たかが、傘1本。されど、傘1本。

その傘に、男の哲学が宿る。

英国製の紳士淑女のための傘、フォックス・アンブレラ。英国王室御用達で約150年の伝統を持つ、細く巻け、開けている時も美しい、細身傘の代名詞だ。

そんなフォックス・アンブレラを愛する男、克典42歳。傘から垣間見える人間性と、そこで繰り広げられる人間模様。ミステリアスな克典を、傘を通じて様々な女性が振り返る。

これまでに、克典が昔恋をした年上のお姉さん梨香子、結婚願望がない克典に嫌気がさして別れた亜美、後輩の涼介を紹介した。今回の語り手は...




人との出会いは全てタイミング


克典さんと出会ったのは約半年前でした。32歳になった私は、仕事に生きるのか、結婚していわゆる一般的な幸せを手に入れるのかですごく悩んでいました。

仕事も頑張りたいけれど、忙しくなればなる程結婚から遠のいていく恐怖。仕事が増え、収入も上がって責任も重くなっていくのは嬉しい反面、その分恋愛する気は失せて行く一方で。

今から振り返れば、どちらも中途半端だったんですよね。でも自分の幸せがどこにあるのか分からず、どうすればいいのか一人で悶々と悩んでいました。

一人暮らしをしている方なら分かると思いますが、物凄く仕事を頑張って、疲れ果てて帰宅した時に誰もいない部屋の扉を開ける、あの寂しさと虚しさ。どれだけ仕事を頑張っても、誰も待っていてくれる人はいない。そこにあるのは冷たい部屋の空気。

仕事と恋愛、両方手に入れたい、と思うのは女のワガママなのかな...どちらも最高に幸せな結果を残したいと思いながらも、ただ焦る気持ちだけが先走り、空回りしていた時期でした。

そんな時に麻布十番の『月光浴』のカウンターで出会ったのが克典さんでした。そしてこの出会いが、私の人生の価値観を大きく変えてくれることになりました。


結婚かキャリアかで悩む32歳。SNSは自慢と敗北感のオンパレード?


他人のSNSと自分の現実世界を比較して落ち込む日々


当時の私は結婚して、旦那の稼ぎで悠々自適に暮らしている主婦の子が羨ましいと思っていました。仕事で失敗しても、どうせ旦那の稼ぎがあるから関係ない。もしくは専業主婦なんて気楽でいいよね、と内心どこかで馬鹿にしながら、嫉妬していました。

婚約指輪に結婚式、赤ちゃんの写真や、家族旅行など、30歳前後の女友達のFacebookやInstagramはこれでもか!というくらいに幸せの押し売りで。一方の自分は独り身で、仕事終わりにそんな写真を見るのが辛くて辛くて...

でもそうかと思うと、バリバリ仕事をし、成功している友人に会うと“やっぱり私は結婚がゴールではなくて、仕事で成功するのがゴールなんだ”って思ったり。ブレブレですよね。自分の中で軸が何もなかったんです。

目に入るもの、知り合いの幸せ、全てが羨ましく見えて。本当は、幸せの形やゴールなんて人それぞれなのに、とにかく他人が羨ましくて仕方なかったんです。




No.1じゃなくてオンリーワンでいい


克典さんと初めて出会った日は、これ見よがしのハリーウィンストンの婚約指輪の写真と共に“大好きな彼からポロポーズされました♡”という女友達のInstagramを見て心が荒んでいた日でした。

「ほら、またこういう投稿。こんな人の幸せばかり毎日見たくないし、私も結婚したい!だけど仕事も諦めたくないよぉ...」

一緒に飲んでいた女友達曰く、そんな風にバーで叫んでいたそうです。酔っていたとは言え、お恥ずかしい話ですよね...そんな時、隣にいた克典さんから話かけられたんです。

「あの傘、フォックス・アンブレラですよね?素敵な傘を持っていますね。」

その日は1日中雨が降っていて。私がお店に入る時に持っていた傘を克典さんは見ていたみたいですね。話しかけられた時は正直、驚きました。人の結婚を妬んでいる心が小さいアラサー女子に対して、何か言われるのかと思って。

「えぇ...そうです。でも、よく気がつきましたね。」

「僕も好きなので。知ってますか?フォックス・アンブレラって、一個一個職人さんの手作りだから、柄の部分がその人の個性によって微妙に違うんですよ。唯一無二の風合いがあって、美しいですよね。」

まるで子供を見るような優しい眼差しで微笑んでくれた克典さんに、その一瞬で心を奪われました。

この傘を見ただけで、フォックス・アンブレラだと一目で見抜ける男性は中々のセンスの持ち主。そして何より、遠回しに克典さんが“他人は他人、自分は自分でいいんだよ”、と伝えてくれている気がしました。


克典の言葉に救われた一方で、意外な展開が待ち受けていた...


キッカケは、1本の傘から始まることもある


結局、その後女友達が先に帰ってしまったので、何となくそのまま二人で飲むことに。

そして25時を回り一緒に外へ出ると、お店だと暗くて良く見えなかった克典さんの顔が通り過ぎる車のヘッドランプに照らされてハッキリ見えて。物凄く奥が深くて物憂げな、漆黒の瞳が印象的でした。

そして克典さんの手元を見ると、克典さんもフォックス・アンブレラの傘を持っていたんです。それには思わず二人で笑ってしまいました。

「もう一軒、行きますか?」

あの日の雨で、私は何か吹っ切れた気がします。そして克典さんが持っていた傘越しに見えた東京の街が、キラキラと輝いて見えました。


幸せは自分の心が決めるもの


それからですか?実はこの後、克典さんと食事に行く予定です。そうなんです、あれから暫くして何度か会うようになり、今はお付き合いさせて頂いています。




克典さんは私を温かく受け入れてくれるし、一緒にいると心から安らげる、大切な存在となりました。今でも出会った時から変わらず、優しい眼差しを向けてくれます。

今は、素敵な彼とプライドを持って取り組んでいる仕事を両手に抱えて毎日走り回っています。どっちかなんて、選ばなくてもいい。欲張ってもいいんだって。

あと、SNSを見て他人の幸せに振り回されることもなくなりました。自分は自分で、今が最高に幸せだと胸を張って言えるようになったから。

【本日の対談相手】

名前:千夏
年齢:32歳
職業:雑誌編集者
克典と出会った時期:半年前

▶︎Next:1月25日水曜日 最終回更新予定
最終回は、遂に克典本人が登場。彼が語る、自分自身の過去と思いとは...

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【これまでのフォックス・アンブレラの男】
Vol.1:上質な傘を持つ男が放つ、ビニール傘男にはない残り香
Vol.2:好きになってはいけない相手...品川駅に行く度に思い出す9歳年上の上司
Vol.3:“年上の綺麗なお姉さん”が年下の25歳男に教えた、一流になる秘訣
Vol.4:店に傘を忘れたことがきっかけで。深みにハマる、男女の仲
Vol.5:恋に破れ自暴自棄な時にもらった、永遠に忘れられないクリスマスプレゼントの思い出
Vol.6:一つの傘の下で抱き合う男女。浮気された若い男は、哀愁と色気を漂わせて、強くなる
Vol.7:「どうしても、30歳までに結婚したかった。」結婚願望のない男を見捨てる女たち
Vol.8:窮地に立たされても、品格は失わない。男が背中で教えた威厳に、惹かれた男