自民党の農林関係合同会議を終え、取材に応じる小泉進次郎農林部会長と西川公也元農林水産相。「できる限りの速いスピード感で自己改革に取り組むことを党の意志としてしっかり出した」と述べた。(時事通信フォト=写真)

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──「小泉進次郎(農林)部会長は、限界を感じない人だ。次から次に挑んでいく。包囲網を感じると包囲網ができないように先手を打つ。包囲網をつくろうとした人は、つくれなかったと思う。だから、今日の結果が得られた。包囲網も破るのも、巧みに破ってきた。部会長は本当によくやり遂げたと思う」

そう進次郎を評したのは、自民党の西川公也元農林水産大臣だ。次の時代の総理・総裁を担うであろう進次郎は、2015年10月に農林部会長に就任。農業従事者の収入アップを掲げ、「農協(JA)が、(ホームセンター)コメリより高い値段で農業従事者に生産資材を販売している」と批判した。

「なぜ今、農業改革か」と題し、16年11月15日に日本経済研究センターで行われた講演では、「農業イコール衰退産業、弱者、儲からないというのはおかしい。農協は(経済事業が)赤字でも最後は他の部門の黒字で埋めてもらえる。最高のサービスを顧客・利用者に提供できていない」と厳しく批判し、農協に宣戦布告。それから、インナーと呼ばれる自民党農林族も交えた「抵抗勢力」との本当の闘いがはじまった。

進次郎自身がこの「戦争」をいかに闘い、どのような成果を勝ち得たのか。農協との死闘を闘い抜いた進次郎が、親しい記者にだけ明かした本音を初公開する。

■一晩にして状況が一変「本当に苦しかった」

今回のインナー(自民党農林族)や全農(全国農業協同組合連合会)との激しいやり取りの結果をひとことで言えば、「負けて勝つだなぁ」と思うのです。農業改革に向けて進めてきた「農業競争力強化プログラム」が党の了承を得るまでに、様々なエピソードが詰まっていて、苦渋の決断がいくつもあったのは事実です。「(自身の考える改革に反対する勢力から)攻められてくる包囲網をどうかいくぐっていくか」と西川先生は話されていました。これは巨大な団体を相手にして切り込んでいこうとした者にしかわからない、その世界に踏み込んだ者にしかわからない、包囲網の張られ方というものがあるのです。

そのすさまじさ。一晩にして状況が一変してしまう「夜の時間」の怖さ。

僕はこれまで「改革というものは登山に似ている。頂上に近づけば近づくほど空気が薄くなり、苦しくなっていく」というたとえをずっと使っていました。しかし、今回は本当に苦しかった。「いま、僕は頂上に向かっているのか、崖に向かって歩いているのか、どっちなんだろう」と思いながら進んでいたのです。だから、あらゆるところに(危険察知の)アンテナを張りめぐらして、包囲網が引かれそうになった瞬間には察知して、取って切ってという毎日を過ごしてきました。自分がものすごく鍛えられたと思います。

■農家が幸せになるなら僕は嫌われてもいい

僕は講演でも言っているのですが、「団体栄えて農業滅びる」「団体栄えて農家が泣く」ということは絶対許されない。

メディアのみなさんは、農林族の人の強い抵抗にあったと思っているかもしれませんが、そうではありません。ずっと守ってくれたのは農林族の先生方です。折に触れて「団体の言葉を聞きすぎたらいけないよ」「すべての農家を守ろうとしてすべての農家を守れなかった」という農林族の先生の言葉が励みになっていました。

僕は、政治家と団体の関係というのは「農家のみなさんに喜んでいただけるなら、団体に嫌われてもいい」ということに尽きます。

TPP交渉に即参加しろと僕が言い続けたことで、神奈川県の(全農の)中央会から選挙のときに推薦してもらえなくなった。しかし、地元の単協会は僕のことを独自に応援してくれたんです。選挙演説会も農協でやってもらい、現場のみなさんに「なんで僕はTPP交渉に参加するべきだと思っているか」ということを組合員に伝えてほしいと依頼したら、本当にそれが実現したのです。組合員のみなさんは「自分たちが反対していることでもちゃんと言ってくれてよかった」と言ってくれて、応援をしてくれる。そして、その応援があって今の僕がいる。それは、業界団体との関係全般にも言えることではないでしょうか。とてもシンプルな考え方です。

たとえば、商工関係で言えば、商工団体と関係がうまくいっている政治家がいたとしても、それで町工場の人が泣いていては意味がない。農業でも同じで、「団体は喜ぶけど、農家の人は喜ばない」ようなことをやってはいけないんです。

そういった中でのせめぎあい、バランス感覚は、これからもずっと悩んでいかねばならないでしょうね。

全農が1500人の集会を先日開催しました。あの会では、多くの農協グループが行政に働きかけていたのです。その会で、僕は、農協の女性団体である全国女性協のみなさんから、規制改革に反対する意見書を受け取りました。そのときに全国女性協の会長が、

「小泉さんはJAが嫌いですか」

とお尋ねになりました。僕は、

「好きか嫌いかの問題ではありません。農家のみなさんが幸せになるんだったらそれでいい。好き嫌いの発想はどうでもいい。農家のみなさんがJAのみなさんありがとうと思っていたらそれでいいし、そう思っていなかったらまずい。単純にそこだけです。団体のことを好き嫌いという判断は僕にはありません」

と答えました。そのあと、僕は自分の溢れる思いを会場のみなさんにぶつけさせてもらいました。その中で、日本農業新聞が主催した大会で農林部会長である僕が出席をしたとき、お台場のホテルを1000人以上で埋めて、中華のフルコースが振る舞われたこと。僕が挨拶したとき、「帰れ!」と野次られたことも話しました。

また、日本各地いろいろ行ったときに、小さな村や町の多くで、最大の建物が農協であった事実も指摘しました。

農家のみなさんがあの風景をどういう目で見ているのか。そういう現状で本当にいいのか。

日頃、僕が感じている思いを余すことなくぶつけさせてもらいました。同席していた日本農業新聞の記者には、「僕の話は全部載せてもらっていいから」と言いました。

その翌日の記事には、小さく「女性協が小泉議員に反対の要請行動を取った」とだけ、僕の顔の写っていない写真付きで載っていました……。

JAグループのみなさんの中には、信頼して話ができる方がいるのも事実。これから日本の農業・農家のみなさんのために働いてくれるであろうという人がいるのも事実。でも、JAが今までの意識のままで日本の農業の未来が明るいものになるかと言われたら、そんなことはないのも事実。だから僕は、好き嫌いで団体のことを見ることはしません。

(今回、自民党が了承した全農の改革案には)自己改革が着実に進んでいけるような文言が入っています。現実的に考えて、取り組みたくなくても取り組まざるをえないようなものになっていると自負しています。全部骨抜きになってしまいそうな形勢で最後に守りきったもの。小泉は負けて勝ったんだと、正しい評価をしてもらえるはずです。

(以上、11月25日農林部会散会後の囲みおよびメディアレクチャーの発言要旨。読みやすくするために、言葉を補った部分があり、その点については筆者および編集部の文責)

このレクチャーを聞いた記者は「農業の山は登りきった。農林部会長はおそらくこれでお役御免だろう。この次はいよいよ総理・総裁への険しい道のりがはじまる」と感じたという。進次郎の新しい挑戦がはじまる。

(文中敬称略)

(平本美月=文・構成 時事通信フォト=写真)