税理士法人レガシィ 代表社員税理士・大山広見氏

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■当日から手続き開始。悲しんでいられない

慈しみ育ててくれた親。愛する人の死は寂しく、失った痛みも大きい。だが、税理士法人レガシィの代表社員税理士・大山広見さんは、「家族の死亡時は、悲しみの中でも速やかに行わなければならない手続きがある」という。

「葬儀の手配や死亡届の提出、税金関係の申告など、身近な人が亡くなると、ご遺族はさまざまな手続きに追われます。とくに相続税が発生するケースでは、期限までに申告しないとペナルティが課せられます。知らなかったでは済まされないので、死亡時の諸手続きはぜひとも知っておきたい情報です」

身近な人が亡くなった場合、真っ先に頭に浮かぶのは通夜や葬儀の手配だろう。だが、火葬場を利用するにも許可がいるので、並行してやらなければいけないのが行政上の手続きだ。死亡を確認した医師に「死亡診断書」を発行してもらい、それを持って市区町村に「死亡届」と「火葬許可申請書」を提出する。死亡届を出すと、市区町村ではそのほかに必要な届け出について教えてくれるが、早めにやっておきたいのが社会保険の手続きだ。

健康保険証は、死亡した翌日から使えなくなる。会社員の健康保険は5日以内、国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者は14日以内に保険証を返却し、資格喪失の手続きを取る。このとき、健康保険から支給される葬祭費や埋葬料の申請もしておくといい。会社員の夫に扶養されていた妻や子供などは、夫の死と同時に資格喪失するので、国民健康保険などへの加入手続きも忘れずに。介護保険を利用していた人は、被保険者証も同時に返却する。

公的年金の手続きは、(1)「年金受給権者死亡届」の提出と(2)「死亡一時金・遺族年金」の請求の2つ。

亡くなった人が公的年金を受け取っていた場合は「年金受給権者死亡届」を提出し、受給停止の手続きを取る。手続きが遅れて死亡後に年金が支払われると払い戻す手間が増えるので、速やかに受給停止の手続きを。公的年金からは、誰でも死亡一時金が支払われる。亡くなった人に扶養されていた遺族は、年金の種類や子供の年齢、遺族の年収などによっては遺族年金を受け取れる。夫に扶養されていた妻は寡婦年金がもらえることもあるので、年金事務所に問い合わせて請求手続きを。

■銀行口座凍結前にやっておきたいこと

通夜や葬儀、お墓への納骨などが終わり、少し落ち着いたら、次は各種解約や名義変更手続きだ。電気・ガス・水道などの名義変更、亡くなった人の携帯電話やネット、クレジットカードの解約、運転免許証やパスポートの返納など。このほかに生命保険の保険金請求、自動車保険や火災保険などの名義変更などもある。また忘れがちなのが、健康保険の「高額療養費」の申請だ。死亡前に病院などに入院すると、高額療養費の対象になり、1カ月に自己負担した医療費が一定額を超えると払い戻しを受けられる。時効は2年だ。

死亡後に必要な諸手続きは、リスト化して漏れがないかチェックしたい。とくに注意が必要なのが、金融機関への相続届提出のタイミングだ。

「銀行口座が凍結されると、葬儀費用など当面必要な現金を引き出せなくなったり、公共料金を引き落とせなくなったりします。相続届の提出は、各種名義変更が済んでから行うのが鉄則。亡くなったことが銀行に伝わると、届けを出さなくても口座が凍結されてしまうので、必要な現金は早めに引き出しておきましょう。法定相続人全員の合意があれば、150万円までは引き出しが可能です」

■相続税支払期限は10カ月しかない

このように、家族の死後1カ月程度は葬儀法要、お世話になった人への挨拶回り、各種手続きに追われる。49日が過ぎると、少しずつ落ち着きを取り戻すようになり、この頃から相続に関する手続きを始めるのが一般的だ。

「相続税の申告は、相続が発生したことを知った日から10カ月以内です。ただし、相続関連の手続きには、その前に期限が来るものもあるので、全財産の内容と遺言書の有無を早い段階から確認しておきましょう」

