企業だけでなく政府も「フィンテック(情報技術を使った新しい金融サービス)」に注目している昨今ですが、実際にどんなサービスが生まれて、どう社会を変えようとしているのかはよく見えてきません。でも、その理由は、私たちが日本や欧米といった先進国ばかりに注目しているからなのかもしれません。

BitPesa(ビットペサ)はアフリカのケニアを拠点とする決済サービスで、ブロックチェーン技術をベースに、効率的で安価な国際決済を実現しています。M-PESA(エムペサ)と呼ばれるモバイルマネーが普及するケニアでビジネスを始め、今ではアフリカで5カ国(ケニア、ウガンダ、タンザニア、コンゴ、ナイジェリア)にまで拡大しています。

BitPesaが注目しているのは、国際的な企業間決済という分野です。手数料が高く、時間がかかる銀行システムを介さずに送金するので、海外送金にかかるコストを大幅に抑えられるというもの。興味深いのは、モバイルマネーサービスとの提携で、本来は互換性のない複数のモバイルマネーサービスをつなげる役割を果たすという点です。実際、BitPesaはケニアのモバイルマネーと中国のモバイルマネーをつなぐことができており、これは例えて言うなら、海外店舗での支払いをSUICAを使ってするようなものです。

革新的なBitPesaのサービスはどのような仕組みで動いているのでしょうか? ライフハッカー[日本版]では、BitPesaでビジネス開発部門の責任者を務めるDavid Yen(デイヴィッド・イェン)氏にインタビューを行いました。


David Yen(デイヴィッド・イェン)BitPesa 地域ビジネス開発マネージャー

BitPesaにて東アジアおよびアジア太平洋地域のビジネス開発部門の責任者を務める。台湾の國立政治大學でファイナンスを専攻し、学生時代にはAIESEC(125カ国に拠点を置く世界最大の青少年主導の組織)の代表を務めた。10カ国以上の国に渡航し、台北、東京、ボン(ドイツ)、ナイロビ(ケニア)で働く。BitPesa以前は、バークレイズ、Google、DHL Inhouse Consulting、beBitで4年の実務経験がある。


国際決済にビットコインを利用


David:銀行の海外送金サービスは非効率的で、非常に高いコストがかかります。その理由は、銀行が主にSWIFTネットワークに依存し、送金における手続きが複雑なためです。日本では、銀行システムが発展しているので送金にかかるコストは比較的安価で効率的ですが、アフリカでは送金にお金と時間がかかるのです。

たとえば、ケニアにある企業Aとアメリカにある企業Bが取引をするとしましょう。通常、どちらかがどちらかに支払いをするにはそれぞれの通貨の為替を考慮して、銀行システムを通してお金をやりとりする必要があります。

例として、米国の企業Aがケニアの企業Bにお金を送るケースを考えてみましょう。まず米国の企業は米国内にあるブローカー(BitPesaのパートナー)にお金を送ります。その後、ブローカーが米ドルをBitcoinに変換して私たちにBitcoinを送ります。取引を確認するのに約10分かかります。そして、私たちがビットコインをケニアシリングに変換しケニアの企業Bに支払う、という流れです。逆の場合(ケニアから米国に送金する場合)も同じプロセスを逆向きにたどります。

このように、それぞれの通貨をビットコインに変換することで、銀行システムを介さずに、双方向への海外送金が実現します。これは、ビットコインをトークン(代用通貨)として利用するということであり、ブロックチェーンと呼ばれるテクノロジーが基盤になっています。


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さらに、各国で普及しているモバイルマネーを使った送金・決済もBitPesaでは可能です。たとえ互換性のないモバイルマネーでもBitPesaではビットコインに変換するので、モバイルマネーだけで国際的な決済ができるのです。


── BitPesaの決済は実績としてどれくらい増えていますか?

David:BitPesaはケニアでビジネスをスタートしましたが、今はアフリカで5カ国(ケニア、ウガンダ、タンザニア、コンゴ、ナイジェリア)にまで拡大しています。現在、私たちは150以上の法人アカウント/ユーザー、8000以上の個人アカウントを獲得していて、年間2万5千件を超える取引を行いました。ビジネス自体は急激に成長していて、2017年の第1四半期までにはセネガルにも進出する予定です。


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Davidさん(中央)とBitPesaの同僚たち。


── ビットコインの価格は為替のように変動しています。たとえば、先日の米大統領選のときにはビットコインが一時的に急騰したりもしました。このような状況になったとき、支払い金額が上下したりといった影響はないのですか?

