まさか、香妻琴乃(24歳)がこんな言葉を発するとは思わなかった。

「1回、リセットというか、一番下まで(落ちて)きたという気持ちです」

 少し間を置いて、今までのゴルフ人生で一番つらかったのか? と聞くと「そうですね......」と、か細い声を漏らして頷いた――。

 昨シーズンの女子ツアーを振り返ると、2年連続賞金女王となったイ・ボミ(28歳/韓国)の活躍が光る一方で、シード権(賞金ランキング50位以内)争いが熾烈を極めた。そして最終的には、元賞金女王の森田理香子(27歳)をはじめ、茂木宏美(39歳)や北田瑠衣(35歳)ら、多くのツアー常連選手がシード陥落という憂き目にあった。それは、非常にショッキングな出来事として世間を騒がせた。

 シード落ちした選手の中には、ツアー屈指の人気を誇る香妻の名前もあった。香妻は2014年シーズン、推薦枠をフルに使って賞金ランク19位という成績を収め、初のシード権を獲得。2015年シーズンも腰痛に悩まされながら、なんとか賞金ランク48位となって2年連続でシード権を確保した。

 しかし昨シーズンは、長引く腰痛に苦しみながら、出場した33試合中、半分以下の15試合でしか予選通過を果たせなかった。目標としたツアー初勝利も遠く、思うようなシーズンを過ごせなかった。結果、賞金ランク52位という成績に終わり、賞金シード獲得にはあと一歩及ばなかった。

 香妻は、シーズン最後の試合となった大王製紙エリエールレディスも予選落ちを喫した。2日目のホールアウト後、多くの記者に囲まれると、彼女は「今のベストのプレーがこういう結果なんだと思います」と語って、涙をポロポロと流しながら試合会場を後にした。それほど、彼女にはショックが大きく、悔しい思いばかりが募ったシーズンだったのだ。

 その後、今季のシード権を得るために出場したファイナルQT(※)でも44位に終わった。上位フィニッシュが叶わず、フル出場の権利を得るまでには至らなかった。それでも、主催者推薦枠を含めれば、レギュラーツアーには25試合前後は出られる予定で、シード復帰のチャンスは十分にある。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

 そんな香妻に、都内で話を聞く機会があった。そこで、昨季のことや今季の目標などについて、じっくりと話を聞いた。そのときの香妻には、すでに彼女らしい笑顔が戻っていた。さまざまなイベントや仕事をこなして、充実した日々を過ごしているようだった。

 だが、改めて2016年シーズンについて振り返ってもらうと、せつない表情を浮かべて冒頭の言葉を漏らした。さすがに、こちらも言葉を発することに窮してしまった。すると、彼女のほうからこう切り出した。

「う〜ん......、やっぱりぜんぜん......。反省するべきことが多かったというか......。いや、反省というか、もっと考えて、集中してやっていかないといけないなって、そういう気持ちしかないですね、今は」

 香妻は悩ましい表情を浮かべたままだった。やはり、昨季は納得のいくシーズンではなかったのだ。

 ただ、そうしたシーズンの中でも、学んだことや新たに得られた教訓はあったはずである。

「学んだこと、というよりも、自分がいいと思ってやっていたことが間違っていた、ということに気づくことができたのはよかったと思います」

 それは、具体的にはどのようなことなのか。

「(間違いに気づく前は)自分のいいところを消してしまっていました。例えば、ショットに関して言うと、ずっと腰痛が出ないようなスイング作りをやっていました。そうしたら、その過程でどんどん腰を回さなくなり、(自分らしくフルに)振らなくなってしまったんです。確かに腰の回し方を修正したかったのですが、一気に直そうとしすぎてしまったのは間違いでした」

 最初に試みた腰をかばうスイングは、自然と香妻のよさを奪ってしまった。だが、腰に負担のあるスイングを続けると、痛みが増してプレーができない。その狭間で、香妻はシーズン中もずっと苦悩していた。

「私のスイングって、腰にすごく負担のあるスイングなので、もしそれをずっと続けていたら、また腰痛がひどくなったと思います。でも、そうすると自分の持ち味が出せなくなってしまう。(結果を出すためには)またそのスイングに近づける努力をしていかないといけなかった。そこで、いろいろな葛藤がありましたね。ただそうした中で、最終的には自分の理想のスイング作りは、焦らず、何年もかけてやらなければいけないな、と考えられるようになりました」

