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ロンドンから列車で約2時間、バーミンガムの南にある小さな街、ストラットフォード・アポン・エイヴォン。ここは、シェイクスピアの生誕地として有名な場所で、小さな街ながら世界中から多くの観光客が訪れる、イギリスきっての観光地でもある。観光客の目当ては、もちろんシェイクスピアだ。ストラットフォード・アポン・エイヴォンには、シェイクスピアの生家や妻アン・ハサウェイの家など、シェイクスピアゆかりの名所が多数ある。

また、シェイクスピア作品を多数手がけるイギリスを代表する劇団、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが拠点を構え、ロイヤル・シェイクスピア・シアターなどの劇場で定期的に公演を行っており、公演を目当てに訪れる観光客も大勢いるそうだ。

そのロイヤル・シェイクスピア・シアターにおいて、2016年11月8日から2017年1月21日までの期間で、シェイクスピア最後の作品として知られる「Tempest」(邦題「あらし」)を上演。そして、この上演は、これまでにない全く新しい演出を採用していることで注目を集めた。

○Intelが協力し、様々な映像技術を駆使した特殊効果を採用

Tempestは、大嵐で難破した船のシーンから上演が始まる。いきなり劇場内に雷の音が轟き、激しい光の演出なども加わって、嵐の中にいるかのような雰囲気となる。このほか、劇中では妖精アリエルが魔法を使うシーンなどがあり、従来から様々な特殊効果を駆使して上演されてきたという。

そして、今回ロイヤル・シェイクスピア・シアターで上演されているTempestでは、Intelが協力して様々な最新技術を駆使し、これまでにない全く新しい特殊効果を採用している。その最たるものが妖精アリエルの表現で、妖精アリエルを演じている俳優の動作をモーションキャプチャしつつ、リアルタイムで3Dグラフィックスのアバターをレンダリング。そして、そのアバターを舞台上のスクリーンにプロジェクションマッピング技術を駆使して投影するという、これまでにないものとなっている。

演劇でこのような映像を活用した特殊効果を利用する場合には、あらかじめ用意した映像を利用することが中心だと思う。演劇の上演中に、リアルタイムでアバター映像を作成しつつ、その映像をステージに投影して利用するという手法は、これまでにはほとんどなかったものと言っていいだろう。少なくとも、ロイヤル・シェイクスピア・シアターで上演される公演では今回が初の試みだ。

演劇では、舞台上で演じる俳優が、舞台上のほかの俳優の動きに合わせて演じる必要がある。そのため、あらかじめ用意しておいたアバターの映像を利用すると、舞台上で実際に演技している俳優達との呼吸に微妙なズレが生じるなどして、どうしても違和感が出てしまう場合がある。そこで、あらかじめアバターの映像を用意して投影するのではなく、リアルタイムに俳優の動きや表情をモーションキャプチャ技術で取り込みつつ、アバター映像を作成して投影するという方法を採用したのだという。

とはいえ、舞台上で演じている俳優の動きをモーションキャプチャしつつ、リアルタイムでアバター映像を作成して投影するには、非常に高度な技術や高い処理能力が不可欠となる。そこで、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーからIntelに接触し、約3年の月日をかけてリアルタイムでのアバター投影システムを開発。そして、今回の公演で初めて実現されたわけだ。

○劇場内に多数のモーションキャプチャ用カメラを設置

このアバター投影システムで実現されたモーションキャプチャ技術は、イギリスのモーションキャプチャスタジオ「Imaginarium Studios」が開発した技術をベースにしている。そして、舞台上で演技する俳優の動作をリアルタイムにモーションキャプチャしつつ、アバターをリアルタイムでレンダリングし、舞台上のスクリーンに投影する。

アバター映像をリアルタイムに生成するレンダリングシステムについて、具体的な構成は非公開となっているが、Core i7やXeonといった最新のIntel製プロセッサに、強力なGPUを多数搭載したPCやサーバシステムを利用しているという。

また、公演が行われる劇場内には、ステージを取り囲むようにおびただしい数のモーションキャプチャ用カメラが設置されていることを確認。そして、妖精アリエルを演じる俳優は、モーションキャプチャに対応した特殊な衣装を着込んで舞台上で演技を行う。これにより、妖精アリエル役の俳優が舞台上のどこにいても、その動きをしっかりモーションキャプチャできるようになっているようだった。

今回のTempestの舞台では、難破船や島の建造物などを模した、大型の大道具が設置されていた。そして、妖精アリエル役の俳優は、舞台で素早く走り回ったり、大道具に登ったりと、舞台上を所狭しと駆けずりまわる。上演中は、常にアバター映像が使われるわけではなく、効果を高めたい場面に限定して使われるが、そういった場面でも素早く動きまわる妖精アリエル役の俳優の動作がしっかりキャプチャされ、アバター映像として表現されていた。

○神秘的かつ奥深い雰囲気に感動

レンダリングされるアバター映像は720pで、俳優の動作だけでなく、場面によっては表情も読み取って反映されるようになっている。またアバター映像は、舞台上を上下左右に自由に動く布状の特殊スクリーンやスモークなどに、プロジェクションマッピング技術を活用してスクリーンに追従しながら投影される。これにより、妖精アリエルが空中を自由に飛びまわったり、大きな化け物に変身して躍動する姿を再現した。

アバター映像は、アバターの動作の再現はもちろん、髪や布が動作に合わせてリアルにたなびく様子もしっかり再現されていた。髪や布の動きをリアルタイムに物理演算しながら再現するため、処理は非常に重くなるはずだが、IntelのCore i7やXeon、最新GPUを多数搭載するシステムによって、軽々とこなせていたのだろう。

今回筆者は、初めてTempestの舞台を体験したが、俳優の演技だけでも十分な躍動感を感じられる内容ながら、妖精アリエルのアバター映像が加わることで、舞台の臨場感が大幅に高まっていると感じた。妖精らしくアリエルが空中を飛びまわる様子などは、アバター映像による再現に最適ということもあるが、俳優の姿だけでは実現不可能な臨場感や神秘さが表現されることで、舞台の奥深さが高められていた。

しかも、アバター映像が使われるとはいっても、妖精アリエルを演じる俳優の存在感が舞台上で全く失われていなかったのにも驚かされた。アバター映像と俳優それぞれが、舞台上になくてはならない存在として躍動する様には、素直に感動した。こういった部分は、俳優と映像それぞれを活かす演出が優れていることに他ならないが、やはり長年シェイクスピア作品を手がけてきたロイヤル・シェイクスピア・カンパニーならではと言っていいだろう。そして、伝統を重んじつつ、最新技術を積極的に取り入れるロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの懐の深さにも驚かされた。

この、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーとIntelのコラボレーションは、今回のTempestの舞台だけでなく、今後も継続されるという。そのため、Tempestの再演や、Tempest以外の演目で活用されることにもなるだろう。もしイギリスに行く機会があり、シェイクスピア作品に興味があるなら、ストラットフォード・アポン・エイヴォンのロイヤル・シェイクスピア・シアターに足を運び、これまでにないシェイクスピア作品の公演を楽しんでみてはいかがだろうか。

(平澤寿康)