「肘がない」ロボットで人との垣根を取り払う 「ライフロボティクス」尹 祐根

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ロボットアーム研究15年以上の世界的な研究者・尹祐根。「人手不足」をなくすというビジョンがもたらす世界とは。

「人は今、ロボットを見ると『すごい』と思うか、『怖い』と思うか、のどちらかしかありません。でも、それでは一緒に働けないじゃないですか」
 
そう語りはじめた彼はきっぱりとこう断言した。「その2つ以外の感情を抱く、新しい概念のロボットが必要なんです」
 
人の横で動作して作業を支援したりする「協働ロボット(Collaborative Robots)」。一言でいうと人間とロボットの垣根を取り払った画期的な技術だ。2013年、ロボットと作業員の事故防止のための柵の設置が義務づけられた労働安全衛生法の規制が、出力80W以下のロボットに限り撤廃。協働の門戸が開かれると、16年は「協働ロボット元年」とも言われ、名だたるメーカーが参入し競争も本格化。その中で、産業技術総合研究所(産総研)からスピンアウトした起業家が注目を集めている。ピッキング用の協働ロボット「CORO」を開発、販売するライフロボティクスの尹祐根(ゆん・うぐん)社長だ。

「COROの動きを見て、多くの人は『なんか地味だね』『何がすごいの』と言います。でも、そうした”安心感”がとても大事なんです。そう見えるためには、やはり”肘”をなくさないといけないんです」
 
COROは多関節の腕1本の小型ロボットだ。腕は最大で865mm伸び、6個の関節を協調動作させて各種の作業をこなす。腕の先には部品や商品をつまむための指や真空吸着器などのアプリケーションが備えられる。

そして他社に例を見ないCOROの最大の特徴が、「肘がないこと」。これまでの肘を曲げるロボットでは、動作範囲が広くなり、安全確保のために広いスペースを確保しなければならず、挙動が複雑になるので思わぬ事故も起きる。それに対してCOROは、肘で腕を曲げる代わりに腕を伸縮させるので、狭いスペースでも作業員と安全に作業ができる。本人曰く、世界で最もシンプルな動作をする協働ロボットだ。それを実現させるのが「トランスパンダーテクノロジー」と呼ぶ独自技術だ。

「結構単純な機構なんですよ。まさに『コロンブスの卵』。一度見たら、『そりゃそうでしょ』と思うでしょう。でも、その『そりゃそうでしょ』が今まで誰もできなかった」

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なぜ、尹はできたのかー。それは彼のキャリアをさかのぼるとわかるかもしれない。
 
尹は1972年兵庫県伊丹市に生まれ、小学校高学年の頃はガンダムブームで自身も夢中になった。掃除機など動くものならなんでも分解するほどののめり込みようで、「ガンダムのようなロボットを自分で作りたい」と、九州大学工学部に入学。しかし成績がふるわず、学部時代は熱力学、修士時代は材料力学とロボットからは離れていたが、博士課程では念願のロボット研究の道に進む。

「もう楽しくてしかたなくて」と言う彼は、土曜日や日曜日、祝日だけでなく、正月も、ずっと大学にこもっていた。

「ロボット研究は機構系、制御系、電気系とあるのですが、僕は自分でロボットを一から作って動かしたいので、全部学びたい」と博士課程の学生ながら、学部生の授業に潜り込み、一緒に基礎から学んだ。1年半が経過した際に「助手にならないか」と誘われるという”天才”。そんな彼がひたすらこだわったものがある。それは「肘」だ。一度は助手の職に就くものの、「すべての時間を研究に」と産総研に転職、原子力発電所のメンテナンスロボットや福祉介護向けのロボットアームなどの研究に携わる。

「人類が文明を発達させてきた理由は、すべて腕や手が器用だからだと思っている。人の器用さをロボットで実現できたら、すごく世の中がよくなるのではないかー」