世界有数の人権侵害国の外交官はどんな想いで働いているのか。普段知りえない北朝鮮外交官の素顔を、韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英公使が韓国紙に明かした。

1993年から昨年7月の亡命直前まで外交の一線にいたテ氏は現在、韓国の情報機関・国家情報院傘下のシンクタンクである国家安保戦略研究院の諮問委員となり、北朝鮮の体制批判を積極的に行っている。そのいくつかは本欄でも紹介した通りだ。

(参考記事:北朝鮮で「エリート学生を大量処刑」か…亡命外交官が明かした新情報

家族が人質に

テ氏が明かす秘話は興味深いものばかりなのだが、北朝鮮の「外交官ウラ話」もそのひとつだ。韓国紙のインタビューの中から、いくつかのエピソードを拾い上げてみよう。

日本などでは「秘密の経費」を使い放題と思われがちな外交官だが、外貨獲得に苦しむ北朝鮮ではそうもいかないようだ。テ氏は昨年12月27日にあった合同記者会見の席で「駐在国によって異なるが、大使は月給1000〜1100ドル(約11万3000円〜12万4000円)、公使は700〜800ドル(約8万〜9万円)程度」と明かしている。

物価の高い先進国で、外交官の体面を保ちながら家族を養うのは難しい額だ。そのため、「大使館で集団生活を行い光熱費を浮かせることでしのいでいる」という。それでも足りないため、外交特権を悪用したきわどい「副業」で生計を補う。これには後述する本国への「外貨上納ノルマ」も関連している。

テ氏は北朝鮮外交官の悲哀について「国際的な行事があっても胸に金日成、金正日バッジをつけた我々には、誰も声をかけてこない」と明かしている。せっかく声をかけてきた他国の外交官も「そのバッジは誰だ、張成沢(チャン・ソンテク、2013年に処刑された金正恩氏の叔父)の粛清は本当か」などの答えたくもない質問を浴びせてくるだけだという。

テ氏はまた、「うつ病になる外交官やその妻が多い」と語っている。これは北朝鮮当局が外交官の亡命を恐れ、家族のうち1人を「人質」として国に残すよう強いているためだ。前述のように外交官の給料は多くないため、本国に仕送りもできず「バナナを食べても残してきた家族が気になる」とテ氏は語る。肩身の狭いことと合わせて強いストレスにさらされていることが分かる。

こうした事態を避けようと「30代の若い外交官の10人に9人は子どもを一人だけ作る」という。2人の場合は否応なく1人を残さなければならないからだ。テ氏には妻との間に2人の息子がおり、幸運にも全員揃って韓国入りしたとされているが、実は娘が北朝鮮に残っているという噂もある。

それでも「特別」な存在

テ氏は在外公館には「外貨の上納ノルマ」は無いと昨年12月27日の合同記者会見の席で明かしている。ただ、北朝鮮の外務省事業庁では、在外公館別に平壌に送った外貨の額を評価基準として論功行賞を行っており、これが外交官のキャリアに影響を与えるというから、事実上のノルマと言って良いだろう。

在外公館には貿易省から派遣されている経済官吏もおり、こうした人物が主に外貨稼ぎにあたるのだそうだ。ただ現実として、外貨稼ぎの過程で逮捕・追放された北朝鮮外交官も多い。ロンドンなどの重要都市においてはともかく、アジアやアフリカの小国の在外公館では、総出で外貨を稼ぎ、せっせと金正恩氏に送っているものと見られる。

テ氏は、北朝鮮の外交の特徴として「あらゆる世論の制約を受けないところ」を挙げる。北朝鮮では、外交官の不手際で国益が損なわれたとか、対面が傷ついたとか、そのような報道がなされることはない。問われるのは過程ではなく、結果であるということだ。だからこそ、北朝鮮の外交官は「金正日と金正恩の指示に従い崖っぷちまで行くことができる」という。

こうしたミッションをこなす外交官の地位は特別だとも明かす。「金正日時代、外交官の中で粛清された人物は誰もいない。金正恩も他の部署は思い通りに扱うが、外交官だけは別だ」というのだ。その理由についてテ氏は、正恩氏が幼いころから海外で暮らしたため、外交官と身近に接してきたことが大きいと分析している。