新たなファンをどーんと増やす、「脱ガチ思考」

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オリンピックでの感動を契機にマイナースポーツに注目が集まり、人気が高まるのはよくあること。しかし、持続的にファンを拡大する方法はないだろうか。そこで、着目したのが、一気にファンを拡大した横浜DeNAベイスターズと新日本プロレス。そこには共通するヒントがあった。

私は、”超”がつくほどの釣りマニアだ。ルアーのトラウト釣りがメインで、シーズン中は山梨県の川や湖にほぼ毎週末通う。それに飽き足らずに、アラスカやカナダ、シベリアなどの海外の秘境にまでサケやマスを釣りに行く。大自然の中で野生の美しくパワフルな魚を釣ることは素晴らしく、それがない人生は考えられない。

こんなに楽しい釣りをもっと多くの人に親しんでもらうにはどうしたらよいか。ファンを増やすのが、今回のテーマだ。

そこで最近気になったのが、球団史上最多の観客動員を記録した横浜DeNAベイスターズと、売上をV字回復させて、2020年に上場を目指すという新日本プロレスである。

このふたつは共通点があった。ベイスターズは2011年末、新日本プロレスは2012年初に経営の母体が変わり、業界外からやってきた新たなリーダーが舵取りをすることになった。経営手腕の中でも、私が着目したのは、「生活者の目線」からプロ野球やプロレスをとらえ直したことだった。

『空気のつくり方』(幻冬舎)は、横浜DeNAベイスターズの社長を務めた池田純氏の著書である。ディープな野球ファンであれば、切れ味のあるプレーを見たり、応援するチームの勝ちにこだわりたい。だが、池田氏は調査によって、来場者数の増加を牽引するのは30〜40代の働き盛りの男性層であることに注目した。「でっかい居酒屋に行くような気分で、生の野球をつまみにビールと会話と雰囲気を楽しみに来ている」という顧客心理を見いだしたのだ。つまり、ディープなファンではないが、ライトな人々は、「今日は、居酒屋に行こうか。映画を観ようか。それとも野球を観戦しようか」と、浅く広く楽しみの選択肢をたくさんもっている。

もし、勝ちだけにこだわるのであれば、野球観戦は負けも覚悟のハイリスクな選択になってしまう。たとえ負けても楽しめるから行こうという動機づけが必要なのだ。そのために多くの施策を打ち出していて、そのひとつがオリジナルのビール、「ベイスターズ・ラガー」と「ベイスターズ・エール」であった。

次に私が手に取ったのが、『新日本プロレスV字回復の秘密』(長谷川博一著、KADOKAWA)である。

新日本プロレスの急成長の原動力は、新たな資本参加による積極的な広告展開と新世代のスター選手の誕生にあることは間違いない。ただし、私にはその本質はプロレスをどうとらえ直したかにあるように思えた。

2012年からオーナーとなったカードゲーム会社・ブシロードの木谷高明社長は、プロレスの事業は音楽業界のアーティストビジネスと一緒であり、「プロレスのリング上のライブとは古臭いのではなく、最先端のキャラクターコンテンツなのだ」と語っている。音楽ライブとプロレスを同じライブと考えるならば、それはマニアじゃなくても楽しめるライブであり、勝っても負けても感動を呼ぶショービジネスなのだというとらえ方なのだ。

ポイントは、顧客との接点を多く設計したことだ。若い世代はほとんどプロレスを知らないという。そこで、自社の広告だけでなく人気選手をCMやテレビ番組などに積極的に出演させて、一部のコアなプロレスファンだけでなく、身近なキャラクターとして多くの人に認知してもらうように仕掛けた。

このふたつの事例から見えてくるメッセージは、「ガチな野球やプロレスのマニアじゃなくていい。気軽に、軽いノリで楽しんでいただいてもOK!」という「脱ガチ思考」であることだ。

私は10年来「さかなクン」とお付き合いさせていただいている。東京海洋大学名誉博士・客員准教授で”お魚”のガチな専門家だが、子どもから大人まで、魚への関心の濃淡問わず、すべての人にわかりやすく楽しくその素晴らしさを伝えている。その幅の広さにはいつも感心する。

彼もコアな魚マニアだけを相手にしているわけではない。人気の秘密もそこにある。これ、ほかのジャンルでもかなり応用が効きそうだ。入口の敷居を下げたり、気軽な接点や本質+αの楽しみを用意する。

では、釣りはどうだろう。私の周囲では、「先日、アジ釣りに行ったんです。自分で釣った魚って本当においしくって、感激! ただ、お魚をさばくのがちょっと大変で」という若い女子がいる。”おいしくって、感激!”に加えて、”さばくのがちょっと大変で”に、ヒントがありそうだ。

さらに、釣りにおいて勝ち負けを言い換えるならば、「釣れるか、釣れないか」だろう。自然相手なので釣れる保証はない。ならば、「釣れなくても楽しい時間」を提供することかもしれない。例えば、「手ぶらでどうぞ、レンタル釣り具あり。初めての方には丁寧に指導します」という釣り船屋さん。そこに居酒屋がコラボをして、「ご自分でさばかなくて、釣った魚の持ち込みOK! 各種料理に仕上げてご提供。釣れなかったときのために地魚ご用意してます。笑」と打ち出せば、面白い。楽しみ方にルールはないのだ。

「脱ガチ思考」。これこそ、プロスポーツやレジャーのみならず、ビジネス全般においても視野を広げてくれるのではないだろか。

工藤英二◎電通総研Bチーム・釣り担当特任リサーチャー。広告からイベント、出版や新規事業支援までさまざまなプロデュース業務を行う。最近、魚にかかわる仕事が増加中。個人活動ではHP「世界を釣ろう」を運営。

電通総研Bチーム◎電通内でひっそりと活動を始めていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー40人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。現在50のプロジェクトを支援している。平均年齢約35歳。