株式会社は「人件費」を削って利益を生んでいる Rodrigo Reyes Marin/AFLO

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「株式会社」の存在は、資本主義の象徴であった。だが、『株式会社の終焉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓した水野和夫・法政大学教授は、その役割は終わりつつあるという。

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 トヨタ自動車が2015年7月に新型株を発行したことは、一般にはあまり知られていない。この新型株発行は、トヨタが将来の「株式会社の終焉」を見越し、従来の枠組みから一歩踏み出した革新的な出来事だと私は見ている。

 トヨタの新型株は、発行後5年間は譲渡や換金ができないが、その後は発行額での買い戻しが請求でき元本保証される。配当の年率は普通株より少し低い1.5%だが、5年目以降も保有すれば2.5%の配当が受けられる。

 いわば普通株と債券の中間に位置する株と言える。トヨタはこの5年間で環境対応型の新型エンジンなどの開発を行いたいようだ。長期にわたって応援してくれる株主から、資金を集めたいというのがトヨタの狙いである。

 これは中世イタリア(11世紀)に始まるパートナーシップ会社に似ている。家族や親戚、親友など目に見える範囲の限られた人達から資金を集めるのがパートナーシップである。もし失敗すれば、その損害もみんなで分け合う性格のものだ。

「ローリスク・ローリターンの債券」と「ハイリスク・ハイリターンの株式」の中間の性格を持つトヨタの新型株発行は、昨日買った株を今日売って利鞘を稼ぐ投機家とは決別したいというメッセージなのだ。

 なぜトヨタはこんな新型株を発行したのか。

 資本主義はもともと無限空間を前提としてこそ成り立ち、搾取できるフロンティア(未開拓地)を発見し続けることで資本を蒐集する。しかし、人類はアフリカ大陸まで開発し、行き着くところまで行ってしまった。地球上に搾取できる余地はもうないが、資本主義はさらに資本を蒐集しようとする。成長には技術革新で付加価値を増やすしかなく、企業の研究開発費は高騰している。それを補填するため、人件費は削減され続けた。

 全体としてみれば、近年の企業利益は人件費削減でもたらされたものでしかない。財務省「法人企業統計年報」で大企業・全産業の付加価値増減をみると、1989年度から1998年度にかけては人件費が13.4兆円増えた結果、営業純益は1.1兆円減少した。

 ところが1998年度から2014年度にかけては逆で、人件費が2.6兆円減少した一方、営業純益は17.5兆円も増えている。

 人件費を削減することでしか利益を上げられなくなっていることこそが、株式会社が終焉を迎えている証左だろう。

 2015年9月、ドイツの自動車メーカー・フォルクスワーゲンの排出ガス規制不正ソフト問題が発覚した。翌2016年には三菱自動車工業の燃費データ改竄が明るみに出た。どちらのケースも成長を目指して競争に勝たんがために行われた不正だった。同じ頃、東芝も不正会計が行われていたことが発覚した。

 無限空間を前提に自動車産業は「より速く、より遠くに」を、家電産業は「より合理的に」を実現してくれた。しかし、それが限界に達したにもかかわらず無理な成長を望んだ結果、これらの不正を犯さざるを得なかった。

 資本主義が限界に達すれば、資本主義の主役たる株式会社も当然、変容せざるを得ない。だから、トヨタは先んじて手を打ったのだ。

 私は21世紀の原理は、「よりゆっくり、より近く、より寛容に」であると思っている。これを企業に当てはめれば「よりゆっくり」は減益計画を立てることであり、「より近く」は現金配当を止めることである。

 減益で十分と考えれば、よりゆっくりと企業の行く末を考えることができる。また、すでに資本は潤沢なのだから地球の裏側から株主を募る必要はなくなる。配当を現物給付にすれば遠くの株主は自然と離れていく。そして「より寛容に」とは、「より合理的に」の反対概念で、「贈与」を意味する。つまり応分の税を企業も個人も負担するということだ。

 近代資本主義の「より速く、より遠く、より合理的に」とは異なる成長のかたちを見出すには、価値観の大転換が必要だ。これを先取りした人こそが、未来において活躍できるはずだ。

●みずの・かずお/1953年愛知県生まれ。証券会社勤務を経て、民主党政権では政府の審議官を歴任。20万部を超えるベストセラーとなった『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)の続編となる近著『株式会社の終焉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)が話題。

※SAPIO2017年2月号