メガホンをとったトーマス・ビルテンゾーン(写真左) (C) 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

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 米マンハッタンのビルの屋上で寝泊まりする異色のモデルに密着したドキュメンタリー映画「ホームレス ニューヨークと寝た男」で、長編ドキュメンタリー監督デビューを果たしたトーマス・ビルテンゾーンが、作品の舞台裏を語った。

 6年間も“家なし生活”を行いながらモデルやフォトグラファーとして暮らすマーク・レイの一風変わったライフスタイルに焦点を当て、ニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭2014で、優れたドキュメンタリー作品に与えられるメトロポリス・コンペティション審査員賞を受賞した本作。自らもモデル出身であるビルテンゾーンは、20年来の友人のレイからホームレス生活を打ち明けられた際、すぐに本作の製作をオファーしたという。「2010年にニューヨークで再会したとき、マーク(・レイ)は50代前半にしては、まだまだ見ばえのする外見を保っていて、立派な服装で落ちぶれた様子などみじんもなかった。だから、彼の生活について聞かされたときにはとてもショックを受けた。最初は冗談だと思ったよ。まるで国中の銀行の機能がダメになったとか、倒産したという話を聞かされたときのように、理解しがたいことに感じた」。

 レイへの長期間にわたる密着取材を、ビルテンゾーン監督は「まさに冒険だった」と述懐する。「私はキャノンのEOS 5D Mark IIと音声レコーダーを持ち、マークと私の2人だけで彼の人生を記録した。撮影はゲリラスタイルで、その場で起こったことはすべて記録したんだ。事前に撮影場所をチェックすることは1度もしなかった。時には危険を伴うこともあったが、リハーサルも一切せずに、彼の身に起こることをありのまま見ることができるという点ではとても興味深かったね。肉体的にきついと感じるときでさえ、挑戦的な気持ちは持ち続けていたよ」と最少人数・最小設備での撮影だったというが、映画祭への出品、さらには遠く離れた日本でも公開されるとは、当時は予期してなかっただろう。

 ではなぜ、被写体と監督の2人きりから始まった本作は人々をひきつけるのか? ビルテンゾーン監督は「今、この時代の姿をありのままに映し出すことで、家やすべてを失うことが、意外と身近に起こり得るのではないか?という疑問を投げかけている」と語る。「本作は、我々の社会の裏側に隠された、アメリカン・ドリームの弱点を描いた作品だ。この作品の中でニューヨークは単なる美しい背景ではない。この街はマークがホームレス生活になることを決定づけた敵なんだ。喜びと痛み、愛と憎しみ、成功と拒絶。ニューヨークはマークをあざ笑っている。彼が栄光と創造力に満ちたこの街にとどまるために選んだ苦難の道、ここで生きていくために思いついた方法は、すべてがとても特異なものだ」。

 すらりと伸びた手足に高級スーツをまとい、ニューヨークを意気揚々とかっ歩するレイは、一見すれば人生の成功者だ。だが、現実はビルの屋上でひっそりと暮らしているホームレス。ビルテンゾーン監督は「“普通”の生活を追い求めている彼が夜中に帰り着く場所は、アメリカン・ドリームが悪夢に変わった場所なんだ」と表現し、華やかな外見に隠されたレイの内心を代弁する。「この普通では考えられない状況に耐えている彼をつき動かしているものは何か? 彼がこれまでの過去に、そして今、人生に望んでいることは何なのか? マークは800万人の夢のど真ん中で、途方に暮れ孤独の中でたたずんでいる。やる気に満ちた魅力あふれる外見と、想像をかきたてるニューヨークの街と、その陰に隠された栄光とはほど遠い場所でバランスをとりながら。そう、彼はホームレスなんだ」。

 「ホームレス ニューヨークと寝た男」は、1月28日から全国順次公開。