ヘルタ・ベルリンに所属する日本代表FW原口元気

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 16年、日本代表で一気に存在感を高めた。90分間絶えずにピッチ上を駆け回り、攻守で多大に貢献するだけでなく、日本代表史上初のW杯最終予選4試合連続ゴールを記録した。しかし、FW原口元気(ヘルタ・ベルリン)は「たまたま結果が出ただけ」と至って冷静だ。期待を一身に背負うアタッカーは、自身の成長に手応えを感じつつ、さらなる進化を遂げようとしている。

サッカー人生でハリルさんは

一番マッチしている監督

――2016年はご自身にとってもターニングポイントになるような1年だったと思います。

「僕自身の中では特に変わりはなく、今までどおりの1年だったと感じています。たまたま代表で結果が出たので、そこは良かったと思いますが、これまでと同じように自分の成長に集中して、1年を過ごせました。ただ、最後はちょっと崩れたと感じていますけど」

――崩れたというと?

「去年はかなりハイテンションのゲームが多くて、それに伴う反動がありました。特にW杯予選は僕自身初めて経験したので、自分が経験したことのないテンションの試合が多くて、それでブンデスの年内終盤戦はメンタル的な疲れがあったのかなと感じています」

――原口選手と言えば、90分間走り抜く姿が印象的です。14年から筑波大の谷川聡氏と契約を結び、積み上げてきたトレーニングの成果が出ていると感じているようですね。

「それが形として出ているし、成果も感じています。その成果が今になっていきなり出てきたわけではなく、ずっと前から徐々に出始めていますが、まだまだ成長の途中だし、自分の中ではまだ6割くらいだと感じています。自分の良さは走ることや対人の強さなので、そこのクオリティーが上がっていると思うし、やっぱり自分が伸ばすべき部分はそこだなと改めて感じています」

――10月6日に行われたロシアW杯最終予選イラク戦でのゴールは、その持ち味が凝縮されたゴールだったと思います。

「あれは自分の良さが出たゴールでしたね。自陣で相手からボールを奪えましたが、ボールの取り方も良かったし、攻守を切り替えて前に出て行くだけでなく、入っていく位置も良かったと思います。もちろん、(本田)圭佑くんとキヨくん(清武弘嗣)が右サイドを崩してくれたので、その崩しがあったからこそのゴールでした。次のオーストラリア戦のゴールも似たような形でしたが、ともに理想的なゴールだったと思います」

――自分が走ることで、日本の攻撃に推進力が生まれているという実感もあると思います。

「僕のしたいプレーと(バヒド・ハリルホジッチ)監督の要求することが一緒ですからね。だから今、ハリルさんが求めているプレーは、特に僕に合っていると思います。三次予選では相手が引いていたので、その部分が出しにくかったけど、最終予選は相手も前に出てきて最終ラインの裏にスペースが生まれるから、僕の良さも出しやすくなりました」

――今、代表でのプレーはものすごく楽しそうですね。

「楽しいし、充実感があります。今までのサッカー人生の中で一番マッチしている監督かなと思っています。正直、三次予選のときにドン引きした相手に対して、『裏に行け』と言われたときは、『何を言っているんだろう。スペースがないんですけど…』と思っていたけど(笑)、最終予選でそういう状況が生まれ始めて、監督のやりたいサッカーも自分の良さも出ていると感じます」

――90分間戦い抜く姿を見ていると、一番勝利に飢えているのように感じますが。

「目の前の相手にだけは絶対に負けたくないですからね。それはクラブでも代表でも一緒です。そこへのこだわりは皆持っていますが、もしかしたら他の選手よりも、その気持ちは強いかもしれません」

――日本代表のチームメイトが、原口選手のそういう姿を見て、相当な刺激を受けていると話していました。

「そこまで考えてプレーしていないですよ。チームのことは、あまり考えていないので(笑)。僕自身、自分の仕事に集中したいタイプなので、自分の仕事をこなした結果、そういう刺激を与えているならいいですね。でも、僕がガムシャラにプレーできるのも、僕らより上の世代の人たちが視野広く、バランスを保ってくれていたり、チームのことを考えてプレーしてくれているからです」

――ハリルジャパンではボランチでの起用が続いた時期もありました。戸惑いはありませんでしたか。

「あまりなかったですよ。そこで使われるんなら、そこでやるしかないなと思っていたし。もちろん左で出たい気持ちはありましたが、監督の今の評価がボランチなら、『そこで、やるよ』と僕は思っていたし、割り切っていましたね」

――ボランチでも持ち味は出せると考えていましたか。

「出せると思っていたし、ボールを持ち上がるときはそんなに悪くないなと思っていた。ただ、サイドと違ってピッチの中央や低い位置でボールを受けるので、ボールを取られてカウンターを浴びるかもしれないという怖さもちょっとあった。けど、経験を積めばできるかなという感覚は正直なところあったし、やったことがないポジションだったので純粋に面白いなと感じるときもありました。左が一番しっくりくるし、ボランチが向いているかと言われたら、どうなのかは分かりませんが、ボランチでの起用が続けばそこで生きる道を探ろうと思っていましたよ」

褒められたくないし

常に怒られていたいタイプ

――ボランチでの起用もありましたが、16年9月6日に行われたロシアW杯アジア最終予選タイ戦で左サイドで起用されます。

「久し振りに左で使ってもらって、これを逃したら終わりだと思っていました」

――そこまでの覚悟を持って試合に臨んでいたのですか。

「チャンスは1回だけだと思ったし、ここでパッとしなかったら、もうこのポジションでは使われないだろうし、代表にも残れないと感じていた。これが、ラストチャンスだと思ってピッチに立ちましたね」

