昨年末の12月28日、東京・味の素フィールド西が丘で行なわれた「高円宮杯全日本ユース(U−15)」決勝戦――。清水エスパルスジュニアユースが北海道コンサドーレ札幌U−15を3−1で下すと、ゴール裏には「☆☆☆」と描かれた三ツ星のフラッグが振られ、清水の選手、スタッフ、サポーターは歓喜の「勝ちロコ(※)」を踊った。

※勝ちロコ=清水エスパルスの選手とサポーターが一緒に喜びを分かち合う勝利の儀式。

 2016年度の清水ジュニアユースは春のJFAプレミアカップ、夏の日本クラブユース(U−15)を制しており、この優勝によって見事に「3冠」を達成。2012年のガンバ大阪ジュニアユース以来となる史上2チーム目の快挙を成し遂げ、「ジュニアユース世代最強」を証明した。

 3冠達成の要因についてFW川本梨誉主将は、「みんな、ひとりひとりがすごく努力家。練習だけでなく、オフの部分で努力している人が多い。食事だったり、身体作りだったり、体幹だったり、それらを強化できたのがよかったです」と語り、さらにこう続けた。

「(2年生のときに)海外を経験させてもらって、自分たちとの身体の差、技術の差を感じました。帰ってきてから監督のもとで、それを意識できたのがよかったです」

 川本の言う「海外の経験」とは、2015年8月に実施したオランダ遠征のこと。なかでも、3−2で逆転勝ちを収めたクラブ・ブルージュU−15戦は、多くの関係者が「分岐点だった」と口を揃えるほど、スピード、フィジカル、テクニックの面で相手チームから大きなインパクトを受けた。

「(クラブ・ブルージュU−15に)勝ったことで満足してはいけない。彼らが上のカテゴリーに行ってフィジカルトレーニングを始めたら、清水の選手を上回ってしまうのは目に見えている。しかも、クラブ・ブルージュには毎年いい選手がどんどん入ってくる」

 コーチングスタッフと選手たちは、その試合で自分たちの課題を認識し直したという。

 オランダ遠征に帯同した齋藤佳久トレーナーは、「欧米人と比べると日本人の姿勢が悪い」ことが気になっていた。そのため、夕食後に選手たちに対して行なう講義では、「しっかり背筋を伸ばして立つこと、歩くこと、座ることは、そのこと自体が体幹を使っており、トレーニングをしていることと同じなんだよ」と熱っぽく語ったという。

 また、早朝の散歩で広い駐車場を見つけると、正しい姿勢で歩くエクササイズもそこで行なった。こうして清水ジュニアユースの「フィジカル強化」は、日常のなかの姿勢矯正からスタートする。

 清水の町は、かつては日本のブラジルと言われたぐらい、「サッカーどころ」として知られていた。清水に入団してくる選手たちも、運動万能のスポーツエリートが多かった。しかし近年の傾向として、齋藤は思わぬことを口にする。

「昔の清水の選手たちは、もちろんサッカーはうまかったですが、その前に『運動ができる』というベースがありました。しかし今の選手たちは、サッカーはできるけれど、学校での体力テストではボールを遠くへ投げられないとか、握力が弱いとか、体育の成績のよくない子が多くいます。その結果、小学校ではサッカーがうまいだけで通用したけれど、中学や高校に上がり、周りの選手が伸びてくると通用しなくなる子が多く見受けられました。だから私は、『サッカー選手である以前に、アスリートでないといけない』と言い続けてきたのです」

 そのような背景もあり、清水は2016年から『アスリート育成プロジェクト』を立ち上げる。体幹や身体作り、そして食事に関して選手へのレクチャーや実践を始めた。

「ジュニアユースの『身体作り』は、(筋トレではなく)本当の『土台作り』です。普段の姿勢や動作を含め、トレーニング以前の土台をしっかり作るということ。身体をしっかり自分で思うように動かせるようになれば、その後の技術の習得にもつながっていくのです。あとは食事を摂って寝ること。そこでしっかりとした土台ができれば、ユースに上がっても(そこで必要とされる)フィジカルがスムーズについてくると思っています」(齋藤トレーナー)

