017


 トランプの大統領就任直前、満を持して世に問う正真正銘の「ドナルド・トランプ解体新書」だ。

 スコットランド人の母親の出生に始まり、トランプの青年時代、父親との関係、名門ペンシルバニア大学ウォートン校での生活、不動産業への参入、世界を股にかけた不動産ビジネス・カジノ経営・・・。

 そして大統領選出馬、予備選での勝利、共和党全国党大会での大統領候補指名に至る生き様を浮き彫りにしている。

 著者は、これまでマスコミやSNSが報道してきたトランプ情報を一つ残らず精査、そのうえでトランプ本人をはじめ彼と接触してきた関係者(ロシア人を含む)への精力的なインタビューで「裸のトランプ」に迫っている。

 ともすれば、「Post Truth」(脱現実主義)*と指摘されるトランプおよびその周辺が流す手前味噌の「偽情報」と「事実」とを見極めようとする著者のジャーナリストとしての眼は、鋭く、確かだ。

*Post Truthとは、個人の信念をエモーショナルに訴えることの方が客観的な事実関係よりも世論形成には影響力を持つ社会現象およびその内容を指す。昨年、オックスフォード英語辞典で「Word of the Year」に選ばれている。

うぬぼれ、傲慢、敵意は父親譲り、イバンカ母が商売支える

 本書で描き出されたトランプの「実像」を箇条書きにするとこのようになる。

一、トランプのうぬぼれ、傲慢さは、ドイツから移民し、一代で不動産業を起こした父親からの強い影響を受けたものだ。

一、大学生時代から父親の不動産業を手伝う中で黒人顧客との間で起こした人種差別訴訟対策、節税対策など商売の極意はすべて父親からの直伝だった。

 トランプが不動産業で億万長者に上り詰めた過程で、助言と惜しみない支援をしたのは、最初の妻イバナ(長女イバンカの母親)や「子分」のスティーブ・ハイドだった。

一、名門ペンシルバニア大学ウォートン校(トランプは同校学部卒業)に入ったが、学業にはあまり関心がなく、「同校に入ったのは、あくまでの箔をつけるためだ」と知人に語っていた。

 トランプは学生時代から本はほとんど読んだことがない。授業に出たり出なかったり、親しいクラスメートは1人もいなかった。

一、トランプはパブリシティ(世間の注目を集めること)に価値観を見出していた。自分の名前と顔が売れるのであれば、いかなる媒体にも首を突っ込んだ。

 テレビ番組「The Apprentice」(実習生)の制作・出演、さらにはミス・ユニバース・コンテスト共催なども顔と名前を売るための手段だった。

一、自分を好いてくれる人たちへは、笑顔を振りまくが、敵対者に対しては「歯をむき出しにした憤り」をぶつけた。

 トランプには友か敵かしかいなかった。自分を批判した女性コラムニストに対しては「これぞ、お前の犬の面(つら)」と走り書きをした彼女の写真を送りつけた。

一、トランプは、「一度でいいからロシアの指導者と核軍縮交渉をやってみたかった」と知人に語っている。

 「相手がどう出るか、それに対してこちらはどう応じて反論するか、やってみたい。俺はミサイルについて知らないが、1時間もあれば理解できる話だ」と述べている。トランプにとっては外交交渉も商売感覚だった。

否定しても否定し切れない「ロシア・コネクション」

 今回の大統領選に対するロシアによるハッキングをめぐる動きは当選後も収まる気配はない。いや、むしろ強まっている。バラク・オバマ政権はハッキングに関与したとみられる駐米ロシア外交官の国外追放決定している。

 そうした中でトランプの反応はどこか煮え切らない。ロシア大統領のウラジーミル・プーチン自ら指揮したと言い切る米中央情報局(CIA)の見解に真っ向から異議を申し立てたのはトランプだった。

 ロシアのハッキングと自らの当選とは無関係だと言い放っている。

 その背景には、本人は否定し続けたが、選挙の最中、プーチン周辺とトランプとの間にビジネス上の深いつながりがあったのではないかとの憶測が流れていた。

トランプとプーチンの連絡役はポップ歌手のアガラロフ

 いったいトランプとプーチンとの間にはどのような関係があったのか。本書は次のような「新事実」を明らかにしている。

 トランプは1987年頃からソ連国内に「トランプ・タワー」を立てようと考えていた。そのために自分が共同主催する「ミス・ユニバース・コンテスト」をモスクワで開くことを計画、2008年実施に成功した。

 このコンテストのロシア側のスポンサーがロシア国内では売れっ子だったポップ歌手のアラス・アガラロフだった。

 アガラロフはアゼルバイジャン出身で父親が経営する不動産会社の役員も務める億万長者。資産は13億ドルと言われる。プーチンとも親しいアゼルバイジャン大統領のイルハム・アリエフの娘と結婚している。

 ロシアでの不動産買収を狙っていたトランプ周辺に接近したのはアガラロフだった。

 トランプのモスクワでのミス・ユニバース・コンテスト開催に全面協力、同コンテストのPRビデオにトランプが出演させたのもアガラロフだ。「トランプとプーチンの間を取り持つ連絡役」とされている。

 モスクワで開かれたコンテストを祝して、プーチンはトランプに高価な「フェドスキノ・ボックス」(ロシア工芸のラッカー塗り細密画の箱)を贈っている。実際に会う予定まで立てていたが、急用ができたため実現はしなかった。

 大統領選の最中、プーチンがトランプを誉め、それに応じてトランプもプーチンを「素晴らしい指導者だ」と語っていた。2人の間にはアガラロフを仲介役にした商売絡みの「関係」があったことが窺える。

 少なくともトランプにとって、プーチンは「敵」でないことだけは間違いない。

反日スタンスは出資を渋った日本への「意趣返し」?

 もう1つ、本書にはトランプが対日通商問題で厳しい発言をしていることと関係がありそうな話が記されている。

 「トランプは1988年、名門プラザ・ホテルを4億750万ドルで買収した。このため1億2500万ドルを見返り担保なしで銀行から借り入れた。同ホテルの客室は814室。1室1泊500ドルとして1年を通じて連日、満室にしなければこの借入金の利子すら返せなかった」

 「誰かに投資してもらおうとトランプは世界各地を飛び歩いた。日本にも出向いたが、投資してくれる日本企業も個人は見つからなかった」

 「トランプは『我々は(日米安保条約で)日本を守ってやっているのに日本人は我々の足元を見ている』と逆恨みしていた」

 トランプは1月11日の当選後初の記者会見でも「米国は中国や日本に巨額の貿易赤字を負っている」と強調した。

 その根っこは、本書に出てくるエピソード、1980年代後半のプラザ・ホテル買収後、必死になって探し回った日本人から投資を断われてしまった経緯(いきさつ)とどこか結びついているのかもしれない。

 日米安保条約の片務性や駐留経費分担増についてのトランプの主張は自らが商売上の「日本」との原体験と無関係ではないような気もしてくる。

 連日のようにツィッターで一方的な主張を打ち上げるトランプ。首相の安倍晋三は、就任後できるだけ早い段階でトランプと首脳会談を行いたいとしている。

 当選直後に非公式会談を行った後、安倍は「トランプは信頼に足る指導者だ」と述べている。だが、本書が明らかにした「裸のトランプ」を知るにつけ、一筋縄ではいかぬ人物であることがよく分かる。

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筆者:高濱 賛