遺言書がある場合は、原則的にその内容に沿って相続は行われる。だが、法律で認められた遺留分などもある。

「相続人は何人いるか」「どんな遺産がどれくらいあるのか」を把握しないと、相続税が発生するのかどうかもわからず、誰が何を受け継ぐのかといった遺産分割もままならない。土地や建物の評価額、預貯金など金融資産、負債の有無など、全財産の内容をできるだけ早い段階で把握しておこう。ただし、土地の評価額などは素人では判断できないこともある。迷ったら相続に詳しい税理士や不動産会社などに相談するのもひとつの手段だ。

相続で困るのは負債があるケース。その場合は、「相続放棄」「限定承認」という方法で、マイナスの財産を引き継がないこともできる。「相続放棄」は、プラスの財産も受け取らない代わりに、負債も負わないというもの。「限定承認」は、プラスの財産の範囲内で負債を引き継ぐ方法だ。いずれも、被相続人が亡くなってから3カ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がある。

次に期限が来るのが所得税の「準確定申告」だ。通常、確定申告は翌年3月15日までに前年1年分を行うものだが、亡くなった場合は、死亡後4カ月以内に、その年の1月から死亡日までの所得について本人の代わりに残された相続人が所得税の準確定申告をする。「個人で事業をしていた」「不動産収入があった」「高額な医療費がかかった」といった場合、準確定申告の対象になる可能性が高い。納税義務がある場合は、それぞれの相続人が原則として法定相続分相当額を負担するが、還付があれば受け取ることも可能だ。

遺言書がない場合は、「誰が何を受け継ぐか」といった遺産分割の話し合いが必要になる。これを「遺産分割協議」と言い、残された家族(相続人)全員で行い、その結果をまとめた協議書に相続人全員が署名捺印する。その内容に沿って、不動産や預貯金、株式などの名義変更を行うが、相続税が発生する場合その相続により取得した分に応じて各相続人が、10カ月以内に納税を済ませることになる。

■相続税にも延滞料金が発生する!

だが、遺産分割で揉めると、相続税の申告期限までに決着がつかないこともある。すべてのケースで相続税が発生するわけではないものの、期限内に申告ができなかった場合は、通常支払う相続税に加えて、ペナルティとして延滞税と無申告加算税が課せられる。

期限後の納税の延滞税は法定納期限の翌日から納付するまでの日数に応じて、年2.8%が加算される。また、相続税の申告をしないままにしておくと無申告加算税も取られることになる。税務調査前に気がついて申告すれば、無申告加算税は納税相続税の5%だが、調査後になると15%(または20%)が課せられる。さらに悪質なケースと判断されると、無申告加算税に代わって、40%の重加算税を支払わなければならない。

「市区町村に死亡届を出したり、住宅の名義変更がされたりすると、その情報は税務署に送られます。税務署は日頃から一定以上の所得がある人を把握しており、相続税申告が必要かどうかの『お尋ね』が来るので、納税を逃れることはできません」

2015年1月に施行された相続税の基礎控除の引き下げや税率強化によって、課税対象者は増加している。東京都国税局管内(東京、神奈川、千葉、山梨)で、相続税の申告が必要な人を試算したところ、10年の約21%から、現在の税制では44.5%に増加するという結果が出ている(税理士法人レガシィ調べ)。

納税者が増えることが予想される相続で揉めずに、期限内に申告をするためには、事前にどのような準備をしておけばいいのだろうか。これまで多くの相続に立ち会ってきた大山さんは、遺言書を作ることを勧めている。

たとえば、資産のほとんどが農地といったケースでは分割が難しく、後継者になる子供に遺産を集中させざるをえないこともある。

「遺産を平等に分割できないようなときも、その理由も合わせて、心を込めた遺言書を残しておくと、残された家族は納得するものです。揉めないと思っていても、親の遺産のことで子供たちが意見を交わすと、どうしてもギスギスしがちです。遺言書は、その話し合いにレールを敷いてあげるもの。亡くなった人が相続に関する方針を示すことで、揉め事は少なくなります」

遺言書は、手書きでも認められるが、内容や記載方法に間違いがあると無効になってしまう。トラブルを避けるには、公証人役場などで「公正証書遺言」を作っておくほうが安心だ。

また、相続税の知識がないと、「遺言書を書いたものの、納税資金が捻出できない」「賃貸物件の収支を見ないで遺産分割をしてしまった」など、実態に合わない遺言書を作成してしまうこともある。こうした失敗を避けるために、専門家に相談することも検討してみよう。とくに相続は税理士の得意分野によって、節税効果に大きな違いが出ることがある。争いごとを避けて相続を有利に進めるには、相続税の実務に慣れている税理士の知恵を借りたい。相続税の知識が豊富な税理士なら、土地の評価減の特例、生命保険や不動産を活用した節税対策などもアドバイスしてくれる。