David:ありません。私たちはあくまで、ビットコインをトークンとして利用しているだけです。ビットコインの価格がどんなものであっても、ブローカーにお金を送金する各取引の開始時に、どれくらいの金額になるのかが計算され、明示されるようになっています。私たちは価格を固定するので、取引後にビットコインの価格がどれほど変動しても、支払額が変動することはありません。


── 理解としては、TransferWiseというサービスをご存知ですか? 彼らのサービスではビットコインを使用することはないですが、国際送金に従来の銀行システムを介すことがない、という点ではBitPesaと共通していますね。

David:そうですね。BitPesaの場合、ブロックチェーンというテクノロジーがビジネスの根幹にあり、その点が他社とは異なっています。私たちBitPesaは国際決済の分野でアフリカで初めてブロックチェーン技術を使って革新的な変化を起こした会社です。この分野で需要のあるアフリカを基盤としているので、市場のニーズにも素早く適応できます。ケニアのように、アフリカではモバイルマネーの浸透率が高く、BitPesaのようなデジタルな送金手段が普及する余地が大きいのです。


── どんな企業がBitPesaを使っていますか?

David:アフリカの企業を中心に150以上の企業が利用しています。日本車の中古車輸出で知られるSBT Japanのような日本企業もBitPesaを利用しています。

1つおもしろいBitPesa利用例があります。ウガンダにあるYujoという日本料理店は、ウガンダが内陸国のため、ケニアから魚を仕入れているのですが、ケニアの漁師たちは銀行口座を持っていません。そこで、ウガンダからBitPesaを使って送金し、ケニアの漁師のモバイルマネーに入金するという国際送金をしています。こんな送金ができるのはBitPesaだけですね。


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ウガンダの日本料理店「Yujo」のオーナー(左)とDavidさん(右)。


── BitPesaのビジネスモデルについて教えてください。

David:BitPesaのビジネスモデルは為替レートです。よって、送金手数料などを請求することはありません。


── ブロックチェーン技術の長期的な展望についてどう考えていますか? アフリカだけでなく、ヨーロッパ、米国、日本のような先進国でも革新的な変化をもたらすと思いますか?

David:はい。そう思っています。すでに一部の先進国の中央銀行がブロックチェーン技術を使って独自のデジタル通貨を発行する方法を模索しています。ブロックチェーンは複数のコンピューター上でデータを分散して管理する技術で、個別の機関がそれぞれ管理するよりも効率良く、安全に管理できます。WEF(世界経済フォーラム)でも、公的な報告書が提出されるなど、この分野は注目を集めています。


── 今後、この技術が日本や他の先進国で利用できるようになるまでに、どのような壁を乗り越える必要があると思いますか?

David:まず技術についての理解が必要だと思います。新しい技術を採用することに抵抗を感じている人々にとっては、ここが大きな壁です。最初のボトルネックの1つは、単に変化に抵抗するのではなく、それぞれの分野でどういう使い方ができるか、人々が理解しやすいように説明していくことです。ブロックチェーンはフィンテックに限らず、広範囲で活用できる技術です。データベースとして活用すれば、重要なデータを安全に保管するデジタル保管庫のようにも機能するでしょう。中央サーバーによる管理ではないので、サーバーがダウンしているかどうかに関係なく、データにアクセスすることができます。

個人の視点だけでなく、中央銀行から、あるいは政府の視点から、どのようにしてこの技術を活用できるか。技術の理解が進めば、アフリカだけでなく先進国にとっても大きなメリットがあると考えています。


── 最後にライフハッカー読者に対してメッセージをお願いします。

David:私が最後にお伝えしたいのは、アフリカは想像以上に発展しているということです。ケニアを例に挙げれば、デジタル決済の普及率やそれによってもたらされた高い効率性はすでに先進国を超えています。

私は日本の企業で働いた経験もありますが、日本の企業の強みは顧客の立場になって物事を考えられることだと思います。残念ながらアフリカでは、そのような顧客中心のサービスは期待できませんが、日本企業がもっとアフリカ進出して、この状況が変わることを期待しています。



ブロックチェーン技術をうまく利用し、ビジネスに役立てているBitPesa。同じ仕組みを作り、パートナーと提携すれば、同じビジネスはアジアでも展開できるはず。SUICAを1枚だけ持って海外旅行に出かける。そんなことが当たり前になる日も近いのかもしれません。


(聞き手・文/大嶋拓人)
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