株式会社ACRO・石橋寧社長

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 私が主宰している経営戦略策定道場「リーダーズブートキャンプ」の勉強会に、株式会社ACRO(アクロ)石橋寧(やすし)社長においでいただき、お話をうかがった。ACROは化粧品メーカーで、ブランドの「THREE(スリー)」がよく知られている。今回は石橋社長が展開してきた海外進出戦略に焦点をあてて報告する。

●天然素材の活用で女性からの支持

 日本の化粧品業界の規模は、出荷額で1兆5000億円強(2015年、経済産業省の生産動態統計)である。また、化粧品製造販売業が3,624社あるといわれる(15年3月末現在、厚生労働省発表)。化粧品の場合、製造販売する会社は複数のブランドを有することが多いので、化粧品ブランドの総数は数千以上ということになる。

 そんな群雄割拠の業界で、ACROは09年創業の新興ともいえる化粧品メーカーだ。しかし同社が展開しているブランド「THREE」の知名度は近年突出してきた。THREEの特徴は、植物由来を主として国産原料にこだわっている点で、ナチュラル志向の女性に人気がある化粧品ブランドである。石橋社長がそのストーリーを語ってくれた。

「『THREE』というのは、数字の3です。プラスとマイナス、陰と陽のように2つだけの極に3つ目の概念を入れよう、と思い名づけました。形を考えても三角形は安定していますし、3はラッキーナンバーでもあります」(石橋氏、以下同)

「『水と油』が主体の化粧品素材の油に『茶のオイル:ティーシールドオイル』を採用しました。また、ブランドを発進するに当たって先行他社ブランドとは競合しないことを目指しました。『競合と同じ土俵に上がるな』ということです」

 その結果、国産素材の植物成分を取り入れたことが、THREE製品のひとつの特徴として打ち出された。今冬でいえば、柚子の精油を初めて化粧品に使った「THREE アロマハンドクリームY」などのシリーズだ。

「製品化する際に社内で徹底させたのは『半歩先を行け』ということです」

 差別化を強調しすぎると、現今にある消費者の認識から乖離してしまい受け入れられない、という社長の判断だ。

 09年に船出した同社だったが、その前年にリーマンショックがあったことや、あえてユニークなポジショニングで市場参入したことから、当初の売れ行きは今ひとつだった。11年には東日本大震災による市況の落ち込みもあった。

 しかし、その天然由来成分を従来の化学素材とうまく融合したスキンケア製品が次第に支持を受けるようになった。愛用するようになった女優やタレントなどが自らのSNSで発信、推奨したりして知名度が上がってきたのである。著名な女性芸能人の多くが支持してくれた。

 女性誌「VOCE(ヴォーチェ)」(講談社)が毎年発表している「VOCEベストコスメ」賞は、消費者に大きな影響力を持つ賞である。13年の同賞のスキンケア編でTHREEの製品が6点も入賞した。実は11年にも先行して同賞スキンケア編で3点が同年入賞(上期と下期に顕彰がある)していて話題を呼んでいた。

「今年購入されたお客様の半分以上が20代でした」

 若い女性にも手が届く上級化粧品として認知されている。

●最初から海外展開を目指していた

 石橋社長は創業社長だがオーナー社長ではない。ACROは化粧品大手、ポーラ・オルビスホールディングスの子会社として設立されたのだ。石橋社長はそれまでカネボウ化粧品に勤務していて、「RMK」(アール・エム・ケー)、「SUQQU」(スック)などのブランドを立ち上げていた。ところがカネボウの化粧品事業部が06年に花王に売却されたことを契機に、転進を考え始めた。

「ポーラ・オルビスの鈴木郷史社長が、『資金は出すが口は出さない、好きなようにブランドを立ち上げてほしい』と言ってくださった」

 意気に感じた、ということだったのだろう。

 設立以来THREEは急成長し、ポーラ・オルビスグループのなかでブランド・ポートフォリオの拡充と成長に貢献してきた。公開会社ではないので財務内容は公表されていないが、売上高は毎年2ケタ増という勢いで伸び、14年はファンデーションの大ヒットが寄与して前期比5割増、15年も6割増を記録したと報じられている。

「おかげさまで既存店の売り上げもここ2年間対前年で5割増しです」

 快進撃を続けてきているACROのビジネス構成でユニークなのは、店舗展開の構成である。当初からデパートでの対面販売ブランドとして参入した。

「最初の店は伊勢丹でした。現在では、国内は39店、海外は28店、全部がアジアです」

 創業7年目のB to C企業としては海外比率が大きい。

「創業した当初から海外展開を考えていました。というより、ニューヨークやロンドンで通用する日本の化粧品ブランドにしよう、と思っていたのです」

 石橋社長は世界を目指してきた。

「日本の製品で世界一のものは多い。車がそうだし、電気製品の多くもそうだった。また世界中を歩いてみて、東京が文化的に世界最大の都市だと思います」

 しかし、ファッション関係の業界で世界を目指しているのは、石橋社長に言わせるとファーストリテイリングぐらいだという。

「和食ブームに見られるように、日本文化が世界を席巻する時代がやってくると思うんですね」

●きっかけはあちらから

 とはいえ、ACROの海外進出の歴史は始まったばかりだ。

「12年の春に、トルコのイスタンブールで化粧品に関する世界コンファレンスがあったんですね。そこで私がTHREEを紹介する機会がありました」

 THREE製品に共通なシンプルなガラス容器(他社のブランドは樹脂容器)や、国産の植物由来の精油からくる癒される香りなどが高く評価されたという。そのコンファレンスの後、進出を要請する引き合いが世界中から殺到したという。

「でも結局、縁と熱心さが決め手だったんでしょうか」

 タイの現代理店が一番熱心で、来日もしてくれたこともあり、石橋社長のバンコク視察を強く要請した、というのである。

「今ではバンコクだけで17のショップを展開してくれています。思いがけなかったことは、タイでの客単価が高い、ということなんですね。なんと日本での客単価の倍の売り上げがあります。というのは、多くのショップがデパートの中にあるのですが、タイではデパートに来るのは富裕層だけというか、収入により買い物をするショップが分かれているのです」

 所得水準の平均からいえば高くはないはずの市場で、うまく滑り出せた。

「それから面白いのは、SNSがタイでは日本より進んでいます。その結果、口コミのマーケティング効果が高く、THREEの商品特性にぴったり合致したのです」

●アジアから世界へ

「アジアのスピードはものすごいものがあります」

 タイでは17年にチェンマイにショップが出るという。

「台湾に代理店を決めたら、いきなり15年に5店舗出してくれました。マレーシアでは16年4月に1号店が出たと思ったら、今では3店舗を運営してくれています。香港では17年の9月にコーズウェイベイのSOGOデパートに出ます」

 シンガポールには17年度に出店予定で、18年にはオーチャード通りに3店体制にするという。

「海外では代理店に任せます」

 ACROとして直接進出はまだ行っていない、という。また現地製造ではなく、製品輸出モデルだ。

「国産材料、日本文化、そういうものとして受け入れてもらっています」

 ただし、中国市場だけは日本からの製品輸出モデルとは制度的に合わないところがあり、見送っているという。

 66歳となった創業経営者だが、創業暦は10年にも満たない。THREEの世界展開をどこまで突き詰めていけるのだろうか。大きな可能性が世界に広がっている構造だ。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)