「医師にとって、自分の風邪とインフルエンザの予防は重大な仕事の一つです」と話すのは、大阪府内科医会副会長で、泉岡医院(大阪市都島区)の泉岡利於(いずおか・としお)院長。医師はどのように自分の風邪を予防しているのでしょうか。詳しく教えてもらいました。

マスクの表面にはウイルスがついていると想定する

「風邪とインフルエンザでは、主に2つの感染ルートがあります。人のせきやくしゃみによって飛び散ったウイルスが自分の口や鼻、目の粘膜にくっつく『飛沫(ひまつ)感染』と、ドアノブや便座などからウイルスに直接触れる『接触感染』です。私は、これらを防ぐために次のようなことを心がけています」と話す泉岡医師は、具体的に次のことがらを挙げます。

(1)石けんで手を洗う
「当たり前」と思う人は多いようですが、当たり前のことを怠らずに、実践しているかどうかがポイントです。手洗いは、手や指に付着したウイルスを洗い流すための、感染症予防の基本です。帰宅後や食事の前は、手のひら、指の間、指先、手首などを石けんでよく洗う習慣を身につけましょう。

(2)うがいをする
これも、当たり前と思いながら、「実践していなかった」と言われる患者さんは多いです。うがいで、口やのどの粘膜に付着したウイルスを洗い流します。始めに水を口に含んで汚れや食べかすを洗い流し、もう一度水を含んで上を向いてガラガラとうがいをしています。

(3)手洗いやうがいの後は、使い捨てのペーパータオルを使う
家族や職場でタオルを共有する、人のハンカチを借りるなどは避けています。接触感染のもとです。また、風による手の乾燥機も使いません。手の差込口にウイルスがたまっている可能性があること、また、風でウイルスが飛沫する原因になるからです。

(4)アルコール消毒をする
(1)〜(3)の手洗い、うがい、手拭きをした後に、アルコール製剤を指先、手のひら、手の甲、指の間、指の付け根にすり込むようにして消毒をしています。風邪やインフルエンザのウイルスは、アルコールによる消毒効果が高いと言われています。

(5)マスクは、鼻、口、あごまでを覆い、顔とのすきまができないタイプを使う
医療従事者用のマスクはすきまがないように装着できるのですが、一般の市販のマスクでも、ぴったりと顔にフィットするタイプを選んでいます。不織布のマスクは、使い捨てができるという点でお勧めできます。

(6)マスクをしているときに、鼻や口のまわりをマスクの上から触らない
マスクの表面、特に鼻や口のフィルター部分は、せきやくしゃみで飛び散ったウイルスが付着している可能性が高くなります。触ると感染の原因になります。

(7)マスクをはずすときは耳のゴムを持つ
マスクをはずすときに、鼻や口の上にあたる部分を持ってはずすと、ウイルスが指に付着します。耳にかけているゴム部分を持ってそっとはずしましょう。

(8)マスクを病院内や部屋のゴミ箱に捨てない
はずしたマスクを屋内のゴミ箱に捨てると、ウイルスを空中に飛散させる恐れがあります。ビニール袋でくるんで口をしっかりと閉じてから捨てましょう。面倒に思わずに習慣にすることが重要です。

(9)外出先から戻ったら、玄関先でマスクをはずす
外出先では、マスクの表面に飛沫が付着する可能性が高くなります。屋内に持ち込まないために、玄関先で(7)(8)の要領ではずして捨てます。よそのオフィスやお宅を訪問するときに、玄関先でコートや帽子、マフラー、手袋などを脱ぐのがマナーと言われるのと同じことです。

(10)マスクをはずしたら、すぐに手を洗う
用心をしていても、マスクをはずすときにウイルスが手に付着することがあります。接触感染のもとになるので、必ず(1)の要領で手を洗いましょう。

(11)1度使ったマスクは取り換える
食事のときなどにはずしたマスクは再び装着せず、取り換えるようにします。「使用済みのマスクにはウイルスが付着している」と想定し、一度はずしたら手にウイルスがうつること、また、手を洗った後でそのマスクをつけることで接触感染の確率は高くなります。マスクは使い捨てタイプを使いましょう。

(12)指で鼻や耳をほじらない、爪をかまない、目の付近を触らない
口、鼻、目の粘膜から、接触感染する可能性が高くなるので、日ごろからこれらのことをしないように心がけています。

(13)20分に1度は水をひと口以上飲む
空気の乾燥はのどの粘膜の防御機能を低下させます。のどを常に潤すこと、水分をとることを意識して、水や白湯を少しずつ飲んでいます。

(14)できるだけ厚着をしない
厚着を続けると、自律神経による体温調節の働きが弱まります。すると、屋内と屋外での気温の差が激しい冬には疲労がたまり、免疫力も低下して風邪をひきやすくなります。日ごろからコートやマフラー、帽子、手袋などをうまく活用して、屋内外での衣服のありかたに注意しています。

(15)足首、手首、外出時は首をガードする
(14)に関わることですが、「首」と呼ぶ部位を温めると手や足、頭部といった末端組織への血流が促されます。例えば、分厚い靴下をはくよりも、足首を温めるウォーマーを着用するほうが冷え対策に有用と考えられます。

(16)電気毛布、電気アンカは使わない
使いたい場合は、寝る直前にスイッチを切ります。ひと晩中つけておくと口や鼻の粘膜が乾燥し、ウイルスが侵入しやすくなります。

(17)風邪薬に頼らない
風邪の薬は、せき、鼻水、熱などの各症状を抑えるためのものであり、軽症の場合はむしろ、せきや鼻水を抑えずに排出したほうがいいことも多いのです。また、早めに飲んでも、予防はできません。

薬だけに頼る、薬を多種、また多量に飲む、風邪の予防に飲む、回復しても飲み続けるなどは無意味です。風邪かなと思ったら、日ごろより活動量をセーブして、栄養のバランスがよい食事をする、夜は早めに寝て睡眠時間をキープするなど、少しでも休息を心がけます。

(18)不規則な生活リズムを避ける
風邪やインフルエンザに感染するとき、多くの場合、免疫力が低下しています。日ごろから、規則正しい生活リズム、栄養のバランスがよい食事、適度に軽い運動をして免疫力を高め、体内にウイルスが侵入しない、また侵入されても抵抗できる体づくりを心がけています。

ウイルスは手や顔に付着するもの

最後に泉岡医師は、これらの実践について、こうアドバイスを加えます。

「風邪やインフルエンザのウイルスは目に見えずに飛び散り、手や顔に付着するものだということを常に意識しておきましょう。感染したときのしんどさを想像すれば、これらのことも面倒に思わずに実行できるのではないでしょうか」

言われてみると、ちょっとした心がけでありながら、ハッとすることばかりです。手洗いや手の拭きかた、マスクの扱いかただけでも、実践すると随分と感染が防げるように思います。自分と周囲の人のために、ぜひ参考にしたいものです。

(取材・文 藤井空/ユンブル)