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日本の冷蔵庫市場ではここ数年、ドアパネルの素材の主流が鋼板からガラス素材へと移り、機能や性能面だけでなく、デザイン性を打ち出した製品が増えつつある。しかし、そのほとんどが定格内容積351L以上の大型クラスの製品で、それ以下の小型・中型クラスの商品はまだまだラインナップが乏しいのが現状だ。

そんな中、シャープは単身者や少人数家族世帯向けの小型・中型クラスで、デザイン性にも重きを置いた新たな冷蔵庫を1月19日より発売する。そこで今回は、同製品のデザイン担当者であるシャープ 健康・環境システム事業本部 デザインスタジオの一色純氏に、新製品における取り組みや狙いについて訊ねた。

○多様化する社会と小型冷蔵庫のニーズ

このほどシャープから発売されるのは、プラズマクラスター冷蔵庫「SJ-GD14C」(以下GD14C)と「SJ-GW35C」(以下GW35C)の2製品で、定格内容積はそれぞれ137L、350Lとなっている。

このうちGD14Cは、幅48センチ、奥行60センチ、高さ112.5センチの2ドアタイプの冷蔵庫で、1人暮らしのユーザーや、オフィスやカフェ等店頭での設置、2台目のサブ機としての需要を見込む。

シャープは11月に行った記者向け内覧会の席で、「小型・中型の冷蔵庫はこれまで他社も含めて選択肢が非常に限られてきた。しかし、多様化する昨今の社会において、インテリア志向の高い消費者が増えており、小型の冷蔵庫にもデザイン性が求められるようになってきた」と説明。こうした新たな消費者需要に応えるべく、今回の2つの新商品を企画した旨を明かしていた。

小型冷蔵庫のラインナップであるGD14Cにおいて掲げられたデザインコンセプトは"「家具」のような冷蔵庫"だったという。製品全体を通して直線的かつ平面的なデザインが貫かれ、まるでオーディオ製品のような見映えで、リビングに置かれていても違和感がない。

一色氏によると、本製品をデザインする上で最も大切にしたのは、"周囲のインテリアに溶けこむような佇まい"とのこと。そして具体的に意識された要素としては次のように語った。

「水平、垂直のすっきりとした直線と、フラットな面で構成することを第一にしました。さらに、その上でハンドル部の見せ方や、ドアとドアとの隙間の見え方、ドアとトップテーブル(天板)の隙間の位置などにも細かく配慮して極力凹凸をなくし、隙間を見せないようにしました。要素を整理することで、すっきりとしたスクエアなデザインにすることを目指しました」

また、デザインにおいて小型冷蔵庫ならではの課題もあったようだ。

「小型冷蔵庫は、ドア面積に対してハンドルの比率が大きくなります。しかし、ハンドル部分はサイズによって操作性が決まるので、大型でも小型でもほぼ同じサイズが必要なんです。ただ、小型冷蔵庫の場合はガラス面に対してハンドル部の比率が大きくなってしまうため、小型モデルの全体の大きさから見た比率で美しく見えるデザインを考えることが必要となってくるんです」(一色氏)

GD14Cのデザイン面で特に目を奪われるのは、薄い一枚板のハンドルだ。一色氏の説明のとおり、手前、上面、側面の外側から見える部分はほとんど凸凹がなくフラットで美しい。だが、開発現場ではこうした形状にすることには、反対意見も多かったのだという。

その他にも、トップテーブルとドアのすき間の段差をより目立たせないようにするために、トップテーブルが手前側に向かってなだらかな傾斜をつけるなどの、見えないところで細かな工夫が秘かに施されているのだと明かす。更に、GD14Cにはドアを開け閉めする際のハンドルの存在感を感じさせないデザインになっている。

また、GD14Cにはドアを開け閉めする際のハンドルの存在感を感じさせないデザインになっている。

「強度の問題で、ドアフレームを薄くするというのは実はとても難しいことなんです。さらにこの製品では、ドアを左右どちら側からも開くことができる"つけかえどっちもドア"という構造を採用していて、この機構のために必要なヒンジ部分の強度を保ちながらも目立たなくして、デザイン性と両立させるのに大変苦労しました」と一色氏。

