サムスン電子副会長の李在鎔氏(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の疑惑に関連して、特別検察がサムスン電子副会長の李在鎔(イ・ジェヨン)氏の逮捕状を裁判所に請求した。事実上、サムスングループの経営トップである李氏の容疑は、朴大統領の親友である崔順実(チェ・スンシル)被告への430億ウォン(3642万ドル)の賄賂支払いのほか、横領、偽証というものだ。

 昨年来、韓国を揺るがす崔被告の国政介入事件では、すでに朴大統領の弾劾訴追案が可決されているが、財閥トップの逮捕状が請求されるのは初めてだ。経済評論家の渡邉哲也氏は、「これで、以前から苦境に立たされているサムスングループの瓦解が、さらに進むのではないだろうか」と語る。

「サムスンを巨大企業に成長させた会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏は、健康問題でリーダーシップをとることができない。そのため、同グループは相続や事業継承の問題を抱えているわけだが、今回の容疑はその継承問題にかかわるものであり、グループ内の事業継承計画そのものが頓挫する可能性がある。

 そもそも、サムスングループは韓国のGDP(国内総生産)の17%を占める巨大財閥であり、『サムスンが滅べば国が滅びる』という構図になっている。また、韓国経済は10大財閥がGDPの約70%を占める財閥の天下である。

 日本の財閥企業との大きな違いは、循環出資やグループ企業からの融資を通じて、創業者一族がグループを支配していることで、今も世襲制に近い企業経営が行われている点にある。しかし、このままサムスンにメスが入れば、同グループの一族支配が終わるとともに、“サムスン帝国”が崩壊を始める可能性もあるだろう」(渡邉氏)

●貿易がストップ、韓国経済が麻痺する可能性も

 そもそも、今回の疑惑では主要財閥のほぼすべての名が挙がっており、サムスンはその一端にすぎない。そのため、渡邉氏は「サムスンはスケープゴートにされたにすぎず、これを端緒に、議論は財閥解体に進む可能性が高い」と見る。

「韓国の生命保険最大手はサムスン生命。同社にも負の影響が連鎖すれば、保険業界は壊滅的になる。

 また、韓国では以前から、貿易決済に使われる特殊銀行(中小企業銀行、韓国産業銀行、韓国輸出入銀行)において、不振が続く造船や船舶への貸付金額が大きく、それが不良債権に評価替えされれば自己資本不足に陥る可能性もある。そうなると、貿易に必要な信用状が発行できなくなり、韓国はモノを輸入できない状態になる。韓国の産業構造は加工貿易なので、モノの輸入がストップすれば輸出産品をつくることができなくなり、在庫限りで生産終了となってしまう。

 現在、日本の銀行が与信や融資枠、債権の引き受けなどを通じて韓国の信用を担保しているが、慰安婦問題などによって、その支えも失うことになれば、韓国経済は麻痺することになりかねない」(同)

●日米の「韓国切り捨て」が本格化か

 また、日本企業への影響については、以下のような見解を示す。

「半導体生産機械メーカーや基礎材料メーカーなど、サムスンとの取引や関係性が大きい企業は少なからずダメージを受けるだろうし、別の取引先を見つける必要があるかもしれない。それは、逆にいえば、リスクマネジメントとして早い段階で『韓国を切り捨てる』という選択肢もあるということだろう。

 そもそも、朴大統領の弾劾訴追案は昨年12月9日に可決されており、それから180日以内に憲法裁判所によって弾劾の可否が判断される。そして、弾劾が決定しても、次の大統領が決まるまでは2カ月程度かかる。つまり、少なくとも夏前までは現在の混乱が続くことになり、政治的混迷に一層の拍車がかかるだろう。同時に、選挙目当てのポピュリズムが、財閥解体やその後の国家の破綻を導く可能性もある。

 そして、新政権が誕生したとしても、それが安定政権になる保証はまったくないし、日米との友好な関係を維持できるという保証もない。だから、今は日本もアメリカも『あまり韓国に関与したくない』というのが本音なのだ」(同)

 国家が混乱しても、周辺国が放置して関わりたくない国。それが、今の韓国であるといえる。
(文=編集部)