京都のあるコーヒーショップに入ったときのこと。広くて閑散としていたので適当なところに座ろうとしたら若いウエートレスが、「おはようございます。お一人ですか。どうぞこちらへ」とずっと奥にある2人席に案内してくれた。

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京都のあるコーヒーショップに入ったときのこと。広くて閑散としていたので適当なところに座ろうとしたら若いウエートレスが、「おはようございます。お一人ですか。どうぞこちらへ」とずっと奥にある2人席に案内してくれた。「ここでないとだめなの」と尋ねると、「申し訳ありません。お1人ですから」には私も口あんぐり。

新幹線が東京駅に着いた。気にもしていなかったが、2分ほど遅れていたらしい。「本日はJR新幹線をご利用下さいましてありがとうございました。列車は定刻より2分遅れて到着いたしました。お忙しいなかご迷惑をおかけして申しわけありません。心よりおわび申し上げます」とのアナウンス。2分のことで心よりおわびなら一時間遅れならどんな表現のおわびになるのかなどと考えてしまった。

何と律義な車掌さんだと感心するのだが、どう考えても2分の遅れと心よりおわび申し上げますの組み合わせがピンとこない。ウエートレスも車掌さんもマニュアルどおり何の疑間もなく案内し、読んでいるのである。物事には自然と許容されてしかるべき範囲があり、臨機応変さも必要である。

この話を友人にしたら「君、まるでぼやき漫才だよ」と笑われた。「ああ僕も年をとったのかなあ………」と思ったが、それにしても臨機応変を許さぬほどにマニュアルでしばられた行動には、何の潤いも温かさも感じられない。

ある労働事務所が企業の人事担当者を対象に若い社員の特徴をアンケートで調査していた。「言われたことを言われたとおりにはするが、そこから出ようとしない」が70%1位だった。これも学校での「これは良い、これは悪い」という“イチーゼロ”だけを教えて個性や創造性のないデジタル人間に育ててしまった結果の延長ではなかろうか。

立石信雄(たていし・のぶお) 1936年大阪府生まれ。1959年同志社大学卒業後、立石電機販売に入社。1962年米国コロンビア大学大学院に留学。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員会委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長、財務省・財政制度等審議会委員等歴任。
北京大学日本研究センター顧問、南開大学(天津)顧問教授、中山大学(広州)華南大学日本研究所顧問、上海交通大学顧問教授、復旦大学顧問教授。中国の20以上の大学で講演している。