 食事に関しても、昨年まで週1回、クラブで食事を摂っていたのを2回に増やした。そして、そのメニューを父兄に送るようにしたとも齋藤トレーナーは語る。

「練習直後の30分以内に栄養を摂るのが一番成長できる時間なので、できるだけ早く食事を摂らせて、栄養摂取と成長促進に取り組んできました。遠征だと(一緒にいるのが)1日〜2日程度なので、そのときは結構がんばって食べるんですよ。ただ、『意外と食べてるじゃん』と思っていた選手が、定期的に週2回の食事を見るようになると、だんだんボロが出始めて、『実はあまり食べられなかったんだ』というのがわかってきます。また、食べる量が少ない選手もチームメイトと食事を摂ることで、『俺だけ食えないのはまずい』と気づきます。そういったところは、どんどんいい方向へ向かっていると思います」

 質・量ともに豊富な食事を摂ったことの成果は、選手たちも実感しているという。

「齋藤さんからは、『エスパルスはいつも夏の成績はいいけど、(関東や関西のチームに身体つきで抜かれる)冬はフィジカル面で当たり負けしていた』と聞かされていました。クラブでの週2回の食事で食べている内容や量は、家庭でも親と相談して同じように食べるようにしたので、御飯とおかずの量は本当に多くなりました。みんな、身体つきがよくなったと思います」(川本主将)

「練習後に食事を摂るようになってから、フィジカルで当たり負けすることがまったくなくなりました。自分の持ち味のなかでも、身体の強さというのがものすごく光ってきた。この2年間、エスパルスが食事を摂らせてくれるようになったおかげで、自分の長所がもう1個増えた気がします」(SB林航輝)

 チームを率いる岩下潤監督も、清水の『アスリート育成プロジェクト』の中心メンバーのひとりだ。

「齋藤トレーナーには専門的なところをやってもらって、私がサッカーとつなげることによって成果が出てきたと思います。たとえば、ボールをもらうときの姿勢が悪いからパワーがなかったんだとか、蹴るときにボールが失速したんだとか、足の裏の体重の位置が悪いから反転が遅れたんだとか......。そういうことを、プレーするなかで選手たちに言ってあげています」(岩下監督)

 もともと、足もとの技術に秀でていた選手たちが、今度はフィジカルに自信を持ち始めた。すると、サッカーがうまかっただけの選手が、相手にボールを触らせない選手になったという。

「うちの選手はどちらかというと、ブロックしながらドリブルするのが好きです。相手の懐(ふところ)に入ったのなら、ボールを隠してガードしながら(相手の身体を)利用するとか、そういうプレーが増えてきました。だから、相手に身体を寄せられても慌てません」(岩下監督)

 2016年はトップチームがJ1復帰を決め、ユースが日本クラブユース(U−18)で準優勝し、ジュニアユースが3冠を達成――。まさに、「清水エスパルス巻き返しの年」となった。しかし、岩下監督や齋藤トレーナー、掛川誠GKコーチからは、もっと周囲の底上げも図っていきたいという気概を感じる。

「エスパルスだけでなく、清水地域でのレクチャーも始めています。3冠という結果が出たことで、今やっている『アスリート育成プロジェクト』というベースの大事さを認識してもらえれば、清水全体の底上げにもつながるのかなと思っています。日本サッカーの発展につながっていくのであれば、僕たちはもっと発信してきたいです」(齋藤トレーナー)

 清水エスパルスのオフィシャルブログ『育成だより』をチェックしてもらえれば、その想いがよくわかるはずだ。「3冠王者」にそのメソッドを隠すつもりは、さらさらないのである。

中田徹●取材・文 text by Nakata Toru