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By Joe The Goat Farmer

遺伝子研究の世界では近年急激な進歩が見られ、遺伝子情報を保存しているDNAの構造を自由自在に組み替える技術が確立されています。もはや「神の領域」ともいわれるDNAの操作を自在にした人間ですが、それとはまた別の手法を用いて自分の体内に別のDNAを入れることで、体の老化を遅くすることを目指す研究を独自に行う科学者が存在しています。

One Man’s Quest to Hack His Own Genes

https://www.technologyreview.com/s/603217/one-mans-quest-to-hack-his-own-genes/

従業員が自分一人だけの企業「Butterfly Sciences」をカリフォルニア州デイビスで立ち上げた60歳の男性・ブランアン・ハンリー氏は、自らの体に別の遺伝子を注入して吸収させるという実験を繰り返しています。微生物学博士でもあるハンリー氏は、自らが「設計」し、専門の業者に依頼して作ったDNAを特殊な方法で自分の体内に入れ、あるホルモンが予測通りに分泌されるかどうかの研究を進めているとのこと。



その方法は、注射によるDNAの注入と、体に電気を加えることで細胞膜に穴を開け、DNAを細胞内に送り込む電気穿孔法、または「エレクトロポレーション」と呼ばれる方法。施術を行う際にはハンリー氏はベッドに横たわり、作業を担当する別の医師がハンリー氏の太ももに注射でDNAを入れた後に電極から電流を加えて、DNAが文字どおり体内に取り込ませようとします。

ハンリー氏がこの研究を行っているのは、アンチエイジング、つまり老化を遅らせるための方法を模索するためというもの。一般的に、体の老化に対抗して少しでも若さを保つためには、成長ホルモンを注射したり、抗酸化力を持つといわれる「フラーレン」を採ったり、あるいはもっと簡単にビタミンなどのサプリメントを服用するといった方法がとられますが、ハンリー氏が研究を行っているのは、自らの体に老化を遅らせる成長ホルモンをより多く分泌させるという手法です。

この実験を行うにあたり、ハンリー氏は私財を投じているとのこと。科学者としての知識にもとづいて資材を用意して血液検査を行い、地元の倫理委員会の承認を得た上で2015年と2016年にそれぞれ1回ずつ注入を実施して変化を調査しています。



By Nathan Forget

ハンリー氏の「実験」は多くの研究者の注目を集めており、ハンリー氏の血液は複数の研究機関にサンプルとして提供され、分析が行われているとのこと。この実験の実施について、ハンリー氏はアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認は得ていないとのこと。通常、新薬や遺伝子治療を患者に対して施す際には当局の承認が必要とされます。実際に当局職員にIND(治験薬申請)を行うよう促されたこともあったというハンリー氏ですが、公衆に影響を与えない自己実験の場合には必要ないとしてハンリー氏は承認を受けないままでの実験を実施しています。

DNAを操作する際には、一部のウイルスを用いて情報を転写する手法が用いられます。一方でハンリー氏が用いているのが、電流を用いる電気穿孔法です。この手法では、電流をかけることで細胞壁に穴を開け、プラスミドと呼ばれる環状のDNA分子を細胞に注入します。内部に入ったプラスミドは元の染色体と合体はせず、細胞核の中に浮かんだ状態で存在。そしてもし遺伝子の情報がプラスミドに書き込まれると、あるタンパク質の製造が開始されるとのこと。この効果は一時的なものではありますが、注入から数週間から数か月は効果が持続すると見られています。



By Wikipedia

ハンリー氏は牛を使った実験をもとに、免疫力を高めると考えられている成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)を体内で分泌することで、結果的に体の老化を遅くすることを目指しているとのこと。

実際にハンリー氏の血液の中では体の中では、GHRHレベルの増加が確認されているという分析結果も出ているとのことですが、これをもって効果があると確認するには時期尚早といえる段階とのこと。ハンリー氏は今後、投資家などからの資金を得てさらなる研究と事業化を目指す方針を示しているとのことです。