サービス業の生産性を高める際に忘れてはいけない大前提とは(写真はイメージ)


 日本のGDPの7割を占めるサービス業において、生産性の向上の必要性が高まっています。

 お客様のことだけを考えて手間を惜しまずに温かいサービスが提供するのは、もちろん日本のサービスの良さの1つです。しかし、事業を行っている以上は、かけられる人も時間もお金も限界があります。サービス提供者が自己犠牲を払ってでもお客様に何でもかんでもしてさし上げるというのは、サービスのあるべき姿とは言い難いと思います。

 かといって、提供者の都合で一方的にサービスの一部をやめたり品質を落とすのは、お客様を失ってしまうことにつながります。では、お客様、サービススタッフ、事業の三者が価値を感じられるサービスの生産性向上は、一体どうしたら実現できるのでしょうか。

「何に取り組むか」を考える前にやるべきこと

 まずは、そもそも「サービス」とは何なのか、その本質を理解したうえでサービスの生産性向上に取り組む必要があります。

 サービスの本質というのは、お客様の事前期待を捉えることです。いくら提供する側が良かれと思って提供したことでも、お客様の事前期待に合っていなければ「サービス」とは呼んでもらえません。それはもはや、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と呼ばれてしまいます。

 多くの場合、サービス提供者はお客様の事前期待をあまり意識できていません。「良いサービスは喜ばれるに決まっている」と思い込んで、勝手に作ったサービスを一方的にお客様に押し付けてしまっているのです。これではお客様に喜んでいただくことはできません。

 事前期待を捉えずに「サービスの向上」に取り組むのは、目隠しをして的を狙うようなものです。もしかしたら、偶然何回かは的に当たるかもしれませんが、多くは的を外してしまう。せっかくお客様に喜んでもらいたいと思って手間をかけて取り組んでも、お客様の事前期待に合っていないために喜んでいただけない。やればやるほどお客様は離れていってしまうことすらあります。これでは、あまりにもったいないと思います。

 そこでまずは、「何に取り組むか」「何をやめるのか」を考える前に、「満たすべき事前期待は何か」をハッキリさせることが重要なのです。

 事前期待を捉えることができると、その事前期待に応えるために何に取り組むことに価値があるのかが自ずと浮かび上がってきます。同時に、その事前期待に合っていない取り組みは「やめること」も検討できます。そこに割いていた無駄な努力を、事前期待に応えるための価値ある努力に振り向けることが可能になるのです。

 このように、事前期待を中心にサービスを組み立て直すことで、サービスの効率化と価値向上の両立は十分に可能だと思います。

 サービス提供者の一方的な思いでサービスを改革しても、お客様、サービススタッフ、事業のいずれかを犠牲にすることが多いものです。お客様の事前期待を捉えて、お客様もサービススタッフも事業としても価値を感じられるサービス改革が今こそ求められています。

既存のサービスの価値は「見えている」か?

 最後に1つ付け加えるならば、サービスの価値の「見える化」や「実感化」に取り組むことも有効です。

 お客様に喜んでいただきたいという思いで一生懸命にサービスを仕立てたとしても、その努力の結果がちゃんとお客様に価値として伝わっているでしょうか?

「私のためにこんなに一生懸命やってくれているんだ」
「こんなことまでやっているとは、知らなかった」
「さすが、プロは違うなぁ」

 こんな風に感じていただくことができたら、サービスの評価は高まるはずです。

 お客様のためにしている努力は、ちょっとした工夫で見えたり実感できるようにしたりすることができます。今、既に行っている取り組みの価値をお客様が実感できるように見える化することも、サービスの生産性向上の取り組みとしてきわめて有効です。

 サービスの生産性向上に注目が集まっていますが、サービス提供者の一方的な思いや勇気で、何かに取り組んだり、何かをやめたりすることは得策ではありません。その前に、まずはサービス事業として捉えるべき事前期待とはいったい何だろうかと考えてみることが、サービスの生産性向上には欠かせないということをぜひ皆さんに知っていただきたいと思います。

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筆者:松井 拓己