■親が元気なうちにやっておきたい贈与

たとえば、節税対策のひとつが「生前贈与」の活用。贈与を受けた人は、贈与税を支払わなければならないが、税制優遇制度を利用すれば相続時の税負担を軽減することも可能だ。

「相続時精算課税」は、60歳以上の親や祖父母が、20歳以上の子供や孫に贈与した場合、2500万円までは贈与税が課税されず、相続時にその生前に贈与した財産の相続税を納税するという制度。「暦年課税」は、年間110万円までの基礎控除の範囲内でコツコツ贈与していくというものだ。19年3月までは、30歳未満の子供や孫に教育資金を贈与した場合に、1500万円まで非課税になる「教育資金の一括贈与」もある。こうした制度を利用すれば、節税しながら少しずつ財産を移転できる。

また、葬儀費用は相続税の債務控除となり、遺産から差し引けるので、節税したいなら盛大な葬儀を行うのもひとつの手段。通夜や告別式の費用、戒名やお布施など寺院関係の費用まで、葬儀にかかった費用の多くは債務控除として認められる。弔問客からの香典は非課税だ。一方で、香典返戻費用や初7日、49日の法要費用、墓地整備買い入れ費用などは控除される葬儀費用に含まれないので、注意が必要だ。

こうして無事に遺産分割協議が決着し、それぞれの持ち分に合わせた相続税の申告と納税が済むと、残された家族に託された手続きも一段落する。

10カ月もある、と思っていても、相続税の納税期限はすぐにやってくる。うっかり忘れると、必要以上に高い税金を支払うことになったり、不要なクレジットカードの年会費を払い続けることにもなりかねない。ひとつひとつ確認しながら手続きをしておこう。

■マイナス財産があるなら相続放棄や相続限定承認も考えよう

▼相続財産にはどんなものがあるか

【プラスに作用するもの】
●土地・建物
●借地権・貸宅地
●現金・預貯金・有価証券
●生命保険金・退職手当金・生命保険契約に関する権利
●貸付金・売掛金
●特許権・著作権
●貴金属・宝石・自動車・家具
●ゴルフ会員権
●書画・骨董
●自社株

【マイナスに作用するもの】
●借入金・買掛金
●未払いの所得税・ 固定資産税・ 住民税等の公租公課
●預かり敷金・保証金
●未払いの医療費

【非課税財産】
●お墓・永代供養代金・香典・ 国などに寄付した財産
●生命保険金・ 退職手当金のうち一定額

▼わが家は相続税がかかるのか?
基礎控除額= 3000万円+600万円 ×法定相続人の数
⇒基礎控除額より課税遺産の総額が低ければ、相続税はかからない

■生前贈与でも、死亡から3年前までさかのぼって相続税対象に

▼親にお願いしたい非課税贈与の一例

●その都度贈与
祖父母や親から20歳以上の孫か子供への贈与。1年間で110万円までの贈与は非課税。贈与者の死亡から3年前分までの贈与は相続税の対象になる。

●教育資金贈与
この目的で祖父母や両親が、30歳未満の孫や子供名義の専用口座に一括で振り込んだ1500万円まで(子供1人につき)が、申告書を提出することにより非課税に(認められないものもある。期限は2018年度まで)。使い切らなかった分は30歳のときに課税対象に。

●結婚・子育て資金の一括贈与
この目的で祖父母や両親が、20〜49歳の孫や子供名義の専用口座に一括で振り込んだ、1000万円まで(子供1人につき)が、申告書を提出することにより非課税に。金融機関には領収書の提出も必要(認められないものもある)。使い切らなかった分は50歳のときに課税対象に。

注意点:贈与者が死亡したら使い切らない分が相続税の課税対象に。早めの贈与、支出が吉。

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大山広見
実績件数日本一の相続専門の税理士法人レガシィの代表社員税理士。年間100件以上の相続税申告事案の責任者を担当。『フローチャートだけでチェックする! 相続税と贈与税の実務手順』の執筆リーダーなども務める。

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(早川幸子=文 堀 隆弘=撮影)