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テーマ=『デジタル×価』

“最強のよそ者”として、数々の業界でビジネスに変革をもたらし続けてきた伊藤嘉明が、”趣味も仕事もフルスイングする価値”について考える連載コラム『伊藤嘉明の「人生万事振り切るが価値」』。希代のゾンビマニアにして、無類のクルマ好きでもある彼が、東南アジアのラオスで出会った「振り切れてる」新興自動車メーカーとは……!?

夢を語るのは青臭い? そういう風潮が私は大嫌いだ!



「夢は実現するためにあるんだよ!」。そう言い放ったのはマイケル・J・フォックスでもサミュエル・L・ジャクソンでもなく、“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンだ--。

夢を語ることは青臭くて世間知らずのやること、みたいな風潮が私は嫌いだ。歳とともにそういう傾向が強まるのは、死へのカウントダウンが近いからか、少子高齢化社会のなせる技なのか、はたまたゾンビ・アポカリプス(終末期)が近いからなのか、その真相は分からない。



最近、自分で立ち上げた事業のため、以前にも増して海外へ渡航している。一部知人からはSNSの投稿で、「伊藤さん、海外で羽を伸ばしまくってますね! グルメ旅行でもしているみたいです」と言われる始末。寝言は寝てから言いたまえ、愚か者め。羽を伸ばすという表現は、そもそも日常生活でストレスを感じ、その日常から逃避できた時などに使う言い回しだ。私のように仕事で行って、食事も屋台で食べたりしている場合には当てはまらない。

そんな中、たまたま夢について考えさせられる機会があったので、今回はそれについて書こうと思う。何故ならば夢を忘れた人間は、ゾンビになるか地獄突きを食らうかどちらかだから。マイケル・ジャクソン万歳! 人生、万事振り切るが価値!

2000億円ないと作れない? 有名人とはいえガッカリだよ!



私にもいくつか夢がある。いつものように「アポカリプスが早く来ないかなぁ」と、ここで語るつもりはないが、「自動車が好きだから、そういう事業に関われたら楽しいだろうな」というのは、本気で思っていることだ。とはいえ内燃機関、いわゆるガソリンエンジンの自動車メーカーを作るのは至難の技、ということぐらいは素人でも想像がつく。前職の家電メーカーにいた時に提唱していたのが、“自動車は家電になる”という考え方。モーターとバッテリーがあれば、夏休みの工作のように電気自動車が作れてしまう。未来の自動車メーカーは、家電メーカーやその他の業態からの参入者こそが作り上げるのだろう、と。

先日、電気自動車業界の某有名人と会う機会があった。その時に、電気自動車事業の話をしたところ、全否定をされてしまった。まぁ、それ自体は意見の相違だからなんとも思わないのだが、その時に言われた「資金を2000億円準備できるんですか? お金が無いならば、本田宗一郎くらいの天才以外は、自動車メーカーを作るのは不可能ですよ。それがたとえガソリンだろうと電気だろうと」という言葉に、ものすごく残念な気分になった。その道ではとても著名な方のコメントだから、世間への影響力は大きいだろうし、見識や知識に基づいた発言なのだろうが、あまりにも夢がない……。夢を持った人間がそれを聞いた時にどう思うんだろう? と余計な心配をしてしまうくらいにガッカリした。

自動車メーカー「ダイハン」。ラオスで実現した韓国人の夢



そんな時に、海外出張で見た夢の事例をここでは共有したい。それはラオスに行った時のこと。ラオスとは東南アジア、メコンデルタにある人口わずか700万人弱の発展途上国である。ミャンマーの経済発展のニュースの陰に隠れてしまい、日本からはほぼノーマークの国だが、私は実はラオスの方がずっと経済発展の可能性があると信じている。すでに数回訪問している国だが、一年前は青果市場だったところに、ハードロックカフェができ、連日連夜満員になっていた。



そして、むせ返るような熱気のある午後のこと--とある自動車ディーラーを訪れた。私は車が好きなこともあり、海外に行くと、無理矢理にでも時間を作り、市場調査を兼ねて自動車ディーラーに立ち寄るようにしている。で、韓国を代表する現代自動車のディーラーに車を見に行った際、そこに隣接する見慣れないロゴに衝撃を受けた。自動車メーカーのロゴは全て頭に刻み込まれているはずなのに、一体これは何?? ヒュンダイの隣にあるロゴはダイハン? 誤植か? 

気になったのですぐに中へと入る。すると、その正体は、メルセデスベンツのトランスミッションをベースに、いろんな部品を組み合わせて作った「ダイハン」(デェーハンと発音するらしい)という、ラオスの自動車メーカーだった。



ディーラーも平日の昼下がりというのに、お客さんはそこそこ入っていた。契約をしているであろう人の姿もチラホラ。何よりもデザインがなかなかに洗練されている。販売価格を見てみると、日本車より安い韓国車よりもさらに安く設定されている。だが、品質は価格を考えるとお釣りが来るほど十分だ。プラスチック部分が多かったり、チリ(鉄板のつなぎ目の隙間)が一定ではなくムラがあったり、文句をつけようと思ったらいろいろ言えるレベルではあるが、そんなことは問題ではない。このレベルのガソリン車をこの価格で、しかもなかなかのかっこいいデザイン!

読者のみなさん、今回に限ってはググってもそんなにでてこないので、私のレポートで我慢しなさい。このデーハン、東南アジアのラオスで、韓国人が自分の車メーカーを作りたい、という夢で作り上げたメーカーなのである。たぶん……。

韓国の人が東南アジアのラオスに移住し、現代のディーラーを営みながらラオス初、ラオス発の自動車メーカーを作り上げる。これは本当に素晴らしいこと。なんと夢のある話だろうか?

巨額の資金がなくても、電気自動車より参入障壁が高いと言われているガソリン自動車メーカーを作り上げてしまった人が、この東南アジアに存在したのだ。彼こそマイケル・ジャクソンがいう、「夢は実現するためにあるんだ♪」を体現した男だろう。ラオスのマイケル・ジャクソン、いや、マイケル・デーハン。勝手に命名してしまったが、いつかその人に会ってみたいものだ。

文/伊藤嘉明

※『デジモノステーション』2017年2月号より抜粋

(編集部注)このコラムに登場する「DAE HAN MOTORS」は日本市場未上陸で正式な日本語表記が存在しないことから、筆者の意向を尊重して表記揺れを含めて原文のまま掲載しております。ご了承ください。

連載バックナンバー: 伊藤嘉明の「人生万事振り切るが価値」

いとうよしあき/X-TANKコンサルティング 代表取締役社長。数々の外資系企業での事業再生、マネージメント経験を生かし、可能性のある組織や人材を有機的に結合させたり、資金を投入することで、日本国内はもちろん、生まれ故郷である東南アジアでイノベーションと変革を巻き起こす。著作に『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社)など。