――ただ、その試合で見事にゴールという結果を残します。

「本当にあのゴールは、僕にとって大きかったですね。あそこでゴールを取れたから、次の試合ではある程度、余裕が生まれたし。タイ戦は本当に自分自身にプレッシャーを掛けて臨んでいたので、そこで結果を残せたのは大きかったと思う」

――今までのサッカー人生でもプレッシャーに打ち勝ってこれたタイプでしょうか。

「好きなんですよね、そういう状況の方が。ギリギリまで追い込まれる状況が好きと言うと、何か気持ち悪いですけど(笑)。でも、気持ち悪い半面、楽しいと思うんですよ、そのヒリヒリ感が。監督にも褒められたくないし、常に怒られていたいタイプです。下手に褒められるのではなく、『お前、次の試合でダメだったら先発から外すからな』と言われて、常にプレッシャーを掛けられ続けたい感じです」

――褒められると?

「サッカー界は、本当に3日後には状況が変わります。仮にヘルタで、『ゲンキ、今日はメチャクチャ良かったぞ』と言われても、次の試合で良いパフォーマンスを見せられなければ、すぐに外されてしまう。だから、下手に褒められるくらいなら、何も言われたくない。一試合で簡単に状況が変わると思っているので、プレッシャーを掛けられていた方が常に危機感を持って臨めるので、僕はそっちの方がいいですね」

――ただ、ヘルタのパル・ダルダイ監督も日本代表のハリルホジッチ監督も、原口選手が好パフォーマンスを見せれば称賛の言葉を送りますよね。

「うーん。何て答えていいか分からないですね、そこは(笑)。でも継続して使ってもらっているので、監督からの信頼は感じています。継続して使ってもらうには、やっぱり信頼が必要だと思っているので。まずは試合に出ることを考えて、ピッチに立てば監督の要求を一番最初にこなそうとして、二番目に自分の良さを出すにはどうすればいいかを考えています。そういう意味では、監督にとって使いやすい選手になってこれているのかなとは感じますね」

――タイ戦のゴールで余裕が生まれたということですが、その後のイラク戦、オーストラリア戦、サウジアラビア戦と最終予選で史上初の4試合連続ゴールを記録します。

「正直な話をすれば、良いプレーができるという確信はあったので、チャンスさえもらえれば、できると思っていました。できるか、できないか分からない部分は、点が取れるか、取れないかというところだけ。どう考えてもブンデスで対戦している相手よりも、最終予選の相手はレベル的には落ちると思うので、ヘルタでプレーしているときよりも良い状況で仕掛けられることが多いし、そういう意味ではやれないわけはないと思っていた。ただ、最後のところで入るか、入らないかは自信がない部分もありました」

――以前も「フィニッシュの部分だけ自信がない」と話していました。

「まさに、そこだけでした。フィニッシュがどうなるか。そこに関しては今も自信はありません。本当にゴールって分からないものなんですよ。水物と言ってしまえば、それで終わりかも知れないけど、本当に取れるときは取れるし、取れないときは取れない。そこばっかりは、僕一人では取れないし、チーム状況にも左右されますからね」

――では、「ゴールを取る秘訣を教えて下さい」と聞かれても。

「そこは本当に分からないですよ。一つひとつの準備をしっかりして、ゴールの可能性を高めることしか、僕自身にはできないと思っています。細かいことを一つひとつ、それが本当に意味があるのか疑問に思うこともあるけど、それをやり続けるしかありません」

――ただ、結果を残し続けることで日本代表の「新エース」と呼ばれることも増えてきたと思います。

「そういうタイプではないんですけどね。取れないときは取れないし、たまたま4試合連続で取れたという感覚なんで、僕的には。もちろん取るための努力はしているけど、エースという感じではないと思う。チームが勝つための一つの駒にはなれると思うので、僕は駒の一つでいいですよ(笑)」

――世代交代が徐々に進んでいる日本代表を引っ張っていくという気持ちは?

「そこまで考える余裕がないんですよ、本当に(笑)。自分の仕事に集中することで良いパフォーマンスが出せるし、それが結果的にチームのためになるはずです。今は、それでいいかなと思っています。周囲では代表の世代交代のことも言われていますが、そこも気にならないですね。別に18歳が試合に出ようが、35歳が試合に出ようが、日本のためになるのなら誰が出てもいいと思っています」

――着実な成長を遂げていると思いますが、今考えている理想の選手像を教えてください。

「今の仕事量を減らしたくないです。この仕事量を減らさずに、ヨーロッパでもっと数字を出す。それができたら、もっと大きなクラブに行けるはずだし、仕事量を減らして数字を出しても上には行けないと思っています。攻撃も守備も、チャンスメイクもフィニッシュも、ドリブルもパスも全部自分の仕事だと思っているので、今の仕事量も多いと思うけど、その量を減らさずにどれだけの結果を残せるか。多分、大変なんでしょうけど(笑)、仕事量を減らさずに数字を出せるようになりたいですね」

――最後に17年はどういう1年にしたいか教えてください。

「変わらないですよ、今までと。自分のペースを乱したくないし、急激に成長スピードを上げる必要もないと考えているので、確実に一歩先に行けるような1年にしたいですね。もちろん成長スピードが上がってくれたら嬉しいし、上がるに越したことはないけど、そんなに簡単に上がるものではないですからね。そういう積み重ねを続けて成長し、18年のW杯を迎えられるようにしたい。僕自身にとっても初めてのW杯になるし、一つの大きな目標であることは間違いないので、そこまでにフィジカル的に100パーセントの準備をして臨めるようにしていきます」

(取材・文 折戸岳彦)