「山田孝之のカンヌ映画祭」2話が日本映画を斬りまくってて騒然

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山田孝之、カンヌ映画祭でパルムドールになるために、映画を撮る!
……という体で撮られている、ドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』。
1話では猟奇殺人犯エド・ケンパー役に芦田愛菜(撮影時・小学生)を引っ張ってくる、というものすごい出落ちっぷりだった。
本当にこれで、撮り進めるつもりなの?


カンヌは不親切な映画が好き


今回はかなりドキュメンタリー寄りの作りになっている。
山田孝之、山下敦弘、芦田愛菜の3人は、カンヌ国際映画祭を知るために、いろいろな人の話を聞いてまわる。

中でもパンチがあったのが、日本映画大学学部長であり、パルム・ドール受賞をした『うなぎ』の脚本家、天願大介の話だ。
山田孝之が撮りたいのは、「いい映画」ではなく「カンヌで賞を取る映画」。
天願は言う。
「一般論で言うと、ハリウッドが嫌いなんですよ、カンヌの人たちは」「不親切に作るってことですよ」。

作家の中にあるものを整理して、わかりやすく説明して出すと、それはサービス・エンタテイメント。
「誰かに向けて作ろう」と整理しないことで、作家の中にある、整理されていない思想の原液が出て来る、カンヌはそれを求めている、という考え方だ。

邦画について、彼は「大喜利が好き」だと言う。
映画のみならず、日本全体の傾向の話だ。
「みんなが同じことを知っていて、同じ経験をしてい、同じ価値観を共有しているから、小さな価値観が楽しい」
体力の亡くなった年寄りの遊び。フィジカルが弱い」
「微細なセンス合戦をやって国内でやって評価されるかもしれないけど、国外では一撃で倒されてしまう。同じものを共有してないから」


山田孝之は前クールの『勇者ヨシヒコと導かれし七人』で主役を演じていた。
『ヨシヒコ』シリーズは、パロディの塊のような作品。
そもそも「ドラクエ風」に作られているし、作中では「DASH村」や「相棒」なんかも出てくる。ド直球の大喜利作品だ。
この小ネタの数々が非常に受けて、3作目まで続く人気シリーズになった。

日本映画大学で『うなぎ』の話をした後に、3人でうなぎを食べている。
『うなぎ』の主演俳優は役所広司。『カンヌ』2話の前の時間にやっていた『バイプレイヤーズ』一話でも、役所広司がちょこっとだけ登場している。
このドキュメンタリードラマも、ネタをつかった大喜利が随所にしこまれている。

パロディや大喜利でセンスを見せる作品は、立派なエンタテイメントだ。
ただ「カンヌ映画祭」を考えた場合、相手は価値観がつながらない人たち。戦いの舞台にあがるのは難しすぎる。
「業界のルールを守るのが当たり前なのは、体力がつかない。もっとひどい目にあって作らないと」というのが、ドラマ内での天願の持論だった。

壊れた山下敦弘


2話の山田孝之は、意外と地に足がついており、一生懸命勉強していた。
ところが、監督である山下敦弘が、ふわっふわに浮ついている。

2度カンヌに応募している山下(応募は誰でもできる)。
東京国際映画祭スタッフの矢田部吉彦の講義を受けている時、山下のテンションが止まらなくなる。
矢田部に「僕とかどういう評価されてるんですか」「カンヌ行けない理由ってなんですかね」「矢田部さんがカンヌのスタッフになることはないんですか」と矢継ぎ早に質問。
山田が「それ別に今聞かなくていいじゃないですか」と小声でたしなめる。
性表現の話になったとき、芦田は一度退席しているのに、山下は気持ちが昂ぶってしまい、彼女のノートに「SEXを描くのであればSEXを描け!」とメモを取る。


川崎アートセンターには、今村昌平『うなぎ』のパルム・ドールのトロフィーが飾られている。
山下はケースから出して、手に持って、写真を撮りたいと言い出す。
「これを俺らは取るんだよね? 俺ら、来年のカンヌで」

日本映画大学の人たちが生々しい話をするだけに、2話の山下の浮かれポンチっぷりが際立つ。
山田はトロフィーと記念撮影する際「俺のじゃないのでいらないです、それは」と言う。
山下は「すごいー」とニヤニヤしている。

芦田愛菜の凄み


2話でひとつ、ものすごく違和感のあるアイテムがある。
ランドセルだ。
どこにいくにも芦田愛菜は、不自然なまでにランドセルを背負う。
背中からおろしてもなお、ランドセルがカメラに映っている。

芦田の存在とランドセルは、大人たちの中では、異物だ。
今回(どこまで本当かはわからないけど)具体的な映画論の話が展開しており、あたかも本物の映画作りをはじめたかのように、見える。
だが芦田は徹底して「なぜかいる場違いな女子小学生・芦田愛菜」を演じ続けた。
ランドセルを背負った芦田がいることで、これは現実ではなくフィクションだと、何度も釘を刺してくる。

彼女は山田・山下から常にちょっと距離を置いている。
3人が事務所に戻って、うなぎを食べているシーン。
芦田はうなぎを食べず「タレのついたご飯が好きで」と笑う。山下はそのうなぎをもらって食べる。
一番気を使っている彼女の笑顔からは、本心が見えない。

3話は「山田孝之、パイロットフィルムを作る」。
早速撮影開始。たくさんの人を巻き込み始めて、今回学んだことをどう活かすのか。
雨でぐしょぬれになった、潤んでいるかのような芦田の目が気になる。

(たまごまご)