ジュビロ磐田に加入した中村俊輔【写真:青木務】

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「闘莉王や嘉人みたいに勝ち点10持っている男だから」(名波監督)

 2017シーズンからジュビロ磐田でプレーする中村俊輔。圧倒的な実績と経験を持つ元日本代表MFは、ともに代表でプレーした名波浩監督率いるチームに何をもたらすだろうか。始動から数日が経った段階ではあるが、すでにサックスブルーには化学反応が起き始めている。(取材・文:青木務)

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 中村俊輔をいかにしてチームに組み込むか。

 2017シーズン、ジュビロ磐田がさらなる高みを目指す上で、天才レフティーは浮沈の鍵を握る存在だ。38歳とチーム最年長であり、歩んできたキャリアも群を抜く。同じく豊富な経験を誇る松井大輔も、日本代表で共に戦った男の加入を歓迎する。

「戦術眼があるし、人を動かせる人なので全体的にも良くなると思う。若い選手もすごく勉強になると思う。僕もそうだし、色々なことを聞いていければなと」

 松井だけでなく、他の選手たちもリスペクトの言葉を口にする。10番がサックスブルーの中心になるのは間違いない。

 名波浩監督は中村俊輔について「28試合出場をノルマにしている」という。コンディションが整っていればその数字も自ずと増えると予想され、勝負所での途中投入もあるはずだ。様々なシチュエーションで彼の力が必要になると思われるが、現段階では28試合を目安にしている。

「基本的に(田中マルクス)闘莉王や(大久保)嘉人みたいに勝ち点10を持っている男だから。それだけ出てくれればノルマ達成だと思う」

 指揮官の言葉からも、大きな信頼が感じ取れる。

あまりに豊富な実績と経験。“日常”に入ってくる高次元

 始動5日目となった18日、磐田はヤマハスタジアムで11対11のフルコートゲームを行っている。メンバーはシャッフル。守備でハマらない場面があり、攻撃でもシュートまで持ち込む回数が少なかった。まだキャンプも始まっておらず、コンセプトもこれから詰めていくのだから仕方ないだろう。

 それでも、時折光るプレーを見せる者もいた。「大きいサイズの中で、今どれくらいの判断力があるかということと、各々の個性を出してほしいと。15分×2本しかないけど、出せる限り出そう」と名波監督は選手たちに求めた。そして、既存選手が新加入組の特徴を知ることができたのも収穫だ。

 逆もまた然りだ。短い時間ではあったが、中村俊輔にはいくつか気づいた点もあったようだ。練習後には名波監督やチームキャプテンの上田康太、他の選手とコミュニケーションをとる姿が見られた。

 松井らを除けば、磐田のほとんどの選手にとって中村俊輔は「TVで見ていた人」だ。それが、今は直接アドバイスをもらうことができる。「何か不思議な感じだけど、気さくに話してくれる」と誰もが言うが、中村俊輔とのやり取りには全神経を集中させるべきだろう。

 海外で偉大な活躍を見せ、日本代表を長く牽引した人物から出てくる言葉や振る舞いは、ひょっとしたら次元の違うものに思えるかもしれない。しかし、それが“日常”となれば成長の助けとなる。特に若い選手に与える影響は絶大だ。

「『いい若手いるな』と思ってもらえるように」(小川航基)

 小川航基は、桐光学園の大先輩の加入に目を輝かせる。ルーキーイヤーの昨シーズンは始動直後から早速、味方にボールを要求するなどストライカーとしての貪欲さを見せていた。その姿勢は中村俊輔に対しても貫くつもりだ。

「要求すれば自分を見てもらえると思うし、そうすれば得点も増えてくる。『いい若手いるな』と思ってもらえるようにどんどん要求して、自分の良さを出していければ」

 U-20日本代表のエースストライカーでもある小川は、日の丸を背負った時には多くの試合で得点を挙げるなど、そのパフォーマンスは素晴らしかった。一方、磐田では出場した公式戦でシュートを打てずに終わるなど、プロ1年目は消化不良の出来に終わった。

 それでも「若手の育成も俺に課された使命」と話す名波監督は、次代を担う若武者の成長を促そうとしている。それは今シーズンに向けた補強を見れば明らかだ。

 昨シーズン14得点を奪ったジェイなど3人のCFタイプが退団したが、このポジションで磐田が新たに獲得したのは川又堅碁のみ。単純に頭数が減ったが、指揮官は「航基もいるし若い選手に蓋をしたくない」と、現時点ではこれ以上最前線の選手を獲得しない意思を明かしている。

「期待してもらっているのは本当によくわかる。その期待を裏切らないよう、自分の良さを出していきたい。去年は何も貢献できなかったし、今シーズンは勝負の年。終わった時に自分の年だったと言われるように、試合に出続けなければいけない」

 小川は2年目の爆発を見据え、気を引き締めた。

すでに化学反応は起き始めている

 小川とともに名波監督がよく名前を挙げるのが、大卒2年目の荒木大吾だ。昨年の鹿児島キャンプで活躍し、指揮官も評価。ブレイクを予感させたが、シーズン中の負傷離脱もあり試合で結果を残すことはできなかった。

 彼もまた、中村俊輔との出会いで大きく化けるかもしれない。

 例えば正確なサイドチェンジを大外で受けるようなシチュエーションは、荒木にとって“大好物”だ。自身のドリブルからチームの攻撃をスピードアップさせることができれば、チームの武器になる。味方とのコンビネーションから局面を打開する点ではまだ成長が必要だが、天才レフティーのタッチを見て学ぶことはできるだろう。

「Jリーグで一番凄いと思っていた選手と一緒にやっているのは、不思議な感じ」と、荒木は笑う。「トラップとかボールの置き所もそうだし、一つひとつのプレーのレベルが本当に高い」とすでに観察を始めているようだ。

 昨シーズンは2ndステージに入ってスタメンに定着し、主にトップ下で攻撃の中核となった21歳の川辺駿は「もう若手じゃない」と真剣な眼差しを向ける。磐田でフル稼働するのはもちろん、日本代表も明確な目標として定めている。

「試合に出ている選手が見られると思うし、チームの順位が上がれば上がるほど注目されると思う。試合に出るということは状態がいいということだし、それ(代表入り)は目標にしている。絵馬にも書いたことなので」

 中村俊輔とはクラブハウスの風呂で一緒になることが多いそうで、言葉を交わす機会もある。「プレーを見て感じようとは思っているし、練習からでも負けないようにと意識している」と決意を口にした。

 サックスブルーの10番は、今シーズンの磐田の鍵を握る存在だ。ピッチ内での働きは言うまでもなく、若手らチームメイトを飛躍させうるからでもある。彼を語る時、『期待』と『信頼』は同義だ。

 小川らの決意を聞く限り、中村俊輔加入による化学反応はすでに起き始めている。

(取材・文:青木務)

text by 青木務