「少々お待ちください」がイマイチなわけ

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■「待て」か「すぐ」か

「お待たせしました。刺身の盛り合わせになります」「だし巻き玉子のほう、お持ちしました」「お会計はちょうど3000円をお預かりします」。いずれも飲食店のスタッフから聞くことの多いタイプの表現ですが、敬語にうるさい人にとってはちょっと耳ざわりかもしれません。

「『なります』って、別に何かが刺身に変化するわけじゃないだろ」「その『ほう』って単語に意味はあるのか?」「お金を預かった後に返してくれるの?」。こんなツッコミが聞こえてきそうです。私の考えはというと、自分自身はできるだけ「正しい」日本語を使いたいとは思うものの、言葉は移ろっていくものなので、目くじらを立てるようなことでもないかなというところです。

ただし、そんなスタンスの私でも個人的に気になってしまう言い回しが2つあります。そのうちのひとつは「少々お待ちください」というもの。注文をお願いしようとして「すみませーん」と手を挙げたものの、店員さんがちょっと忙しいときによく返される言葉です。

なぜ気になるのか。それは「少々お待ちください」というのは、言い回しは丁寧であっても相手に対して「待て」と言っていることにほかならないからです。知人の飲食店経営者も同じ考えで、彼は自店のスタッフに対してこの言葉を禁じています。では代わりに何と言うように指導しているかというと、「すぐうかがいます」というものです。

実際に「すぐ」に客席へ向かえるかはさておき、「すぐうかがいます」という言葉には、スタッフ自身の能動的なスタンスが込められているのです。「ちょっと時間をください」という本質的な意味は変わらないものの、相手に待てと言うのか、それとも自分が急ぎますと言うのか、両者が与える印象は実は大きく異なります。

■言葉選びの難しさ

もうひとつ気になる表現は、「空いたお皿をお下げしてもよろしいでしょうか?」というものです。すでに食べ終わって空になっている皿を下げる際に、この言葉を発する店員さんは多くいます。もちろん、まだ料理が残っているとか、あるいは皿についたソースをパンですくって食べるかもしれないとか、店側にとって判断に迷うときに尋ねる分にはまったく問題ありません。

しかし空っぽの皿で、どう考えてもそれは下げるべきだろうという状況においても、こうした問いを投げかけられることは、かなり多いものです。無用なトラブルを回避するために設定されたマニュアルなのか、あるいは当人が何も考えずに機械的に聞いているだけなのかはわかりません。ただし、少しでも観察していれば下げてよいかどうかはわかるはずで、そんなときには「空いたお皿はお下げしますね」と言えば良いだけなのです。

「少々お待ちください」や「お下げしてもよろしいでしょうか」を気にする私は、冒頭の敬語の誤りを指摘する人たちと大差がないことは自覚しています。けれども、同じ意味を伝えるにしても、その言い方やそれがどんなシーンなのかによってニュアンスが大きく変わってしまうのが接客の難しさです。正解がないからこそ、店側としては「自分たちはどのような言葉を選ぶべきか」には、もう少し自覚的であっても良いように思います。

■「脇の甘さ」がちょうどいい

以前、あるカフェオーナーからこんな話を聞いたことがあります。「カフェではあまりきちんと接客しすぎちゃダメなんだよ。『脇の甘いサービス』くらいがちょうどいいんだ」。もちろん、店員さんが満面の笑みを浮かべながら完璧なサービスをしてくれるカフェはとても魅力的です(例えばスターバックスにはそういうスタッフが多くいるのを感じます)。

一方で、店に入ったら大きな声で挨拶されたり、あるいはちょっと水がなくなるとあまりに頻繁に注ぎに来られたりしたら、それはそれで「カフェとしては何か違う」と感じてしまう気持ちもわかります。カフェの魅力のひとつが、レストランや居酒屋とは違う「ゆるさ」だとしたら、それにあわせて接客も適度にゆるめたほうがマッチするというのもおもしろいところです。「業態と接客の関係」を、一度じっくり観察してみるのも一興なのではないでしょうか。

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(子安大輔=文)