4〜5月に行われるフランスの大統領選(直接選挙、2回投票)に向けて選挙戦が本格化する中、ダークホースと目されてきた人物が支持率トップに躍り出た。

 オランド政権で経済・産業・デジタル相を務めたエマニュエル・マクロン氏だ。マクロン氏は議員経験がなく「フランスのトランプ」になる可能性も囁かれている。

ぱっとしない左派陣営、ルペン氏も伸び悩み

 最新の世論調査(1月17日、週刊誌「レクスプレス」電子版発表)によると、「支持する政治家」はマクロン氏がトップで40%である。

 2位はアラン・ジュペ元首相の34%、3位が右派政党「共和党(LR)」の公認候補フランソワ・フィヨン元首相と左派政党(PG)のジャン=リュック・メランション党首の32%と続く。フィヨン氏は右派の予備選ではジュペ氏を押さえて勝利した。

 左派陣営候補として本命視されている社会党のマニュエル・ヴァルス前首相は、この調査では12位(23%)と振るわない。そのうえ、1月中旬の遊説中に暴徒に平手打ちを食らうなど先行きに暗雲が漂っている。

 社会党では1月29日に予備選の決選投票が行われるが、ヴァルス氏は予備選に出馬しているアルノー・モントブール元経済・再建・デジタル相(26%で6位)にも後れを取っている。同じく予備選に出馬したブノワ・アモン国民教育相とは23%と同率で、予備選で勝利できるかどうかは微妙な情勢だ。

 極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首も、調査では26%(5位)と伸び悩んでいる。

集会には毎回数千人の聴衆

 マクロン氏は39歳。2009年に社会党から独立し、2016年4月には「右派でも左派でも政党でもない運動」として「進行!」を立ち上げた。発足集会には多くの人が集まり、夏には閣僚を辞任、秋に大統領選への出馬宣言を行った。

 政治評論家やメディアの多くは「人気はバブルだ。そのうち弾ける」と見ていた。ところが、昨年12月にパリで初めて本格的集会を開いた時には1万2000人が駆けつけ、会場は満員の盛況だった。年が明けてから選挙戦を本格化し、フランス各地で毎回数千人の聴衆を集めている。

 特に仏北部の大都市リールでは4000人が会場を埋めた。リールは、社会党の重鎮で「週35時間労働」(週に35時間以上労働者を働かせてはいけない法律)の導入を推進したマルチーヌ・オブリ市長の本拠地である。失業対策のための法律だったが、現実を知らない「机上の空論」だとの批判が多い。マクロン氏も「週35時間労働」には反対を表明している。

大統領もマクロン支持か

 マクロン支持は社会党内でも広がっている。オランド大統領の元同居人で、「副大統領」とのあだ名も付けられているエコロジー・持続的開発・エネルギー相のセゴネール・ロワイヤル氏は、1月中旬に「エマニュエルは未来を見詰めている」と述べてマクロン支持をほのめかした。

 右派の議員にも支持者は広がっている。シラク政権時代のコリーヌ・ルパージュ環境相(現欧州議員)をはじめ中道右派政党「民主党」の幹部などがマクロン支持を表明しているのだ。左右の党派を乗り越えて支持されるという前代未聞の人気は今後も拡大するとみられる。

 フィヨン氏やルペン氏はマクロン氏を「親殺し」などと呼んでダメージを与えようと必死だ。なぜ「親殺し」なのかというと、ロッシルド商業銀行のナンバー2時代に自分を事務局次長に引き抜き要職に就かせてくれた「育ての親」ともいうべきオランド大統領を裏切って大統領選に出馬したからだ。

 だが、裏切られたはずのオランド大統領は、同じ社会党のヴァルス氏よりマクロン氏を支持するのではないかとみられている。ヴァルス氏は大統領への「忠誠」を誓い続けながら土壇場で裏切って大統領に再選を断念させた「張本人」とされる。

 ヴァルス氏が予備選で敗北した場合は、オランド大統領をはじめ左派支持者は、フィヨン氏やルペン氏の勝利を阻止するためにマクロン氏への投票を呼びかけるのではないか、とも指摘されている。

ブレーンも充実しつつある

 マクロン氏の支持層は35歳以下の若年層が多い。既存の政治にあきたらない層や絶望している若者が多いと見られている。

「進行!」が発足した当時は「素人集団」とみられていたが、ブレーンも充実しつつある。

 2月に詳しく発表されるマクロン氏の政策綱領の作成に目下取り組んでいるのは、経済学者で国際情勢に通じたジャン・ピサニフェリー氏である。ピサニフェリー氏は首相の諮問機関フランス・ストラテジー局長だったが、マクロン陣営に参加するために辞職した。ピサニフェリー氏の参加によってマクロン氏への「信頼度が一気に高まった」(パリジャン紙)と言われている。

 マクロン陣営の主要報道官には、大手有料ケーブル・テレビ「カナル・プリュス」の敏腕記者だったローランス・エム氏が就任した。彼女はワシントン特派員を20年あまり務め、フランスのメディアでは唯一人、2008年に就任直後のオバマ大統領のインタビューに成功している。メディアの世界を熟知しているだけに、報道官としての手腕にも期待がかかる。

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筆者:山口 昌子