 さらに香妻は、スイング以外にも、自分に合うスタイルに気がついた。

「これは選手によって個人差があると思うのですが、私はキャディーやトレーナーなど、私をサポートしてくれる人たちと四六時中、ずっと一緒にいるのは合わないかもしれないな、と思いました」

 最近の女子ツアーを見ていると、確かに2年連続賞金女王のイ・ボミをはじめ、専属のコーチやキャディー、トレーナーなどもついて、"チーム"としてツアーを戦っている選手が多い。

「私も当初は、ひとつのチームを作って、それで一緒に活動したほうがいいかなと思っていました。ただその場合、相当それぞれの相性がよくないと難しいのではないか、と感じ始めたんですね。(何人かのチームになると)相手のことを思って、自分を殺してまで接しなければいけない人が出てくるかもしれないし、あるいは、誰かが素でぶつかってきた場合、皆がそれに耐えられるかどうかわからないじゃないですか。いくら仲のいい友だちでも、ずっと一緒にいたら息が詰まることもありますから。

 そういう考えもあって、今季は最初からチームを固めることなく、自分のことを客観的に知ったうえで、相性のいいキャディーやトレーナーを見つけていきたい。同時に、そういう方々とどう行動したらいいか、例えばツアー会場で一緒にいるのは週に3日間くらいにするとか、"チーム"を作った場合でも、自分に合ったルーティーンというものを探していきたい。いろいろ工夫して、自分がやりやすい"スタイル"を築いていきたいですね」

 昨季の香妻はさまざまな失敗を重ねることで、自分に何が足りないのか、そして何が必要なのかを知ることができた1年だった。それだけでも、大きな成果があったと、とらえてもいいだろう。

 香妻はこのオフ、例年どおり1月末から3週間、ハワイで合宿を行なう予定だ。今年は3月の開幕戦に向けて、「調整に失敗したくない」と意気込む。

「合宿では、とにかくたくさんボールを打っていきたいです。昨年は体を作ってから、試合に向けてスイングを修正していくのがいいと思い、そうしました。でもやっぱり、私はボールを打たない日をなくしていったほうがいいのではないか、と思っています」

 ボールを打たない日を作ったのは、昨年のオフが初めてだったという香妻。それも、自分には合わなかった、という結論に至った。それこそ、「もう二度と失敗はしたくない」という決意の表れでもある。

 少し間を置いて、香妻が再び表情を硬くして声を詰まらせながら、こんな話を切り出した。

「私がシード落ちして、スイング指導をしてくれている先生(中島弘二プロ)が、『悔しいよ......』って言っていたんです。もう、今年はそんな言葉を先生には言わせたくないなって思っています。私の目標はずっと優勝ですが、(シード落ちした要因のひとつは)そこにとらわれすぎていたのかな、という思いもあります。だから今季は、もう少し一日一日を大切にして(あまり先を見ないで)過ごしたいな、と考えています」

 反省すること、失敗に気づいたこと、昨年の1年間でどれほどあったのだろうか。言葉の端々から悔しさがにじみ出る。

「また、イチからのスタートですね!」

 そう言って笑顔を見せた香妻は、自ら気分を切り替えて、優勝以外の新たな目標について語った。

「今年は、バーディー数を増やし、パットを減らして平均パット数(のランキング)を上げていきたいです。グリーンに乗っていても、ピンまで遠かったらパット数は減りませんし、バーディーも取れません。パーオン率も大事だとは思いますけど、攻めていってのボギーは仕方がないかなと思います。昨年の前半は『ボギーを打たないように』という気持ちが強すぎて、まったく攻められず、ピンから遠いところばかりにボールが乗っていたんです。今季はなるべくピンを攻めていきたい」

 昨季はつらい1年だったが、決して香妻の成長が止まったわけではない。香妻いわく「一番下まで落ちた」というなら、もはや上に上がるだけである。2017年シーズン、新たな気持ちで挑む彼女の復活に期待したい。

text by Kim Myung-Wook