全体的に角の立ったシャープなフォルムのGD14Cだが、見た目に美しい反面、安全面との折り合いも工業デザインにおいては外せないポイントだ。

「全体的に小さなRサイズにすることでシャキッとした直線的な印象にしながら、安全面のポイントになる角にのみ必要なRを確保することでスクエアなデザインを実現しました。GD14Cのアクセントにもなっている引き出しドアハンドルの左右の角の部分は、ガラスドア面と飛び出し量のバランスと安全面の印象も配慮しながら最もなじみのいいRサイズにしました」と話す。

小型冷蔵庫のデザイン上で大型冷蔵庫とのもう1つ大きな違いは、「天面が見えていること」と一色氏。「トップテーブル(天板)とドアの上面、トップテーブルとドアの隙間というのは、大型モデルでは見えない部分であるのに対して、小型冷蔵庫では一番目につく箇所でもあるんです。それゆえ、正面、天面のつながりの見え方や構成もデザインする上での大きなポイントになるんです」

GD14Cでは、外観だけでなく、庫内のデザインにもこだわりが取り入れられているのも従来の冷蔵庫にはなかったユニークなポイントだ。扉を開いた正面にはグレーの背面パネルを設けることで奥行感を演出し、シルバーをアクセントにしたガラス棚や透明の樹脂ケースを用いるなど、明るくて上質な印象の庫内は白い樹脂素材一色の無機質なこれまでの小型冷蔵庫とはひと味違う。一色氏によるとこれには次のような思いが込められているという。

「食材を取り出す時に食材が素敵にディスプレーされていることでおいしそうに見え、うれしくなり、幸せな気分を感じるような庫内にしたいと思い、デザインしました」

○住まいにフィットする中型機「GW35C」

一方、中型モデルであるGW35Cでデザインコンセプトとして掲げられたのは、"住まいにフィットする"。同製品は、大容量の冷凍庫を備える「メガフリーザー」シリーズでもあり、既に展開している大型モデルからも次のようなデザイン上のポイントを継承しているという。

「正面をスッキリと見せるために、上下の樹脂パーツを見せないようにしたり、ガラスの端面を見せないようにするなど、ガラスと樹脂フレームの基本的な構成を継承しています。カラーバリエーションに関しても、大型モデルで展開しているホワイト、メタリックブラウンの2色を継承しました」

しかしこれに対し、既存のモデルやGD14CとGW35Cが異なる点は、ハンドル部分だ。空間に溶け込ませるデザインという意味では、同色にしてスッキリまとめるという選択肢も考えられるところだが、本体のメインカラーとは異なる配色をあえて採用した理由を次のように語った。

「単調にならないようにするためのデザインアクセントとしました。シンプルな中にも、全体を引き締めるポイントを作ることで、大きな冷蔵庫をインテリア空間に置いた際に、間延びしないようにしたデザインです。ガラスと金属感の質感、およびカラーの対比が美しく映える配色として各色を選びました」

カラー展開に関しては、両製品ともにホワイト系、ブラウン系を持ち、GD14Cのみブラック系を揃える。しかし、ブラウン系に関してはGW35Cがメタリックブラウン、GD14Cはメタリックベージュとトーンが違う2色となっている。ひとつに統一せずにサイズごとに微妙に色を変えた理由は「置かれる空間の質の違いや広さの違いから色を変えました」とのこと。

「GW35Cは家のパブリックスペースであるダイニングキッチン、GD14CはプライベートスペースなどGW35Cよりも狭い空間への設置を想定し、圧迫感を感じないように明るめのカラーを採用しました」(一色氏)

ライフスタイルの多様化により、近年、家庭内におけるパブリックスペース的存在となったキッチン。それに伴い、冷蔵庫も人の目に触れる表舞台へ置かれるようになってきた。しかし狭い場所や居住空間に置かれることを考えると、本来は小型・中型冷蔵庫こそよりデザイン性が重要視されるべきであったことを改めて実感する、今回のシャープの新製品の登場と開発秘話ではないだろうか。

(神野恵美)